Spyce Media LLC 代表 岡野 健将
先月、アメリカにおいて詐欺容疑などで逮捕された水原元通訳の事件をドラマ化する話が出た。日本ではほぼ全ての人がネガティブな反応をしめしました。アメリカに限らず外国では社会的に影響力があったり重要な事件が発生するとそれを題材にドラマ化したり、ドキュメンタリーとして映像化する事がよくあります。
BBCによるジャニーズに関する性被害事件を取り上げた「Predator The Secret Scandal of J-Pop」はその放送後、日本のメディアが触れて来なかった問題を白日のもとに引きずり出しました。
そのBBCは、先月韓国のK─Popアイドルの舞台裏を暴くドキュメンタリー番組「Burning Sun: Exposing the secret K-pop chat groups」を公開し物議をかもしています。こちらも人気のK─Popスターの性犯罪に絡む話でかなり深くまで調べ上げています。
先月には、昨年の10月7日に発生したハマスによるイスラエル襲撃に関しての密着ドキュメンタリー「Screams Before Silence」が公開されて話題になりました。製作者は、フェイスブックの元COO、シェリル・サンドバーグ。あの日実際に何が起こったのか、ニュースでは見えない実体を伝えたかったと語っています。
また先日フランスで開催された第77回カンヌ国際映画祭で若い頃のトランプ前米大統領を描いた映画「The Apprentice」が上映され、8分間にも及ぶスタンディングオベーションを受けました。監督はイラン系デンマーク人のアリ・アッバシ。作品内ではトランプ氏の功罪合わせた人生が描かれています。しかしカンヌで高い評価を受けたにも関わらず、アメリカでの配給会社が決まっていません。理由はトランプ氏が再選された場合の報復を恐れているからで、大統領選への影響を考慮してではありません。
世界ではこの様な物議を醸す微妙な題材を取り上げる映像作品がたくさんあり、製作者も放送局も投資家も皆それぞれにリスクを取っても伝えなければならないものがある、という使命感や熱い想いを持っています。これがジャーナリズムであり、報道、または調査報道と呼ばれるものです。
メディアが社会的責任をきっちり果たし、伝えるべき事を国民に伝える。そうすることで国民の社会への関心も高まり、問題に対しての当事者意識も高まっていく。その熱量がまた次の作品作りへと製作者を後押しする。
その結果、どんなことにでも自分の意見を持った人が育ち、何事に対しても自分の頭で考え、発言する人が増える。そこで他人の意見を聞き、自分の意見をぶつけ合う事で切磋琢磨(せっさたくま)し、異文化や、思想や社会背景の違う人とも理解しあい共存出来る社会が生まれる。
未熟なメディアとそれを「良し」とする視聴者である国民は、最終的にそのツケを払う事になることをもっと真剣に考えてもらいたいものだ。