【わかるニュース】「悪いインフレ」に陥る日本の危機 値上げ大合唱の元凶は?


▲レギュラーガソリン価格が170円に迫る大阪市都島区友渕町2丁目のENEOS Dr.Driveセルフ高倉町SS=2月8日

 オミクロン株報道に隠れるように昨年末からここ数カ月、身の回りで値上げラッシュが続いている。物価が値上がりすることを「インフレ」と言うが、そういえば日銀の黒田総裁は「2%のインフレ目標」をずっと掲げ続けている。収入が伸びない中で、物価だけが上がっている状況だけど、私たちの生活経済はホントに豊かになるのか?

 日本銀行が昨年12月に実施した「消費意識アンケート」によると、77%の人々が「1年前と比べ物価が上がった」と感じているようだ。一般的には物価が上がれば金利も上昇するはず。人々は「値上がりする前に」と活発に動いてお金を使うからだ。ところが日銀は相変わらずのジャブジャブ金融緩和を続けているから、欧米との金利差は開くばかり。投資家は金利の高いドルなどの通貨へと動き、為替レートで円安が加速している。

 日銀の黒田総裁といえば、安倍元首相と二人三脚で〝円安とインフレ〟をベースにしたアベノミクスを推し進めてきた人。中身は「円安にして自動車などの輸出産業に儲けてもらい、その産業が賃上げすることで、インフレへ誘導してもらう」だが、これが思惑違い。日本は石油や建材、食品までを輸入に頼っているから、コロナが癒えて急速に国同士で原材料の奪い合いになると、円の価値が低ければ奪い合いに勝てない。

 岸田政権は「新しい資本主義」を旗頭に、成長と分配の好循環による〝令和の所得倍増〟をキャッチフレーズにしているが(最近は言わなくなったが…)、それは賃上げが実現されてこそ。賃上げがないまま物価が上昇することは「スタグフレーション」と呼ばれる〝悪いインフレ〟の典型だ。『円安・株安・債券安』の三重苦のままでは日本の再浮上は見通せない。アベノミクス失敗による長年の経済力低下をまず認め〝正しいインフレ〟へとかじを切らないと次の一手を繰り出せないが、7月の参院選まで党内の波風を避けたいから政策が後手に回っている。

 値上げが襲うまでの日本を過去、現在の流れでざっくりと説明してみたが、次ページでは、値上がりが顕著なガソリン、食品、建築資材の原因を探ってみよう。


ガソリン、食品、木材 なぜ値上がりしているの?

 ガソリン高騰にはじまり、食卓に関係するあらゆる原材料、加工食品がジワジワ。さらにホームセンターの木材コーナーでは、250円程度だったDIYに便利な木材が400円近くに値上がりしているのを実感できるなど建築資材も高騰。金属の価格も上がっているから、マンションや住宅も手の届かないところに。それぞれの現状をくわしく見ていこう。

ガソリン 第二次オイルショック以来の高値

 今回の値上がりラッシュは世界規模。あらゆる経済活動の根っこに存在する原油の価格が上がると、ガソリンだけでなく電気・ガスなどのエネルギー価格、物流輸送費も連動して上がる。

 ガソリン価格は原油価格と為替レートが目安。日本では3分の1がガソリン税、それに石油税や消費税が乗って価格の約半分が税金だ。今世紀に入り、2002年2月に1リットル98円だったガソリン代は今や倍近くの170円台。これは1982年の第2次石油ショック以来の高値だ。政府は元売りに補助金を投入して価格を抑えようとしているが、効果は限定的だ。

 そもそもガソリンの平均小売価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、ガソリン税のうち、上乗せされている25・1円の課税を停止する「トリガー条項」という仕組みがあるが、東日本大震災の復興財源を確保するために凍結されたまま。

 本当なら補助金を投入するのではなく、このガソリン税を一時下げた方が速効性があるが、財務省が応じない。

 ちなみに「日本のガソリンは諸外国に比べ高い」と思っている人もいるが、それは現状を分かっていない。昨夏までは日本150円に対し米90円と差はあったが、当時でも独は7割税金で208円。今や諸外国も環境対策への課税が増えて、米カリフォリニア州では165円と価格が高騰している。

 欧米の原油価格高騰は需要回復を最大要素に、ウクライナや中東の危機も供給価格に影を落とす。再生可能エネルギーは、液化天然ガス(LNG)が同様に需要が増えて値上がりし、風力発電は世界的な気象変動で不調。太陽光はトンガ火山爆発の悪影響で不安定となり足を引っ張る。対するサウジアラビアなどの石油輸出国機構(OPEC)は、世界的な脱炭素化の流れで原油の需要が減るのを警戒して増産しないから、今後も長引く。


