文武一道〈6〉〝苦手を克服〟する子に育てるには?

新極真会・阪本師範の〝強育〟コラム

 初めて道場に体験に訪れたお子さんが 「空手はやりたくない」と母親に訴える。「そうかぁ。嫌ならやめとこうね」。最近は親が子どもの意見に左右され過ぎるきらいがあります。

 私は幼少期の「つ」の年齢まで、いわゆるゴールデンエイジの時期は、親のしつけが重要だと考えています。それなのに、子どもの「好き嫌い」で決めてしまうと、幼少期に培われるべき運動能力や判断能力を奪ってしまいかねません。

 空手であれば、大抵は「子どもに集中力や精神力、忍耐力をつけたい」などと親が望んで入会するケースがほとんどです。にもかかわらず、知識も経験もない、何も知らない子どもの「好き嫌い」で物事を決めるケースが目立ちます。空手、水泳、野球、サッカー…。子どもの「これがやりたい」が見つかるまで探すことが重要なのでしょうか。これは、まるで霞(かすみ)をつかむような話です。

 子どもにとって最も大事なのは、空手や水泳など習い事の種類といった「方法論」ではなく、目の前のことに「向き合う」ことです。

 大人になると、好きなことばかりはできません。親御さんもご存じの通り、苦手なことも克服していかねばなりません。

 社会で出世や成功する人は、人が嫌がることを率先してや
る人です。苦手にもきちんと向き合うことができ、その中で自分ができることを見つける力。どんなことにも楽しさを見つけられる人です。その能力を身につけた人間が強い。

 ピーマンが苦手な子どもに、栄養満点のピーマンをどうにかして食べてもらうため、お母さんが工夫したのが「ピーマンの肉詰め」ではないですか。同じように親は子どもを導いてあげてほしいものです。
 何事もコツコツと努力し続ける人間が成功を収めます。「嫌だったことが楽しくなってきた。お父さん、お母さんが言っていた通りや」とぜひ子どもに達成感を味わわせてあげてください。

 それでは、冒頭の話に戻りましょう。「空手をやりたくない」と言う子どもに、どんな声を掛けるべきでしょうか。 この場合は子どもに「空手の何が嫌なのか」と根拠を聞きましょう。たとえば「先生が怖いから」と言われたら、私の場合は親子のところに行って、なぜ怖いのかを説明します。「先生は一生懸命、キミたちに向き合って教えているんや。だからけいこ中の態度が悪かったら注意をする」とはっきり言います。

 子どもにとってはおそらく、これだけの熱量で接してもらった経験ないので、恐いと感じるのです。

 親のしつけで大切なのは、子どもの「嫌」の理由を細分化していくことです。空手の場合なら「でも一緒にやっている友達のことは好きなんだよね」「組み手は嫌いだけど型は好きなんだよね」と言った具合に、「嫌」の中にも楽しいところにスポットをあてます。「空手はイヤ」と一括りに捉えてはいけません。

 ただ、嫌の部分を無理矢理させてはダメ。そんなときは親御さんが「先生、子どもがこう言っているので、やり方を変えてもらえませんか」と指導者に言いましょう。子どもは親が伝えようとしてくれているだけで安心するものです。

 ここまで読んで頂くとお分かりの通り、子どもに苦手なことが出たとき、それは親として子どもに経験を積ませるチャンスなのです。教育で大事なことは至ってシンプル。「好きなこと」を探し回るのではなく、大事なのは「向き合うこと」です。何を選ぶかより、どう向き合うかなのです。

 どんな状況でも、楽しさを見つけられる人間になる。これが親として子どもに残してあげられる最も大事な教育なのではないでしょうか。


■阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル
1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。