前身は阪急百貨店の社内楽団
茨木市にある早稲田大学系属校「早稲田摂陵高等学校(2025年から早稲田大阪高等学校に名称変更)」には、全国的にも珍しい「吹奏楽クラス」がある。
歴史は古く、高度経済成長初期にまで遡(さかのぼ)る。前身は阪急百貨店の企業内教育施設として1957年に設立された「阪急少年音楽隊」。当時から「よき社会人を育てる」というビジョンで、中学校卒業の男子を対象に入社前の準備として音楽技術と高等教育を行っていた。2009年に同校へ再移管され、「早稲田摂陵高等学校ウィンドバンド」に改称し、現在の吹奏楽クラスへ引き継がれている。(現在、吹奏楽クラスは女子のみ)
「吹奏楽クラス」といっても、「吹奏楽」の授業はない。1年生は必修科目として音楽の基礎的な授業が展開されており、音楽理論、ソルフェージュ(ピアノ・視唱)、声楽、ピアノを習う。吹奏楽の活動は放課後に行う。
思い切り吹奏楽を楽しめる環境
特徴の一つは充実した練習環境だ。合奏室や体育館、グラウンドのほか、分奏室やピアノレッスンルームもある。844人収容できるホールも学内にあるため、ホールの独特な環境での練習も可能だ。さらに週1回は、プロとして活躍する講師からのマンツーマンレッスンも受けられる。
演奏の機会が圧倒的に多いのも特徴だ。人前で演奏する機会は年に50回ほど。定期演奏会や大会だけでなく、同校全体でボランティア活動を推進していることもあり、あらゆる地域イベントへの出演が絶えない。在学中に一度は海外演奏旅行の機会もやってくる。
音楽という「ツール」を通じた人材育成
吹奏楽に思いきり打ち込む一方、生徒の多くは音楽の道ではない学部に進学するという。吹奏楽クラスを率いる川口尚先生は「音楽はあくまでツールです。ただ楽器が上達してプロを目指すことでなく、よき生徒の育成がこのクラスの目的です」と語る。
同クラスが目指す「よき生徒」とは、生活・学業・音楽をバランスよく取り組む生徒のこと。「バンド活動」という集団生活を通じて、あいさつや言葉遣い、他者との接し方を覚える。そして地域への演奏活動を通じてあらゆる世界に接し、人を思いやる心を育む。演奏の機会が多いのも、単に技術向上のためだけでなく、音楽というツールを通じて地域に貢献する心を育むためだ。情操教育としての吹奏楽を推進しているためか、卒業する子の多くが、入学時と比べて生活態度が改善されたという。
「地域での活動を通じて『人の役に立ちたい』という思いが大きくなり、保育や看護に進学する子。また、海外での演奏経験を通じて、自分の行った国に興味を持って外国語学部に進学する子もいますよ」と川口先生。吹奏楽活動を自己アピールとして推薦入試に活用する生徒も多い。
川口先生は「70年続いた伝統だからこそ、手を抜かず下の代に紡いでいかねば、という意識がみんなの中に育っていくのでしょう。地域に根差しながら、これからも『よき生徒』を輩出し続けます」と笑顔を見せた。
【取材協力】 早稲田摂陵高等学校総合コース吹奏楽クラス
大阪府茨木市宿久庄7-20-1
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