「世界中にサステナブルで機能的な新素材を」 素材からアパレルのあり方問い直す、「KAPOK  JAPAN」の挑戦

【FUTURE NAVIGATION  未来へ舵切る大阪の中小企業】

 軽さと暖かさで注目を集めるコートの中わたに、植物由来の新素材が使われている。東南アジア原産の繊維「カポック」だ。加工の難しさから長年主役になりにくかった素材に、大阪発の企業が可能性を見いだした。(西山美沙希)

大阪高島屋のポップアップショップで=12月5日、編集部撮影

 百貨店のポップアップショップで見かける、ひときわ軽く、あたたかさが特徴のコート。タグには「KAPOK KNOT(カポックノット)」のブランドロゴが入る。その中わたに使われているのが、東南アジア原産の木の実からとれる植物繊維・カポックだ。繊維の一本一本がストロー状の中空構造を持ち、空気を含むことで暖かさを保ちやすい性質がある。こうした構造が、袖を通した瞬間に「軽い」と感じさせる理由だ。実際、その重さはコットンの8分の1とも言われる。

 機能性への評価も広がり、「真冬でも一枚で十分」「旅に持って行くと身軽」といった声が寄せられる。ポップアップやECを中心にリピーターも増えているという。

ポップアップで展示されているカポックを使った商品。トレンドを意識したさまざまな商品が並んでいた=12月5日、大阪高島屋(編集部撮影)

業界への違和感から始まった素材選び

 実はカポックは繊維が短く、長年、一般的な糸には加工しにくい素材とされてきた。多くの企業が過去に商品化を試みては断念してきた経緯がある。

 この素材を中わたとして活用し、独自のブランドとして製品化につなげてきたのが「KAPOK JAPAN」(吹田市)だ。社長の深井喜翔さんは老舗アパレルメーカーの4代目として、大量生産・大量廃棄が常態化しているアパレル業態に疑問を抱き、「環境負荷の少ない素材で、暖かさを生み出せないか」と模索する中でカポックに着目した。

 同社は糸化ではなく、カポックとリサイクルポリエステルを混ぜてシート状に加工する手法を採用。カポックが本来持つ軽さや吸湿性といった特性を生かしつつ、中わたとして扱える素材に仕上げた。

カポックの実(上)とそれから取り出された中わた素材(下)

広がるカポック製品の輪

 同社は自社ブランド商品にとどまらず、アパレル向けに中わた素材を提供するマテリアル事業も強化。素材ブランド「NEO DOWN KAPOK(ネオダウンカポック)」も立ち上げ、国内外の展示会や商談で発信を強めている。カポックを使った製品の裾野は徐々に広がっている。

 「動物由来素材に代わる中わたとして、用途の可能性は広い」。同事業部の佐伯幸太郎さんは、素材供給を軸にした事業展開を進める考えを示す。また佐伯さんは「ゆくゆくは素材そのものが一つのブランドとして、世間に浸透していくことを目指す」と意気込んだ。

素材について説明するマテリアル事業部の佐伯幸太郎さん

 動物性ダウンと合成繊維が主流の中わた市場に、植物由来という〝第三の選択肢〟を提示するカポック。軽くて暖かい一着の裏側には、素材から産業のあり方を変えようとする大阪発の挑戦がある。

 POP UPスケジュールは下記の通り。
▼12月26日(金)〜翌年1月14日(水) 阪急うめだ本店(大阪市北区角田町8−7)
▼2026年1月28日(水)〜2月3日(火) 銀座三越(東京都中央区銀座4−6−16)

<取材協力>KAPOK JAPAN/吹田市千里山東1−7−18/電話06(7777)1477


※本企画は中小企業基盤整備機構 近畿本部の協力により制作しています。大阪・関西万博で同社の企画に参加した企業の取り組みを中心に紹介しています。

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