徳島県産品のアンテナショップ「とくしま県の店」(運営:公益社団法人 徳島県産業国際化支援機構大阪支部)は、1997(平成9)年のオープン以来、大阪・御堂筋で徳島の食と文化を大阪府民に向けて発信してきた。この店を2000(平成12)年から約25年間支え続けているのが、同機構大阪支部職員であり、名物スタッフで知られる平田典子さんだ。

実は平田さん、徳島出身ではない関西人。それでも、県職員もかなわないほど「産品のことなら平田さんに聞くのが一番」と信頼を集めている。移りゆく街と人々を御堂筋から見続けてきた平田さんに焦点を当てた。
仕入れも売場づくりも任される「御堂筋の徳島コンシェルジュ
「長く勤めているので、店づくりも仕入れも一通り任されています」
店での平田さんは、売り場づくりや日々の仕入れ計画を立てる“司令塔”的な存在だ。
こぢんまりとした店内には、徳島県産業国際化支援機構(旧・徳島県物産協会)から仕入れる商品をはじめ、平田さん自らが開拓した取引先の品など、徳島各地の産品がところ狭しと並んでいる。

組織改編で本部一括仕入れに移行した際も、「人気商品は残さないといけない」と、大阪ならではの売れ筋は独自に仕入れる体制を整えてきた。海産物、野菜、加工品、お菓子、調味料––。まるで“徳島の食カタログ”のような売り場は、平田さんの目利きと粘り強い交渉の功績だ。
人気No.1は大野海苔 大阪の「値段に厳しい」感覚も熟知
「普段は海苔が一番人気ですね。毎日のように売れています。この時期(秋〜冬)だと、鳴門金時(さつまいも)などのイモ類もよく出ます」
徳島といえば「鳴門わかめ」や「すだち果汁」も有名だが、店で圧倒的な支持を集めるのは「大野海苔(のり)」。県内では冠婚葬祭にも使われ、どの家庭にも必ず常備されているという。

大阪の消費者は価格にも敏感だ。平田さんはできるだけ手に取りやすい価格を意識する。
・徳島県内より安い「すだち果汁」
「同じ商品でも、スーパーより安いやんと買ってくださる方もいるんです。『すだち果汁』は徳島県内よりも安く買えるんですよ」
焼き魚や鍋などの料理、カクテルやサワーに加えるなどさまざまな料理で大活躍するこの「すだち果汁」。かつて平田さんが県の農林担当者と話し合い、「徳島の味をまず大阪の人に知ってもらうことが優先」と価格設定を工夫した経緯がある。「昔は500円ほどでしたが、25年で物価は上がり今は750円。それでも、徳島県内のスーパーより安いんです」

徳島出身じゃないからできる〝関西人のツボ〟おさえた魅力発信
生まれも育ちも関西人の平田さん。もともとはアパレルの販売員をしており、「事務仕事より、人と話すのが好き」という理由で「とくしま県の店」で25年前から働き始めた。
最初は、徳島産品や文化についてほとんど知識がない。上司にどうやって勉強すればよいかを尋ねると、「例えば、このそば米だったら自分で炊いて食べてみてと言われたんです(笑)」。「え〜、独身やのに、こんなん自分で作って食べるの?と思いながらも、自分の舌で産品を味わい、知るところから始めました」
とはいえ、店に並ぶ全ての商品を自腹で試せるわけもない。そこで平田さんは常連のお客さんを“共同テスター”として協力してもらうことを思いつく。
顧客カードを作り、「この人は何が好きか」「前回何を購入したか」などを全てメモ。次に来店したときに「この前の商品、どうでした?」と感想を聞き取り、自分の知識としてどんどん蓄積していった。
自身の経験とお客さんのリアルな声を掛け合わせながら、気づけば平田さんは徳島の人より徳島産品を語れる存在に。
「県の職員さんからも『この商品どう?』と聞かれます。商品に関してはおそらく私の方がくわしい(笑)」
「徳島の人ちゃうの?」と言われるたび、胸を張って伝えること
「いろいろくわしいけれど、徳島出身なん?」 長年、店に立っていると、こんなやりとりも少なくない。
「『いえ、関西人なんです』と答えると、みなさん驚かれます。でもその時に、『徳島出身ではないけど、長く勤めているので商品にはくわしいですよ。だから何でも聞いてください』と答えるようにしています。徳島出身じゃないからこそ、 関西の人に伝わりやすいのかもしれませんね」
■ “大阪受け”する商品を見極める
「関西で売れるかどうか」を見極めるのも、平田さんの大切な役割だ。
すだち七味や阿波尾鶏を使った鍋味噌、地鶏の削り節、ハチミツ、たけのこ水煮、地ビール…。本部の企画展や現地の売り場を訪れ、「これは大阪でも人気が出そう」と感じた商品は、写真付きで持ち帰り、仕入れを提案してきた。

「 大阪の人は〝量と価格のバランス〟をすごく見ておられます。例えば、地鶏の削り節も半分サイズより、たっぷり入って少し割安で得な方を選ぶ。だから、あえて大袋を多めに並べています」

