吉村知事「大きな一歩踏み出せた」
大阪府が8月25日にまとめた高校の授業料を完全無償化する制度案。親の年収にかかわらず、私立高の授業料を公費で年間63万円まで補てんし、超過分については学校側が負担する制度で、2024年度から段階的に導入され、26年度には全学年に適用される。所得制限のない授業料無償化は全国で初めて。
現在、私立校に通っている高1、2年が恩恵を受けられるのはいずれも3年生になった時から。授業料63万円までは所得やこの人数にかかわらず無償に。63万円を超えた分は保護者負担となる。
一方、中学生の子どもたちが恩恵を受けられるのは現中2、3年は高2からで、現中1生は高1からとなる。
府外の私立高に通う府民も対象にしたい考え
全学年が無償化される26年度の府の負担額は380億円あまりに上る見通しで、吉村洋文知事(大阪維新の会代表)は「投資という点では将来、社会に還元される」「自分の可能性を追求できる社会を目指すべき。その大きな一歩を踏み出せた」と述べている。
対象は大阪府民限定。大阪市内の私立高に長男を通わせている芦屋市の会社員は「住む場所で費用が違うのはどうかなと思う」との声もあり、大阪府は府外の私立高に通う府民も対象にしたい考えだ。
府では近畿5府県の学校に制度案を説明し、参加を呼びかける。ただ、学校側の負担が生じる場合もあり、学校が参加しなければ適用されない。
大阪府の高校授業料無償化のポイント
●2024年度から段階的にスタート
●国公立で所得制限ない。対象は府民
●私立授業料一人あたり最大63万円を公費負担
●私立高への経常費助成は一人あたり2万円増
●府外の高校にも制度参加を呼びかける
連合会に加盟の私立高96校が新制度に参加
授業料「完全無償化」の案をめぐっては、府は5月に素案を発表したが、標準授業料(60万円)を据え置いたため、私立高校の負担が現在よりも増えるため、大阪私立中高連合会が反対の声を上げてきた。
これを受けて吉村知事は、補助する授業料の上限を63万円に引き上げ、私学への経常費助成も生徒一人あたり約32万5500円から2万円程度を増やす修正案を発表。知事案で負担が生じる学校は25校に減り、総額も約7.9億円に縮小するという。
吉村知事は私学側に「教育の質向上と無償化を両立させる」と提案し、私学側も「知事の理念実現に向けて協力したい」と合意に達した。連合会に加盟する私立高96校が新制度に参加する意向だ。
授業料などの学費以外にかかる費用も確認
高校では制服代、教科書代、PTA会費、修学旅行のための積立金、部活動費などの費用も必要だ。私立校によっては、制服代が10万円以上、修学旅行代が20万円以上する場合も。事前にしっかり確認しておきたい。また、特待生制度や奨学金制度を設けている高校もある。成績や収入の条件などが前提になる場合があるので、各校のウェブサイトで調べたり、学校説明会などで確認が必要。
中学受験が過熱する可能性も
一方、新制度の導入に伴い、中学受験が過熱する可能性を指摘する向きもある。
保護者の声を拾ってみても「授業料を考えなくていいので学校選択の幅が広がった」「子どもは先が長いので、いい教育を受けさせたいと思う」などと負担が減る保護者からは歓迎の声が聞かれる。
私立高校への選択肢が増えることで、「競争率が高くなり入学しにくくなるので、私立中学から入学も検討したい」との保護者の声も。
それを裏付けるように無償化議論が本格化した5月以降、大阪で小学校低学年向けの無料テストやイベントへの参加者が増加。大手学習塾の担当者は「これまで中学受験を考えないような層も検討を始めている」と分析している。