日本の林業、里山を救え! 天然木床材最大手の挑戦

ほとんどが燃料として燃やされる運命にある広葉樹の価値をいかに高めるかが日本の林業、里山を守るカギとなる(朝日ウッドテックの動画より)

 天然木床材メーカー最大手の責務として、日本の林業の課題に取り組む朝日ウッドテック。そのカギは建材として利用価値の低い広葉樹をいかに活用し、里山の市場価値を上げるかにかかっているようだ。日本の林業の現状を把握しつつ、床から日本の山を変えていく同社を取材した。

戦前・戦後の森林整備をめぐる歴史

 歴史の授業のようになってしまうが、まずは日本の林業を軽く振り返っておこう。意外に興味深い話なのでちょっとだけお付き合い願いたい。

 話は戦時中までさかのぼる。日中戦争の勃発や第二次大戦が始まった昭和10年代の日本。戦争の拡大に伴い、軍需物資として大量の木材が必要になった。このため、未利用の森林を次々に伐採。そんな時期に、さらなる試練が訪れる。

 ABCD包囲網─。米英蘭中諸国が、日本に対する経済制裁として、石油やくず鉄の輸出規制や禁止に踏み切ったのだ。

 資源を輸入に頼る日本にとって、これは死活問題だ。このため、仏領インドシナへ進駐し油田を確保する一方、国内では鋳造や製鉄の燃料として木材を大量に伐採。戦艦の甲板や、輸送船、飛行機にも利用されていった。当時の山々は〝はげ山〟になっていったのである。

 木材需要は終戦後にも続いた。焼け野原になった都市部など戦後復興に、木材が必要になったからだ。供給不足に伴い木材価格は当然、高騰が続く。さらに森林が大きく荒廃したため、台風などで大規模な水害も頻繁に発生するようになった。

1930年代前半には9割あった日本の木材自給率は、下降の一途をたどり2002年には2割にまで落ち込んだ

 こうした中で政府は、はげ山や天然の広葉樹林を伐採した跡地に、成長の早いスギやヒノキなどの針葉樹を植え、木材不足の解消を目指す。しかし、その後は木材の輸入が全面自由化に向かったため、安くて大量に入手できる輸入木材の比率が年々増えていった。1㌦360円の固定相場が、変動相場制に移行したのも輸入に拍車を掛けた。

 こうして30年代前半に9割だった日本の木材自給率は下降の一途をたどり、2002年には大底の18・8%にまでダウン。ただ、最近は国の政策もあり、41・1%(21年)まで回復している。

広葉樹の価値向上が課題

 「木材自給率が高まってきているとはいえ、日本の林業の課題がすべて解決されているわけではない。利用価値のある針葉樹は良いが、広葉樹は〝二束三文の状態のまま〟だ。広葉樹をいかに価値のある資源に変えていくかがカギ」
 こう問題提起するのは、国内大手床材メーカー「朝日ウッドテック」の取締役マーケティング部長の山本健一郎さんだ。同社は江戸時代に創業した銘木商、いわゆる木材の匠の流れを組む企業で、社会的な影響力も強い。ここで山本さんが指摘する〝広葉樹の課題〟とは、針葉樹に比べて市場価値が低いことにある。
 スギやヒノキなどの針葉樹は幹が太く、空に向かって真っ直ぐに伸びる。垂直の木は、読者のご想像の通り、製材がしやすいので利用価値が高い。1本の針葉樹を例に、具体的な数値で表すと、62%が最も市場価値の高い柱や梁、集成材として加工され、23%は次に価値の高い合板などになる。残りの15%はパルプや燃料として使われている。
 一方で広葉樹はどうだろうか。真っ直ぐに伸びる針葉樹とは異なり、国産広葉樹は幹が細く曲がりくねったものが多く、幅の広い材がとりにくい。結果、本来なら建材などに使える木材を含めた94%が、市場価値の最も低いパルプや燃料にされている。
 林野庁によれは、現在の日本の森林は、71%の針葉樹と29%の広葉樹で成り立っている。つまり、資源価値の観点からすれば、森林の3割は燃やすしか使い道のない状況にある。
 山本さんは「広葉樹は水を豊かにし、多様な生物が生息できる環境を作り出してきた。生物多様性の面からも里山には針葉樹と広葉樹がバランス良く育つ環境が望ましい」と説明した上で、「そのためにも針葉樹のように、広葉樹の価値を高めなければならない」と強調する。

苦労の末に商品化

 日本の林業の経済的、環境的な課題を意識する同社は、国産広葉樹の用途を広げ、市場価値を高める取り組みに着手。そして昨年10月には、「建材として活用することが難しい」と言われてきた広葉樹の床材「ライブナチュラルプレミアム オール国産材」を発売にこぎ着けた。
 「日本の床材に活用していけば、広葉樹の大量利用に繋がり、これまでよりも広葉樹の市場価値を高めることに貢献できる」(山本さん)。発売から半年ほどが経ち、国産材を売りにする住宅メーカーからの引き合いも増えてきたという。
 同社が新開発した「ライブナチュラルプレミアム オール国産材」は、いわゆる挽き板のフローリングだ。構造は、表面に約2㍉厚の天然木を貼り無垢材と同じ質感を得る一方、下地に国産ヒノキ合板を貼り合わせることで床暖房にも対応する。
 木材は湿度の高い時期には伸び、逆に乾燥すると縮む。広葉樹は比重が高いため、伸縮時の力が針葉樹よりも強いという性質がある。
 このため同社は、伸縮時の力が違う針葉樹と広葉樹のバランスがとれる基材構成を独自開発した。
 「幹が細いという国産広葉樹の問題にも、化粧材のデザインで解決したので、小径の広葉樹も活用できるようになった」と、山本さんは商品化までの苦労を語る。
 現在、床材は6種類あり、ドングリの木で有名なナラ、下駄に使われるセン、クリ、ヤマザクラ、オニグルミ、ヒノキがラインナップされている(ヒノキ以外は広葉樹)。

日本の季候風土には、日本に自生する建材が合う

新たに開発された国産広葉樹のフローリング「ライブナチュラルプレミアム・オール国産材」。本社ショールーム(大阪市中央区南本町)で、さまざまな色の照明を用いて光の照り返し、手ざわりなどを体感できる

 大阪・本町にある同社のショールームを訪れ、実際の床材を体験してみた。記者の個人的な感想だが、輸入木材のフローリングに比べて、木目がハッキリしているように見えた。「天然木っぽさは、国産の方が感じられますね」と言うと、山本さんはにっこり。
 手ざわりはどうか。天然木のやさしい質感が指先の神経を伝わってきたが、同時に硬さも感じた。「確かに広葉樹は、針葉樹よりも硬いので丈夫なんです。傷もつきにくい」(山本さん)
 季候や風土の違いで、その地で繁栄する動植物の種が異なるように、日本の住宅には、古来から自生してきた広葉樹が使われてきた経緯がある。そういえば昔、建築家を取材したときに聞いた話を思い出した。
 「高温多湿な日本の気候に合うのは本来、通気性のある低気密の住宅です。それがいつの間にか、木材の柱をコンクリート壁で覆う住宅が主流になってしまった。気密性を高めれば日本の季候ではカビが生え、ダニが発生し、木が腐る。だから日本の住宅が短命なんです。何百年もの時を超え、当時の姿を残している神社や寺院などの古建築の存在が、それを証明している」(建築家)
 広葉樹の床材を通じて、日本の里山の原風景、そして林業に携わる人々を守ろうと取り組む朝日ウッドテック。興味のある読者は、彼らのストーリーをまとめたユーチューブ動画を観てみるといいだろう。