【わかるニュース】「こども家庭庁」で何が変わる? 今国会で成立見通し


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 開催中の通常国会で、来春をめどに「こども家庭庁」の新設と、「子ども基本法」の制定が決まりそうだ。長く続いている少子化に歯止めを掛けるのが目的だ。

 日本の出生率の低下は1970年代から40年以上続いている。昨年は6年連続最少を更新する84万2897人(前年比マイナス3.4%)で、この年は日本の総人口が60万人以上も一気に減少。18歳以下の未成年人口は41年連続で減っており、総人口に占める割合は11.7%程度でしかない。

 「出生率が死亡率を上まわるような変化がない限り、日本はいずれ消滅する」とテスラ社のイーロン・マスクCEOはツイッターでズバリ警告している。少子化ストップへ「こども家庭庁」は切り札になれるのか? 詳しく見ていこう。

少子化STOPへ 母らと子を一括サポート

「おはなし」に聞き入る親子

 法案によると「こども家庭庁」の機能は①虐待防止と②貧困対策。この2つを両輪に、大人の児童関連犯罪歴をチェックし証明する「日本版DBS制度」も受け持つ予定だ。

 児童虐待に関する相談件数は30年間増え続け、2020年度には20万件を突破。平均すると、毎日550件の相談が寄せられている計算だ。関係省庁の連絡会の資料では、03~16年の14年間に727人の子どもが虐待死し、514人が親などの心中で殺されている。自殺者も21年に小中高生で473人と、過去最悪だった20年の499人から高止まりしたままだ。

根拠の「子ども基本法」って?

 国際的な「子どもの権利条約」を日本が批准して28年。ようやくその理念を裏付ける法律ができる。「条約」は18歳未満でも権利を持つ主体を〝子ども自身〟と定め、 「生きる・育つ・守られる・参加する」という4つの権利を掲げ、子どもは「最善の利益を得ることができ・意見を表明でき・差別されないこと」と明記されている。

 こうした理念に添って16年に児童福祉法が改正されたが、今回の基本法が制定されたことで、官僚も自治体も従う義務が生じる。同様の理念法には女性の権利を明確にした「男女共同参画社会基本法」があり、女性政策と同じように各省庁にまたがった子ども政策に対し、横串を打つ効果がある。

最大の敵は縦割り行政

 「こども家庭庁」は官邸直属の内閣府外局で、事務方でトップの長官をはじめ300人体制を予定している。松野官房長官は「各省庁より一段高い立場から政府部内の総合調整を行う」と高らかに宣言した。

 しかし、実際そうは問屋が卸さないのが官僚の世界。子どもの関係省庁は、厚労省(保育園・学童保育・乳幼児健診・予防接種・障害児支援・児童相談所)、文科省(幼稚園学校での教育と健診・学内いじめ対策・社会体育)、内閣府(認定こども園・子育て支援・少子化対策・配偶者暴力相談)、警察庁(少年犯罪・児童虐待犯罪)、法務省(少年法・児童福祉法)、外務省(子どもに関する条約)などと気が遠くなるほど多い。

 官僚は出身省庁が全て。例えば昨年9月に鳴り物入りで発足したデジタル庁は、官僚同士のさや当てが常態化し、せっかく採用した民間登用人材が次々に退職。機能マヒに陥っている。

 官僚は常に「総論賛成各論反対」で、出身官庁の予算や仕組みに手を入れられることを極端に嫌う。既得権を死守するために、業界団体と族議員を使って邪魔をする。

 かつて幼稚園と保育所の統合を目指した幼保一元化構想は、幼稚園を所管する文科省と、保育所を所管する厚労省が共に反発。結局、内閣府は認定こども園を抱えてしまうというオチになり、一元化どころか三重行政に陥ったことは記憶に新しい。

 今回も文科省は「義務教育」の部分で徹底抗戦。世界標準の中高一貫教育の流れに激しく抵抗し、飛び級や自由な時間割選択などの個性を生かした教育への移行を押しとどめた。

 児童生徒の順位化に熱心なのも文科省で、結果として国連機関ユニセフの子どもの幸福度調査で日本はOECD先進38カ国中37位と低迷している。

課題は財源とネーミング

 積極的な取り組みに欠かせないのが財源だが、今のところ安定財源は見当たらない。日本の子ども関連支出は17年でGDP比1.79%。OECD平均2.34%より低く、仏3.6%、英3.23%、独3.17%よりかなり低い。せめて3%程度まで上げて児童手当などの現金給付と幼児教育などの現物給付の双方を充実させたいが、財源は赤字国債頼み。各省庁の既存財源を引きはがすと激しく抵抗され、高齢者の社会保障を削ると選挙に直接響くので身動きが取れない。

 立案段階で「こども庁」だったのが途中から「こども家庭庁」のネーミングになったのも心配だ。 日本は伝統的に「親の幸せが子どもの幸せ」という考えから、親権が重要視されてきた。一昔前まで「愛のムチ」などと言って家庭や学校での体罰も容認されてきた。背景には「子どもは親や大人の言う事を聞いて当然」「わがまま、生意気を放置できない」という家族観、社会常識がまかり通ってきた。少子化対策の遅れも、古い家族観に基づいて「女性の未婚晩婚化が元凶」「子育ては母親の分担」という意識が支配的だったからだ。

もう機会は残り少ない

 今後は出産・育児に関して「自己責任」論を振りかざしてはならない。生みたい女性が安心して出産できる社会を作り、「生んでくれてありがとう」の感謝を。生まれた子どもはその瞬間から1個の人格として尊重し、親の隷属物としてはならない。

 思い出してみよう。太平洋戦争終戦後の一大ベビーブームは日本に膨大な消費を生み出し戦後復興の原動力となり、高度経済成長へと結びついた。子育てほど大きな消費を生み出す国のパワーはほかに存在しないと知ろう。

■こども家庭庁の機能

育成部門妊娠・出産・子育て支援・母子保健▽幼稚園・保育園・こども園の基本指針策定▽子どもの居場所確保▽子どもの死亡原因分析。
支援部門虐待・貧困・不登校・中退などの子どもと家庭を支援▽ヤングケアラー(家族などの介護を担わされている子ども)解決▽独り親支援▽障害児支援。
企画立案総合調整各省庁にまたがる問題の連携と調整の司令塔。
その結果▼
子どもに関する縦割り行政を一元化し、抜けや漏れなく迅速に対応。
妊娠期から養育期の母親と養育者をサポート。子どもは小児期をへて成人するまでサポート。
安心して子どもを生み育てられる環境を作る。とかなり期待できるうたい文句だ。