オーストラリアパビリオンでは、引き続き先住民ウィークが開催されている。今回は先住民のファッションを取り入れたブランド「キリキン(Kirrikin)」のファッションショーを見てきた。

先住民の要素を取り入れたファッションブランド、キリキンによるファッションショーは、最初にアボリジナルの楽器として知られているディジュリドゥの演奏と、それに合わせたダンスが披露された。
久々に聴いたディジュリドゥの音色は、やはり心に響く。あのバイブするような音は堪らない。
以前オーストラリアに毎年通っていた頃は、ディジュリドゥの音を聴く機会もよくあったが、改めて、そして本物のアボリジナルが演奏をする音を聴くのは最高。これだけでも来た甲斐があった。
それに続くファッションショーはカラフルな衣装に身を包んだモデルが10人登場して、ステージを賑やかにしていた。
キリキンというファッションブランドは、先住民の伝統と文化を取り入れてファッションという形で継承している。同社のCEOを務めるShannon McGuireさんに話を聞いてみた。
キリキンはアボリジナルの言葉の1つ「ワノルワ」といい、意味は「日曜日のベストな服」。約10年前に誕生したブランドで、アボリジナルをファッション業界でもっと知ってもらおうと立ち上げられた。またアボリジナルのアートや文化を普段の生活の一部として取り入れてもらえるように取り組んでいる。
オーストラリアは英国による植民地化で、先住民の文化は破壊されてしまった。しかしそれが最近になって復活してきているのだ。
キリキンもその流れの一部に含まれていて、言語や言い伝え、文化などと共にファッションも復活させようという。元々何千年も前から存在していた先住民の文化の中には、完全に失われてしまったものもあれば、部分的に失ってしまったものや、なんとか復活しているものなどがあり、アボリジナルの人たちが世代を超えて守り続けてきた。キリキンはその一翼を担おうとしているという。
万博に参加すること自体はキリキンにとってはエキサイティングなことで、大阪の学生にモデルとしてファッションショーに参加してもらったり、言語の壁がありながらもお互いの文化や習慣を学び合ったりするのは「すてきなことだ」という。そしてお互いがコネクト、繋がっていくことを肌で感じていると話している。
日本に来て感じたことの1つに、大阪を歩く人々の服装の色がカラフルでないこと。キリキンの服はカラフルな色を使っているのが特徴なので、この点では新たな選択肢を提供できると思う、という。日本人にとっても、「キリキンの服を知ることは、ファッションとしてだけでなく、自分たちとは違う文化や歴史を知ることにもなるので意味があると思う」と話していた。
キリキンの服の特徴は、先住民のアートをデザインとして取り入れていること。オーストラリアでも先住民のアートは本来の価値ほどには認められていないようで、高級感のあるカシミアやシルクを素材にしたハイバリューのファッションブランドにして、先住民文化や言葉自体の価値を上げてきたという。
10年ほど前に、先住民のファッションを取り入れたブランドとしてスタートし、この分野の先駆者としてオーストラリア国内では多くの人に認知されている。この成功のおかげで、ここ5年ほどは新たな先住民が立ち上げたブランドも登場している。キリキンは、これまでに国内外を問わず多くのファッションショーやフェスティバルにも参加しており少しずつだがその存在は知られている。
店舗を持たず、オンライン販売のみに特化しているため、世界中のどこからでも製品を購入してもらうことは可能だ。
しかし、今回万博に参加した理由は、ブランドの売上を上げることではなく、先住民の文化や存在を知ってもらい、理解してもうことで、それが最も重要な目的だと教えてくれた。
先住民の文化を伝える上での課題は、文化というより、その歴史をもっと理解してもらう必要があるという。植民地の歴史はたった200年ほど前の話で、6000年以上前からオーストラリアに存在しているアボリジナルにとっては、ほんの最近のことで、その部分の歴史はセンシティブな話題でもあるようだ。Shannonさんの父親が生まれた時代には彼には投票権がなかったそうだ。
先住民のファッションショーから始まって、学ぶことの多いインタビューになった。カラフルでオシャレなデザインの裏にはさまざまな苦悩や思いが隠されていた。こういうことも含めて、キリキンのファッションが日本でも認知されて広がっていくことを期待する。
ところで、キリキンはオーストラリアパビリオンのユニフォームのデザインも担当している。
興味のある人はURL(https://kirrikin.com/)をチェックしてみては。