【わかるニュース】「4万円減税」舞台裏 またも暗躍する財務官僚

霞が関の財務省・国税庁(財務省本庁舎)
霞が関の財務省・国税庁(財務省本庁舎)

 皮肉を込めた〝増税メガネ〟のあだ名がニュースの見出しに踊る中、そうからかわれるのが嫌な岸田総理が唐突に「4万円減税」を打ち出した。ところが、「開始は来年6月、12等分すれば月額は3千円ちょい。しかも1年限り」と中身がバレていくに従い、世間の反応は「遅い、ショボい、選挙目当て」と散々だ。

 今回の減税を打ち出すまでの過程を調べて行くと、岸田総理の従兄弟(いとこ)で財務官僚出身の自民党税調会長、宮沢洋一・参院議員を窓口とした、財務官僚の暗躍ぶりが明らかになってきた。

〝減税許さぬ〟はずの財務官僚、なぜケロリ?
 「減税」来夏実施は選挙直前か

財務省の聖域

 財務官僚が政治家に絶対許さないのは次の3つだ。
 一つ目は消費税の減税。日本の消費税は「元売り→卸売り→小売り」の商取引ごとに課税される仕組みで、1回限りの米国の小売税と異なりガッチリ入る。しかも10月にはじまったインボイス制度で、年商1000万円以下の零細業者から徴収する仕組みづくりに成功。

 今や消費税収は3年連続で所得税収を上回る。8%時代の2018年度に比べ、10%の22年度は税収が31%(23兆792億円)も伸びた。野党は盛んに「弱者に負担が重い消費税減税を」と要求するが、総理は「社会保険費の財源」を理由に財務省の思惑通り、検討すら拒否している。

 二つ目は、その社会保険費の減額だ。給与明細を見ると、今回の「4万円減税」の基礎になっている所得税は月額数1000円のはず。重いのは厚生年金と健康保険で、他に介護保険、雇用保険、労災保険で次々と引かれ、平均して年収の12・9%を持って行かれている。「社会保険料率の見直し」を野党が声高に訴えても、岸田政権は財務省の指示通りに取り合わない。

 三つ目は、最近はあまり言われなくなったが、特別会計の見直しだ。社会保険費の中身である厚生年金、健康保険、介護保険などは特別会計で運用されている。財源の規模は、私たちがニュースで目にする一般会計の5倍相当。このお金を管理運用する特殊法人は、各省官僚の利権と天下り先確保の伏魔殿。政治家がふれることは全く許されない存在だ。

減税こだわる〝増税メガネ〟

 利口な財務官僚にとって、岸田総理を操るぐらい朝飯前。総理は「防衛予算倍増、異次元の少子化対策、サラリーマン増税」と、金の掛かる施策を次々打ち出し、急激に支持率を落とした。来秋の自民党総裁選までに、何としても衆院解散による総選挙を実施したい思惑は遠のくばかり。そこで「〝増税メガネ〟を伏すには減税だ!」と、定額減税という表現に最後までこだわったのが、今回の措置の正体だ。総理は先週の記者会見で、閣議決定した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」としての減税案を説明。

 第1段階は「年内から年明けの緊急的生活支援対策」として、すでに生活苦世帯へ配った1世帯3万円に加え、7万円を追加して計10万円を給付。

 続く第2段階が「可処分所得(手取り賃金のこと)を伸ばし、消費拡大につなげ好循環を実現するため、来年6月のボーナスのタイミングで約9000万人を対象に、1人4万円の所得税・住民税の定額減税」と説明。

 「本人、扶養家族問わず1人ずつ減税を行うことで、過去に例のない子育て支援型の減税に」と胸を張った。

 総理は「2年分の所得税などの増収分をお返しする」と表現しているが、総額を見ると3・3兆円で22年度の増収分に過ぎない。つまり、21年度の増収2・2兆円はいつの間にか財務官僚にごまかされてしまっている。

 本来、減税は収入額に率を掛けた累進制で金額を決めるべき物で、定額なら一律給付の方が、圧倒的に事務作業が早い。これも総理の「減税」という言葉にこだわり続けたためのいびつな結果で、財務省側が総理に花を持たせたといえる。

自民党本部
自民党本部

後に控える各種負担増

 総理の本質は「経済、経済、経済」と連呼した所信表明演説に現れている。ポイントは大企業を中心とした経済界に対し「どうか来春、賃上げをお願いします。設備投資や賃上げにお金を使う企業は、どんどん減税しますから」というスタンス。

 賃上げ支援税制の手厚い拡充で、企業側にひれ伏している。そして、相変わらずの円安誘導で輸出企業を甘やかし、原油や食品などの輸入価格高騰には補助金の延長で問題解決を先送り。来夏の減税までに、国民にとって社会保険料はお構いなく上がるし、再生可能エネルギー賦課金などのステルス増額が広がる予定だ。

 現状を冷静につかむと、すでに円安で潤う大企業の法人税を下げてさらに奉仕する一方、生活費高騰で苦しむ国民からはもっと搾り取る構図になっている。

国会議事堂
国会議事堂

住民税減で地方動揺

 コロナ明けの物価高騰で〝1世帯あたり年間12万円〟の負担増と試算されている。一方で総理の「4万円減税」はGDP(国内総生産)の押し上げ効果は0・12%とほんのわずかしか効かない。

 財務省の本音は「減税、減税と騒ぐから、ほら実現しましたよ。ただし1年限り。選挙と総裁選が終われば、予定通り増税ね」なのだ。

 岸田総理のスローガンは「新しい資本主義による成長と分配の好循環」だったはず。政治家が財界の尻を叩いてイノベーション(新機軸)を実現することが最も大切だ。逆に日本企業は国際競争力をどんどん低下させ、名目GDPはドイツにも抜かれ4位に転落。

 ほとんどニュースとして取り上げられていないが、野党の中でも有権者の風向きをつかむのに長ける維新は「社会保険料3割削減、消費税を8%へ引き下げ、ガソリンの暫定税率廃止」を的確に打ち出し、政府・官僚の聖域を激しく揺さぶっている。

 減税のうち所得税は国税で3万円だが、残る1万円は住民税で地方自治体のテリトリーだ。政府からの説明が不十分なまま、財政規模の小さい市町村で動揺が広がっている。

 すべてに危なっかしい岸田総理。解散総選挙の時期も十分には見通せず、総裁選対策だけで手一杯。弱くバラバラの野党は攻め手に欠き、総理支持率低下による自滅頼りで、ウの目タカの目。

 政治家がこんな状態では、頭脳明晰な財務官僚の力がますます強大になるだろう。