天候や曜日、オフィス街の人の動きも常にチェック。ちくわやフィッシュカツ、惣菜など日持ちの短い商品は天気予報を見ながら慎重に仕入れる。

公式LINEは〝入荷日記〟 通知のタイミングは11時半がベスト
数年前からは、公式LINEによる情報発信にも力を入れている。
「この辺りのオフィス街はお昼休みが11時半頃から分散して始まります。だから、11時半に『今日こんなん入りました』と配信すると、急いでランチを済ませ、店に駆け込んでくださる方も多いんです」

画面を見ながら店頭にやって来て、「これ、今日のLINEに出ていた商品ですよね」と手に取るお客さんも増えたという。
狭い店内だからこそ生まれる〝客同士の口コミ〟
こじんまりとした店内では、客同士が「すみません」と声をかけながら、身を半身にしてすれ違う。
「狭い分、お客様同士の距離も近い」と話す平田さん。常連のお客さんが、見ず知らずのお客さんに「それ、おいしいですよ」と勧める光景も日常だ。

「常連さんに勧められ、海苔を購入されたお客さんが商品を気に入ってくださり、企業の手土産や挨拶品として後日300個ほどまとめて注文してくださったこともあります」
店員と客という単純な関係だけでなく、お客さんもいつの間にか徳島産品を広める協力者になっている「とくしま県の店」。そこには、長年積み重ねてきた平田さんとお客さんの信頼関係がある。
福袋やギフトセットにも〝関西目線〟 白みそを入れてもらう一言
年末はお歳暮シーズンだが、ギフトセットの開発にも平田さんの“関西目線”が生かされている。
その一つが徳島の代表的な「御膳みそ」。江戸時代に藩主の食事に供されたことから「御膳」の名がついたとされ、米に対して糀の割合は10割以上。甘みと香りが豊かで熟成した深い味わいが特徴だ。
「御膳みそ」のギフトの内容を見た平田さんは、すぐに白みそが入っていないことに気づく。
「大阪の人は、普段白みそをあまり買いませんが、お正月だけは白みそを使います。だから、この時期に白みそをもらうとうれしいんです」
そこで平田さんは「白みそも入れられないか」とメーカーに交渉。大阪向けのセットを作ってもらったという。

徳島の良さをそのまま伝えるだけでなく、「大阪で贈りたくなる徳島ギフト」に仕立てていく視点も、平田さんならではだ。
また、毎年、お正月になると店頭には恒例の福袋が並ぶ。中身は「売れ残り」ではなく、人気の定番と新顔をバランスよく組み合わせた平田さんの厳選パック。こちらも例年予約が殺到するそうだ。
徳島は「まだ知られていない魅力が詰まったところ」
平田さん自身も何度も徳島を訪れた。
「徳島は、まだ知られていない魅力がたくさんあります。ほとんどの人は、大塚国際美術館や阿波おどり会館などの有名観光地をめぐるだけですが、少し足を延ばせば観光客にほとんど知られていない『二重かずら橋』のような静かな絶景もある。そういう“隠れた良さ”も、お店をやりながら少しずつ伝えていけたらと思っています」

「常連さんを大事にしながら、新しい常連さんを増やしたい」
大阪・御堂筋で25年。長く足を運んでくれる常連客がいる一方、体調を崩して店に来られなくなった客もいる。そんなお客さんに対しては、電話で注文を受け付け、いまだに関係が続いているという。画面越しのLINEから、久しぶりに店を訪ねる人もいる。

歳月を振り返りながら平田さんは「常連さんを大事にしながらまた新しい常連さんを作っていく。それを繰り返しながら店を切り盛りしていきたい」と話す。
「店を休むと『病気かと思った』と心配してくださるお客様もいて。実際は遊びに出掛けていただけなのですが(笑)。それだけ気にかけてくださるのはうれしい」
徳島出身ではない一人の関西人が、徳島の生産者と大阪のお客さんをつなぐ“語り部”として歩んだ25年。店では今日も、関西人のために平田さんがアレンジした徳島の味が並んでいる。
では、最後に平田さんおすすめの産品を見ていこう。

もっちりと上品な甘みの「阿波ういろ」は江戸時代に阿波和三盆糖が作られた祝いに徳島藩主が3月3日の節句に食したのが始まりだとか。

平田さんのおすすめの「栗ういろ」は無添加で賞味期限は短いが、「はじめてういろうがおいしいと思った」そう。

ニホンジカを使ったジビエの缶詰「鹿缶」は味噌と醤油がある。

脂の乗った寒サバと徳島県那賀町木頭産の香り高いゆずを使った缶詰。味噌煮と水煮がある。

こちらは骨付き地鶏が入ったレトルトカレー。レトルトをちょっとぜいたくに楽しみたいときに購入されることが多いとか。

地ビールもいろいろそろえている。

地元では「中華そば」「支那そば」とも言われる徳島ラーメン。醤油と砂糖で甘辛く煮込まれた豚バラ肉が特徴だ。
(記者:佛崎一成)
※記事に掲載した商品価格は取材時点(2025年11月19日)のものです。
