今年上半期の外国人宿泊者数 関西は「大阪」「京都」が突出

 近畿運輸局が今年上半期の観光統計をまとめた。近畿の空港(関西空港と神戸空港)から入国した外国人は550万人を超え、訪日客全体の4人に1人が利用したことが分かった。宿泊は大阪・京都の2府に偏る構図が続いているが、関西はさまざまな魅力が詰まった一つの観光圏。2府の集客力を生かしつつ、豊かな観光資源を持つ周辺県への周遊が進めばさらなる成長が期待できそうだ。

平日にもかかわらず観光客でごった返す道頓堀の戎橋付近=大阪市中央区(編集部撮影)

関西の観光統計 上半期の結果出そろう 訪日客 4人に1人が関西へ

 国土交通省近畿運輸局が10月7日、今年6月の「関西の観光統計」を公表し、上半期(1〜6月)の結果が出そろった。近畿の外国人入国者数は554万4398人で、コロナ禍前に過去最高を記録した19年を25.8%上回った。訪日客需要が急拡大する中、特に大阪と京都が全体を大きく押し上げ、他府県との格差も浮き彫りとなった。 (加藤有里子)

大阪・京都の2強突出

 全国に占める近畿の割合は25%と高く、訪日外国人の4人に1人が近畿を訪れている計算だ(国内全体の外国人入国者数は2137万6170人)。国別は中国、韓国、台湾、香港、アメリカの順。ロシアは2万4520人と多くはないが、19年上半期に比べ579.4%の増加となった。
 国内の延べ宿泊者は3億1044万5820人。このうち、外国人が9099万2020人と約30%を占める。近畿では延べ宿泊者5889万8870人のうち、外国人は2391万90人で40%に達した。
 府県別では、大阪は約1284万人(同42%増)、京都は933万人(同42%増)、兵庫91万人(同24.5%増)、奈良26万人(同0.5%減)、和歌山40万人(同22.2%増)、滋賀17万人(同28.2%減)。大阪と京都が圧倒的で、大阪が宿泊者全体の約4割、京都は5割以上を外国人が占める。関西空港や新幹線、在来線などのアクセスの良さ、宿泊施設の多さ、世界的な観光資源の集積が長年の強みだ。
 「大阪・京都2強」は突発的な現象ではない。観光庁や自治体の過去の統計を見ても、外国人宿泊の大半は常に2府に集中。JNTOの都道府県別訪問率ランキングでも2011年以降、大阪と京都が常に上位を占める(コロナ禍のデータはなし)。

神戸は 〝一人負け〟か?

 「大阪・京都以外は外国人が来ていない」のか? ある全国紙では「神戸は関西のインバウンド一人負け」と報じている。確かに、南京町や異人館などは、日本らしさというよりも訪日客にとっては日常風景で、外国人には刺さりにくい面もある。しかし、ハーバーランドや有馬温泉、灘五郷、淡路島、姫路城、城崎など兵庫県内の観光資源は豊富で、十分に認知されていないことが課題だ。
 同県の産業労働部観光局観光振興課の藤原篤実主幹は「『神戸ビーフ』は有名だが、神戸がどこにあるかはあまり知られていないのが現状。県では齋藤元彦知事が韓国などへ出張し、ハイクラスの外国人に向けプロモーションかけている」と話す。受け入れ環境の整備も進み、4月には神戸空港が国際線を開設。わずか3カ月で約11万人の訪日客が利用した。

日本三大中華街の一つ、神戸の南京町(今年9月、編集部撮影)

京阪エリアの宿泊施設充実も要因

 奈良は外国人延べ宿泊者数こそ多くないが、一定水準を保つ。東大寺や法隆寺など世界遺産を数多く抱え、古都としてのブランド力は高い。しかし、京都のように地下鉄やバス網が発達しておらず、観光地間の移動が不便だ。夜間の飲食店は近鉄奈良駅周辺に限られ、ホテル数も十分にない。結果、「日帰りで訪れる都市」の性格が強く、宿泊が伸びにくい。
 和歌山も白浜温泉や高野山、世界遺産の熊野古道など「自然・精神文化・リゾート」を強みに外国人を引きつけている。
 滋賀は京都に近接し、観光資源もあるが、外国人宿泊者数はむしろ減少傾向。県観光振興局誘客促進係の上田さんは「京都市内の宿泊施設が充実したため、観光が京都だけで完結するケースが多い。このため、コロナ前の水準まで回復できていない」と話す。県では、京都近接の立地を生かし、「自然」「水」を楽しめる観光地を強みとしてPRを進めている。

他県周遊の策を

 今後、近畿全体の課題は「集中と分散のバランス」だ。大阪・京都の集客力を生かしつつ、他県へどう周遊してもらうか。近畿運輸局では、実証事業として食事や文化、歴史体験ができる地方へのバスツアーを実施しているほか、大阪と京都を結ぶ淀川クルーズの試行も行った。
 観光部の主査、新宅輝也さんは「淀川航路は60年ほど前は人や物資の輸送に盛んに使われていた。有事の際には物資輸送ルートとして機能させることも検討している」と話す。
 交通アクセスの改善、外国人向けの情報発信、滞在型コンテンツの充実など、各府県の個性を生かした戦略が求められる。
 近畿は多様な魅力が凝縮した「一つの大きな観光圏」で、その連携が最大の強み。訪日客の伸びが勢いを増す中、「2強集中」と「多様な役割」を併せ持つ独自の構造を武器に、さらなる成長の可能性を秘めているといえよう。

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