志の高い臨床心理士を育てる 日本ではまだ遠い存在のカウンセリングを身近に

大阪経済大学人間科学部・鵜飼奈津子教授にインタビュー

 大阪経済大学と聞くと、名前の通り「経済」を学ぶ大学、と想像するだろうが、実はそれだけでない。今回、同大の人間科学部の学びについて、特に臨床心理学分野に注目し、鵜飼奈津子教授に話を聞いた。

 人間科学部は2002年に設立。その6年後に修士課程として人間科学研究科臨床心理学専攻と「心理臨床センター」を開設し、当時から地域に住む大人と子どものさまざまな心の悩みに寄り添ってきた。

 11年から、鵜飼教授が専門とする「子どもの精神分析的心理療法」に焦点を当て、「発達相談サービス」をスタート。子どもの発達、不登校や引きこもりといった子育てに関する相談を重点的に受け付けており、多くの親子が通っている。近年認知が広がってきた発達障害に関する相談も増えている。

 大学院人間科学研究科臨床心理学専攻は「志の高い臨床家の育成」を掲げた教育を行っており、学生は臨床心理士と公認心理師両方の取得を目指して勉学に励んでいる。

 臨床心理士試験の合格率は全国で60〜65%と簡単に取得できる資格ではない。一方、そこから5年ごとの資格更新は取得の時ほどハードルが高くないため、年次を重ねていくうちに臨床心理士としての意識が下がってしまう人も多いという。「心理の世界では常に新しい研究や情報が出ています。プロ意識を持って、研鑽(けんさん)を深め続けられる臨床心理士になってほしい。そんな思いで教育を行っています」と鵜飼教授は語る。

 その思いに共感してか、同じ大学内からの進学だけでなく、他大学からの進学や、福祉の現場に携わった経験のある社会人学生、中には60歳以上の学生も複数在籍している。

 では、その志の高さはどのように育むのか。

 まず、臨床心理学専攻では、学生が自分で物事に疑問を持って考え、それをオープンに発言し活発に議論ができるよう、ディスカッション形式の授業を主体としている。少人数制でもあるため、丁寧に学び意見を大事にできる環境ともいえる。

 また、学生のうちから学外での経験を多彩に積むことができるのも特色の一つ。実習先の提携数は学生数よりも多いため、学生の関心に近い実習先を選びやすい環境が整っている。さらに学内に設置している心理臨床センターでの相談の受け持ち数も多い。他大学では就学期間の2年のうち1件持てるかどうか…という所も多いが、同大のセンターは常に1人5〜6件ほどの相談を受け持つことができる。地域の人に信頼され、よく利用されているセンターだからこそであり、その分実習経験の豊富な学生たちを社会に送り出すことができるのだ。

 15年で計70人ほどの臨床心理士を輩出してきた。「日本では、一般市民にとってカウンセリングがまだ遠い存在のように感じます。より多くの人が心の傷つきを抱えながらも生きやすくなる社会にしていきたいですね」と鵜飼教授はほほ笑んだ。

■大阪経済大学大学院人間科学研究科/大阪市東淀川区大隅2-2-8(心理臨床センター:大阪市東淀川区大桐2-8-11 70周年記念館/電話06(4809)0557
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