不登校の児童生徒が過去最多となる中、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、学校以外にも「多様な選択肢」を確保する視点が大切とされるようになってきた。各方面の取り組みを紹介する。
思い思いに過ごせる学び場 フリースクール「ろ~たす」
大阪市住吉区のフリースクール「ろ~たす」を訪れると、子どもたちがスタッフやボランティアに見守られながらアットホームな雰囲気でパソコンに向かったり、教科書を開いて勉強したり、本を読んだり思い思いに過ごしていた。日替わりでスポーツや畑作業などの〝朝活〟に取り組み、自分で好きな料理をつくったり、ネットリテラシーを学んだりしている。
理事長の松下祥貴さんは「個々に合う過ごし方をしてもらうため、ルールに基づいて各々でスケジュールを決める。勉強を頑張りたい、友達に会いたい、先生と話したいなどいろいろな子どもたちがいる」と話す。
進学など次の進路に向けた準備をしている子も多く、学習面では学習塾創心館と提携し少人数制で手厚くサポート。教室以外にもフットサル観戦やメンタルクリニック院長とのコラボ企画、子どもたちが育てた野菜でつくった弁当やおかずを販売する「ろーたす食堂」などイベントも工夫しながら開いている。
再登校のきっかけ
母と姉と三人で暮らす母子家庭で育った中学3年のC君は、小学高学年から不登校になった。母は昼間に仕事に出掛け、帰宅後は知人宅へ行く。夜は姉と二人で就寝するのが日常だった。
「家庭環境が不安定で、朝方までゲームをしたり、入浴や食習慣が適切でなく、生活習慣が身についていない。愛着障害も疑われた」と松下さん。
そこで、ろ~たすのスタッフはC君と1対1の信頼関係を築く「ラポールの形成」に注力。往復の道のりの送迎や、食事を買いに行くときなど二人で一緒に居る時間を大事に〝本人にとっての一歩〟を重要視した。
しばらくして同居するようになった父や担任の先生と密に連携し、大人全員で足並みをそろえて対応。その後、行事のキャンプに参加したC君は「仲間と一緒に何かを成し遂げること」「自分で考え行動すること」の二つを学び、大きく成長した。二学期が始まると学校に登校するようになり、学習や学内活動も意欲的に取り組めるようになった。
良き理解者、味方に安心感 淀屋橋心理療法センター
我が子に心を痛める親向けに、家族療法による不登校のカウンセリングを行う淀屋橋心理療法センター。所長の福田俊一さん(精神科医)は日本の実践的家族療法の草分け的存在。福田所長の子息で、臨床心理士の福田俊介さんは「不登校は心やさしい子が多い。大切なのは性格と特徴をしっかりと見極め、その子に合ったテンポや距離感など接し方を理解し、実践すること」と話す。
福田所長は不登校を6タイプに分類=下表。
非行タイプ
不良とのつきあい・バイク・喫煙・深夜外出・校則違反など。勉強や人間関係の不安から逃げているのかも。見た目や行動とは裏腹にさみしがり・甘えん坊・こわがりなのが特徴。
心身症タイプ
朝になると「頭が痛い」「はき気がする」「しんどい」「お腹が痛い(過敏性腸症候群)」など体の不調を訴える。病院で問題がない場合、心のSOSが考えられる。あまり自己主張しない子、気を使う心のやさしい子、無理して頑張る子に多い。
対人恐怖症・対人緊張症タイプ
人の視線が気になる。人と話をすると緊張する。友達にNOと言えないなど、対人関係がきっかけで登校できなくなる。正直者で生真面目な子に多い。この緊張感を分かってもらおうと、人に話をするとかえってしんどくなる。緊張感の裏に勉強への不安などが隠れていることも。
家庭内暴力タイプ
学校でおとなしいが、家庭で口調が荒かったり物にあたったり。こちらがなだめたり、言うことを聞いたりするうち、何でも親にさせるようになることも。腫れ物にさわるような対応や、親があきらめたり疲れきってしまうと解決が遠ざかる。
ひきこもりタイプの不登校
こだわりや執着心が強く、弱音を吐かない(プライドの高い)子に多い。勉強や友達関係など自分の気にすることで行き詰まり、一人で悩み続けている可能性がある。長引くと無気力になったり、投げやりになったり。「気にしなくていいよ」は逆効果。
ゲーム(スマホ)依存タイプ
一日中ゲームや動画、食事中もスマホが手放せない、昼夜逆転しているなど。家族との会話が減り、孤立するようになると要注意。一方、ゲームでの活躍を「聞いて聞いて」と話したり、動画を「一緒に見よう」と言ってくるのは良い傾向。親の言うことを聞かず注意すると荒れる場合、無理強いせず、逆に子どもの能動性をドンドン高めるような方法が上手くいく。
「子どもが不登校になったのは私の性格のせいだ」と自身を責める保護者には、「普段から気を使いすぎるなどの特徴的な性格とタイプ、そして人間関係で気を使い過ぎ、心が疲れたなどきっかけがある。しかし、これら一つ一つの性格については何の問題もない、むしろ、良い持ち味とも言える」と保護者に説明している。
「不登校は病気なの?」の声に福田所長は「病気ではなく、人間ゆえの危機、ピンチと捉えられる。 人間は危機状態に陥ると、試行錯誤したり右往左往したりと絶えず苦しみ悩み続ける」
そして、再登校のポイントについて「周囲のサポートで本人がどんどんパワーアップしたり、身近に良き理解者や味方ができることで安心感や心強さを感じられる。すると大きな不安にも向き合えるようになる。とことん悩み抜き、自分なりに納得いく答えが出た時こそ再登校のチャンス」
「見守りましょう(寄り添いましょう)の対応で大丈夫?」の声に俊介さんは、理想的な再登校に「見守る」→「心のエネルギーが溜まる」→「好きな事や夢中になれる事をする」→「どんどん元気に」→「再登校」の成功パターンがある一方、「うまくいっていないケースも多い」と指摘する。
俊介さんは「親が子どもに合った対応ができているかどうかが大切」という。できていれば、子どもは徐々に元気になり再登校するが、〝できているつもり〟になっているおそれもある。
最後に福田所長は「アドバイス通りに親がうまく対応できているかどうかは、カウンセラーとの確認作業で適切な対応が身に付きやすい」と話している。
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