電解水素水の最大手が挑む、浄水を超えた〝次世代の水〟日本トリム・田原社長に聞く 血液透析後の疲労を軽減

 「わが社の社員の医療費は、全国平均の7〜8割。これは揺るぎない事実」。田原周夫社長のこの一言に、電解水素水整水器メーカーの国内大手「日本トリム」のすべてが凝縮されているかもしれない。水道インフラの老朽化やPFAS(有機フッ素化合物)の検出といった「水」への懸念が広がる中、同社は浄水を超えた「機能を持つ水」づくりに力を注いでいる。飲用にとどまらず、医療や農業の世界をも変えようとする日本トリムに、阪本晋治が迫った。(佛崎一成)

「従業員の医療費は全国平均の7〜8割」とウォータヘルスケアの実践結果について話す田原社長

─父親は最高裁判事も務められた非常に厳格な家庭環境だったと聞いている。

 父は一言で言えば「プロ」の塊のような人。仕事への向き合い方はすさまじく、机の横に布団を敷き、朝4時か5時に起きると机に向かうような人だった。

 面白いのは、起きてすぐにビールの缶をプシュッと開ける音が聞こえる(笑)。時間に余裕のある時だけだったと思うが、景気づけの一杯を飲んでから、ストイックに記録を読み込み、書き物をする。そんな父の背中を見て育ち、私も自然と法曹を目指すようになった。

─なるほど。最初は法曹の道を目指されていたのか。

 だが、振り返ると机上の勉強に嫌気が差し、どこか逃げていた部分もあったかもしれない。やがて法曹をあきらめ、父に「どこか働く場所はないか」と尋ねた。

 父は当時、日本トリムの顧問弁護士を務めていた。その縁がきっかけで、創業者で当時社長の森澤紳勝会長に会う機会を得た。

─2003年、当時の日本トリムは東証一部上場へと駆け上がる、まさに絶頂期だ。

 会長に初めてお会いした時、「君、夢はあるか」と問われた。法曹をあきらめたばかりの私は何も考えておらず、「特にありません」と答えるしかなかった。

 すると会長は「夢を持たないとダメだ。私は毎日、明日どんな人と出会えるのか、朝を迎えるのが楽しみで仕方がないんだ」と熱く語られた。

 これほどまでに活力に満ちた人がいるのかと衝撃を受けた。会長の人間性にほれ込み、ここで働かせていただきたいと入社を決意した。

万里の長城で見た〝水が売れる〟衝撃

─そもそも日本トリムはなぜ、「水」に着目したのか。

 森澤会長が37歳で創業する以前に、中国の万里の長城を訪れた際のことだ。団体旅行中の子どもたちが大勢いて、みんなペットボトルに入った水を首にぶら下げていた。

 これを見た会長は、水が商品として売れることに衝撃を受け、「当時、経済的に中国より進んでいた日本でも必ず水が売れる時代がくる」と確信し、ビジネス化した。

─日本では「アルカリイオン水」がブームになったが、根拠のないうたい文句を掲げる業者も多く、バッシングもあったと記憶している。

 おっしゃる通りだ。「がんが治る」「アトピーに効く」といった過剰な表現をする業者が出てたたかれ、マーケットが一度シュリンク(収縮)した時期もあった。

 しかし、当社のユーザーからは実際に「体調が良くなった」という声が届いていた。会長は「うちの水には何かあるぞ(この水には力がある)」と社内でいい続けていたが、科学的な証明がなければビジネスにならないと、大きな投資をして産学共同研究を始めた。以来、エビデンスベースのビジネスという考えは、当社のポリシーだ。

 当社の整水器は胃腸症状改善に効果があることが認められているが、長年の研究で「整水器から作られる水に含まれる水素が酸化を抑える」作用があるとわかり、飲用だけでなく、農業や医療分野への応用につながっている。

取材中に出された電解水素水。まろやかな口当たりだった=大阪市北区

透析患者の酸化ストレス抑える

─医療で言えば、血液透析の分野でも生かされている。

 まず、透析のメカニズムだが、透析患者は血液中の尿毒素などを腎臓でこし取ることができない。このため、血液をいったん外部に出して浄化し、再び血液を体内へ戻している。

 この浄化には1回の治療で約120㍑の膨大な量の水が必要になる。通常の透析水は「純水」を使うが、そこに当社の水素を含んだ水を希釈水として利用するのが「電解水透析」だ。

─「電解水透析」で患者の体にはどのような変化が起きるのか。

 透析というのは、どうしても体内で酸化ストレスや炎症を引き起こしてしまう。これが治療後のひどいだるさや疲労感の原因になる。しかし、電解水透析では、水素が活性酸素を抑制して酸化や炎症を抑え、その結果、副次的な諸症状を軽減することが期待できる。

