
私はドラマなどで主人公の男性俳優さんがビシッと決まったスーツ姿で掛け回るシーンが好きで、大学に入ってアルバイト先に紳士服専門店「スーツセレクト」を選んだ。働いていて感じるのは「お客様が減っている」「大量生産大量販売だけでは売り上げが上がらなくなっている」「いわゆる〝吊るし〟と呼ばれる既製服から、着る人に合わせサイズを調整するパターンオーダーが支持されつつある」という事が分かってきた。かつて〝ビジネスマンの制服〟と言われた男性用スーツの未来像を考えてみた。
アルバイトとして店頭に出ているうち「紳士服スーツはどうしたら売れるか? 将来どうなっていくのか?」を真剣に考えるようになった。女性の場合、かつて通勤はカジュアルな服装で、職場では制服的な物を支給されるケースもあり「スーツで仕事」のイメージは男性ほど強くない。しかし、男性は昭和の時代からスーツがいわば職場での制服だった。自分好みの色やデザインのスーツがあるはずだが、仕事用は長年無難な色とデザインで選ばれてきた。平均的なスーツ中心で提供されていた時代は「大量生産大量販売」でよかったのだ。
しかしスーツが制服でなく自身の個性で着るようになると作り方や選び方にも変化が生じてくる。私がアルバイトしている「スーツセレクト」はパターンオーダー中心のお店で、中心価格帯は1着2~3万円。もう一段価格帯も上のフルオーダースーツを作る「エフワン」を取材させて頂いた。エフワン淀屋橋店を訪れ松本佳裕店長にお話しをうかがう。まず需要が減っている事を認めた上で、その理由としてコロナ禍によるリモートワークの普及がまずあり、服装にこだわらないカジュアル化が一気に広がったためを上げられた。リモートの画面に映るだけなら、見栄えを気にしなくても着やすい紳士服スーツがよい訳で、値段も安い物で十分だ。つまり時代と共に紳士服スーツ自体が進化を遂げた訳ではなく、以前は注目されなかった「伸びるスーツなどに時代の方がマッチした」と分析された。実際に伸びるスーツを触わらせてもらうと見た目以上に伸縮性があり驚いた。このスーツでは裏地を付けず裏ポケットも無くすなどスムーズに伸びることを最大限に考慮されていた。

エフワンでは女性ファッションでは余り見かけないフルオーダーでスーツを売っている。パターンオーダーは基本体型のスーツが何着かあり、客が試着して細部を手直しする。対するフルオーダーは全て採寸し1からスーツを仕立てて行くから価格帯も3~5万円ぐらいに上がる。
既に出来上がっているスーツは店舗内の見本以外なく、生地だけが積み上がりカタログ冊子に小さくてユニークな柄の生地があったりして驚いた。オプションでポケット位置や形を変えられたり、ボタンの数や素材も選べ客の好みに合わせ個性的なスーツが自由に作れる。パターンオーダーでもある程度に形を選べるから以前は「それで十分」と思っていたが、文字通り全て選べるフルオーダーの選択肢の多さに改めて気付かされた。
しかしスーツ需要の大多数はそこまでセレクトする必要性を求めてはいないし「無難に着られればよい」と考えている。現にユニクロでは4サイズ2色程度に絞り込んだパターンオーダー上下1万円ぐらいで販売している。
時代や用途によって紳士服スーツの買い方使い方は変わる。これが「確実にこれからも売れていく」とは限らない。言えるのは今の時代には最適な紳士服スーツは〝安くて着ていても楽〟というコンセプトの物だ。多様化の流れの中で紳士服スーツは必要最小限しか買わない時代に入ってはいるが、完全になくなることはありえない。米国IT企業のカリスマ経営者も普段スーツは着ないが、冠婚葬祭やパーティーなどではビシッとスーツ姿で決めて登場してくる。普段は安くて着やすい物でも改まった時はおしゃれでこだわった服を着る。そういう二極化これからも進むと感じた。(大阪国際大学 津田結里)