食品 ・ 加工品消費財の1/4を輸入に頼る日本 供給不足&円安のダブルパンチ

 ずっと値上げを我慢していた10円の「うまい棒」が、1979年発売以来、初の値上げで12円になった。食品類の値上がりは原材料の「輸入価格高騰」が主原因。日本の消費財は4分の1が輸入品。「輸入物価指数」は昨年11月時点で前年比44・3%も上がっている。欧米や中国はいち早くコロナ不況を脱し、需要が増えている。この供給不足に日本は円安も重なって支払いが増えるダブルパンチの状態だ。

 具体的に考えると、コロナ禍で外食や旅行からモノへと消費の比重が移っているが、感染リスクによる人手不足でモノの供給が追い付いていない。原油高騰で物流費や包装資材も上昇。コンテナが港で滞留し、物流に支障をきたしている点も見逃せない。

 加工品業界では「ステルス値上げ」と呼ばれる容量を減らして価格を据え置く手法が横行。企業は「値上げしたら買ってもらえないから」という危機感が強い。


建築資材 ウッド&メタルショックで住宅が高騰

 昨春からスギやヒノキなど木材の「ウッドショック」、鉄鋼やアルミなどの金属の「メタルショック」と呼ばれる輸入素材の2~3割高騰が続く。日本の住宅用木材は7割がカナダやロシアなどからの輸入。こちらも食品と同じように世界的な需要の高まりと、木材原産国での山火事や干ばつなどが影響している。同時にカーテンや壁紙、ガラスなどの内装資材も上がっており、住宅価格に換算して1戸あたり数十万円~100万円単位で影響が出ている。


世界経済は前へ前へ

 昨秋の消費者物価指数を比べると、日本は前年比でほぼ横ばいなのに対し、米6・8%、英5・1%、EU圏4・9%、韓国3・7%と軒並み上がっている。中国は当然それ以上だ。それでも困らないのは収入も増える〝良いインフレ〟だから。

 OECDによると、平均年収(1ドル115円換算)は日本が443万円。米国798万円はともかく、韓国にも15年に抜かれ482万円と差が付いた。日本はイタリアと同じくほぼ30年横ばいだ。

 1人当たりのGDPでも、日本は人口が半分しかいない韓国に2040年に抜かれるという試算がある。「日本は先進国G7のメンバーにふさわしいのか?」という厳しい指摘も。世界経済が前へ進む中で、日本は〝悪いインフレ〟で二流国へ転落しようとしている。

日本的労使関係が重い

 どうやら日本浮上のカギは、値上げに対抗する賃上げと分かってきた。物価上昇と賃上げが同調すれば、それは経済成長となる。

 日本の30年間の賃金横ばいに対し、米英は2・5倍、独2倍、仏1・8倍だ。それどころか物価に対する実質賃金が、日本は10年から下降し続け、14年の消費増税でさらに下がった。その間消費者は「賃金が上がらなくても、デフレで物価が安いからいいや」と割り切っていたが、尻に火が付いた。

 経営側が考える賃上げへの必須要因は①生産性向上②国内市場拡大③コスト上昇分の価格転嫁④賃上げ優遇税制拡充。実際には少子高齢の日本では国内市場は簡単に伸びないし価格転嫁も難しい。

 背景には日本独特の雇用優先主義に伴う生産性の低さがある。労働者も積極的には高賃金を求めての転職をせず企業に残る。世界的に見ても日本の失業率は3%未満と極めて低い。先進国では倒産も多いが起業も多い。その分労働者はクビにもなりやすいが、新たな就職先も得やすい。

 日本では昨春の賃上げが平均1・8%と低調だった一方で、企業の内部留保は総額で484兆円に達した。欧米型競争社会を好まず、皆でまったりと護送船団方式のゾンビ企業でぬるま湯につかりながら安月給でボーッと働くのが当たり前なのだ。

 1月25日に実質的に春闘がはじまった。物価上昇率が2%突破は確実だから、賃金もそれを超えないと〝よいインフレ〟にならない。集中回答日は3月16日。今が正念場だ。

生活防衛教えます

 最後に具体的な生活防衛策を考えてみよう。低金利時代はまずローンなどの大きな借金をできるだけ返済し、固定費を減らそう。「まとめ買いか、その都度買いか」は家庭状況によって分かれる。ガソリン代も上がっているのでネットスーパーもうまく利用しよう。買い過ぎのムダが出ては何にもならない。

 大手スーパーは、半月から1カ月の在庫があるので、値上げ時期は後ろにズレ気味。プライベートブランドも上手に利用したい。ドラッグストアの練り物などの加工食品は、客集めを目的に安売りしているから最初から採算度外視なので「買い」。近郊へレジャーに出かけた時は「道の駅」などに立ち寄って産直生鮮品を「買い」。必ず価格をチェックして買い過ぎ、ムダ買いはくれぐれも注意しよう。