 患者からは「治療後も体が動く、仕事に戻れる」「以前は帰宅して寝るだけだったが、調子がいい」と喜びのエピソードが数多く寄せられている。

─透析患者の倦怠感を軽減できるということか。

 それだけではない。東北大学などとの5年間にわたる追跡調査で、死亡率が抑制されているデータも出た。透析に入ると寿命が半分になると言われるが、我々の水が「延命」に寄与できる可能性を示している。

 現在は国内で37施設、ベッド数で1100床以上で導入されている。これは日本トリムにとっても非常に重要な魂の事業だ。

─昨今、水道水からのPFAS(有機フッ素化合物)検出が社会問題になっている。PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれるだけあって、分解されにくく、長く環境に残り続けるため、発がん性などの健康リスクが懸念されている。

 報道がある度に、驚くほど問い合わせが増えている。実はPFASは活性炭のフィルターで除去できる。我々の器械は高性能フィルターで水をきれいにした上で、さらに電気分解することで付加価値をつけている。

 東日本大震災の際の放射性物質の問題もそうだが、行政が水道の安全性を確保してくれている一方で、蛇口から先で「自らより安全な水を確保する」という意識が当たり前になってきている。

─その「付加価値」は、農業分野でも成果を出している。

 滋賀県のブランド「草津メロン」の事例では、琵琶湖の水で育てたメロンと、当社の水で育てたメロンを比べると、明らかに大きくなる。草津メロンは糖度14.6度以上を「特秀」と定めているが、電解水で育てたメロンは毎年17~18度と基準を大きく上回っている。

 他にもイチゴやパプリカでも収量が増え味が濃くなる。植物工場での水耕栽培でも、栄養の吸収効率が変わるという結果が出ている。

─なぜ、水だけでそこまで変わるのか。

 まだ研究中だが、細胞への浸透や酸化の抑制といった要素が複雑に絡み合っているのだと思う。

 農業にとって水はなくてはならないもの。この水を変えるだけで収量が増えたり、高品質な農作物が出来るのであれば、革命的な変化を起こせると確信している。

水が処方される時代が来る

─田原社長を支える哲学は何か。

 会長から学んだ「今を是(ぜ)とする」という考え方だ。人は現状に不満があると、環境のせいや他人のせいにしがちになる。しかし、今の自分があるのは、すべて過去の自分が選択してきた結果。

 それを一度、正面から受け止め、今あることに感謝する。そこをスタートラインにすれば、自ずと「次はどうすればいいか」と前向きになれる。この切り替えの速さが、私の強みだと思っている。

─その「覚悟」はどこから来るのか。

 「最後は逃げない」─。責任ある立場になり、創業者からの恩義や期待を感じる中で、その思いは強くなった。何かあった時に踏みとどまるマインド。その気持ちを常に持っている。

─大阪からどのような未来を描いているか。

 安全、おいしさにさらに機能を加えた「機能水」は日本発の技術だ。この健康と産業を支える「次世代の水」を「水の都・大阪」から世界へ届けていきたい。

 会長はよく「いずれ、水が処方される時代が来る」と言っている。体の状態に合わせて、このアルカリ度数、このミネラルバランスの水を飲みなさい、と。その未来を私たちは具現化したい。

─「水を処方する時代」という考え方は画期的だ。

 実は、当社の社員のデータを見てもらうと、全国平均に比べて明らかに医療費が安いことがお分かりになると思う。一人当たりの月平均医療費が全国平均の7〜8割に収まっている。私自身も健康そのものだし、社員全体がウォーターヘルスケアの力を体現している。

─それは何よりの説得力だ。

 水ビジネスが「あやしい」と言われた時代を越え、ようやくエビデンスが追いついてきた。現状を嘆くひまがあるなら、今できる最善の一歩を踏み出す。自分が選んだ道を正しい道にしていく努力。その積み重ねの先に、想像もしなかった未来が待っていると思っている。

田原社長(右)と阪本晋治=大阪市北区

<日本トリム企業情報>

 「水の機能」に世界に先駆けて着目した森澤紳勝氏が1982年に設立。抗酸化作用のある電解水素水をコアに事業を展開。飲用に留まらず、血液透析への応用や生活習慣病対策など「ウォーターヘルスケアという新習慣」を提唱。水が処方される時代を見据える。さらに、農業・工業分野などへも展開。
 2000年にJASDAQ、03年に東証2部、04年には東証1部(現プライム)に株式上場。整水器市場で売上シェアNo.1。24年度は売上高224億円、経常利益35億円で、従業員はグループ全体で735人。

株式会社日本トリム(東証プライム:6788)
大阪市北区梅田2-2-22 ハービスエント・オフィスタワー22階

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