次期国会議員候補 モー・ミン・ウー氏 独占インタビュー

「軍は悪、民主化は善」──多くの日本人が思い込んでいるミャンマーの内情に異を唱える次期国会議員候補のモー・ミン・ウー氏。報道からは見えないミャンマーの真実について、本紙が独占インタビュー。

ミャンマー軍事政権は、本当に悪か? 不正選挙に始まった混乱の真相
経済発展が平和への近道。 日本への期待も
日本では「軍=悪」の構図で報じられることが多いミャンマーだが、「軍事政権は悪、民主化運動は善という単純な二元論では実相を見誤る」と次期国会議員候補で実業家のモー・ミン・ウー氏は指摘する。不正選挙の背景、民主派指導者アウンサン・スーチー氏の真実、麻薬や大国の影響…。既報道では見えないミャンマーの真実に迫る。(聞き手・畑山博史/文まとめ・佛崎一成)
─民主化の旗印だったスーチー政権に対し、ミャンマー国軍がクーデターを起こして実権を握ったという構図で報じられている。このため、日本では「軍=悪」とみられているが、実態は
その見方は単純すぎる。発端はスーチー氏側が圧勝した2020年の総選挙だ。有権者数をはるかに超える票が投じられ、100歳以上の投票者が何万人もいるような中身。明らかな不正選挙だった。このため、軍はスーチー氏側に28回も協議を求めたが聞き入れられず、仕方なく国会開会の直前に拘束へ踏み切った感がある。つまり、「軍が突然クーデターを起こした」という理解は正しくない。
─ただ、今年3月の大地震後も、国軍は被災地を含めた各地を空爆し、住民が巻き込まれていると報じられた。報道を見る限り、「軍はひどいことをする」と認識している日本人は多い
私も日本のニュースを見るが、現実はそんな単純ではない。もし、本当に軍が民族や市民の排除を目的としているなら、大都市を攻撃する方がはるかに効率的だ。なぜ、わざわざ5人や10人しかいない村を狙うのか。もちろん犠牲者は出ているが、「軍が国民を憎んで無差別に殺している」という解釈には到底納得できない。
多数の死者が出た事実は重く受け止めるべきだが、私が見た現場はもっと複雑だ。軍がデモを鎮圧する過程でも、当初は放水など非致死的な手段が使われ、その後エスカレートした局面もある。軍は国家を守る存在という自己認識がある一方、市民も生活と自由を守りたい。その対立が内戦の連鎖を生み出している。どちらかを単純な善悪でくくると解決の糸口を失う。
─スーチー氏は「民主化の象徴」として世界的に評価されているが、モーさんはどう見ているか
まず、私はどちらにも肩入れしていない立場を明確にしておきたい。その上で、スーチー氏について言うなら、評価をしていない。理由は子どもがイギリス国籍だからといって、憲法を変えてまで大統領資格を広げようとしたからだ。こうした発想は制度の根幹を揺るがしかねない。
加えて、在任中のスーチー氏は軍との対立にばかりに力を注ぎ、経済発展や国民の暮らしを後回しにしてきた。国を本当に愛していたのだろうかと疑ってしまう。
確かに民主化を訴えはしたが、実際に法律を作って制度を整えたのは別の人たちだ。2010年からの実態を見れば明らかだ。
─軍は決して民主化を阻んでいるわけではない? もし軍が民主化を拒んでいるなら、わざわざ軍が国会や憲法を作るはずがない
軍内部にも民主化を志す層は存在するし、そもそも「軍=単一の意思」ではない。世襲で固定された体制ではなく、世代ごとに人が入れ替わり考えも異なる。
仮に軍が民主化を全否定するなら、憲法も国会もやらなければいい。しかし、実際には制度の場を維持し、民主化への段階的な移行を続けている。もちろん、国会議員の25%が軍指定枠になっていることなど論点は残るが。
ただ、民主主義は訓練を要する。理解が浸透する前にフルスロットルで回すと、数の論理で破綻も起きる。だから段階的という設計が必要だ。
─戦後、同じ旧英領でもシンガポールやマレーシアに比べ、ミャンマーは経済で遅れをとった。理由は
内輪もめが長期化したことが最大の要因だ。本来、ミャンマーはインド洋と中国・メコンを結ぶ要衝で資源もある。にもかかわらず、対立が投資と人材の流れを阻害してきた。だからこそ、私は「経済から平和へ」という逆算を提案している。配分可能な富が増えれば対立も和らぐ。理想論に聞こえるかもしれないが実は一番現実的だ。
─部族や民族間の対立を突き詰めればやはり、「経済」ということか
そうだ。ミャンマーという一つの国の中に135の民族がいる。135の小さな国が共存しているようなもので、それぞれの誇りと痛みが蓄積している。そこで必要なのは、誰もが分け前にありつける仕事だ。食事にありつける、電気が点く、子どもが学校に通える…生活の実利があれば、武器を置く理由が生まれる。
─宗教対立の度合いは
仏教徒が多数で、宗教を主要因とする大規模衝突は相対的に少ない。火種はむしろ政治と経済の機能不全にある。だからこそ、制度とパン(生活)を同時に回す必要がある。
─豊かになれば失いたくないものが増え、暴力のインセンティブが下がるということか
まさにそこだ。順番を間違えてはいけない。「選挙→国会→経済」。武器ではなく制度の場に戻し、配分可能な富を増やす。議会でやり合う分には命は落とさない。
─日本でよく耳にするのが、ミャンマーとタイの国境地帯にある「特殊詐欺の拠点」や「麻薬生産の温床」という報道だが
まず国境の実情を知ることが大事だ。中国と接する線上は、言語も電波も電力も〝隣国仕様〟という日常がある。チャット(ミャンマー通貨)が効かない地域もあり、そこで横行しているのがオンライン詐欺や違法ギャンブルだ。オンライン詐欺はネットと送金が生命線で、裏で必ず銀行が関与しないと成立しないが、ミャンマーの銀行は使われておらず、ある国の金融システムを経由している。
─つまり単純に「ミャンマーだけの犯罪」と切り取れる話ではないわけだ
さらに深刻なのが麻薬だ。ミャンマーは今や世界有数の麻薬生産国になってしまった。理由は簡単で、武装勢力が軍と戦うための資金をそこに頼っているからだ。村人が巻き込まれ、世界中に覚せい剤やヘロインがばらまかれている。
─戦後の日本でも闇市が全国で拡大し、失業者らの現金収入源として覚せい剤がまん延した時期があった。しかし、産業が立ち上がったことで、非合法から合法の仕事へ人が移れた経緯がある
同じだ。儲けているのは一握り。多くの村は貧しく選択肢がないから手を染める。別の仕事で食べていけるなら、彼らはそちらを選ぶはずだ。
─まさに経済が重要だと
私が国会に入ったら、日本との議員連盟を作り、麻薬撲滅に向けた共同の仕組みを提案したいと思っている。貧困ゆえに違法な仕事に手を染めざるを得ない国民に、別の産業と仕事を与えること。これが唯一の出口だ。
─ミャンマーに対する周辺国や大国の思惑は
ミャンマーは資源大国である上に、地政学上の要衝だ。具体的なことは明かせないが、いま水面下で大型構想が動いている。私としては日本に関与してほしいが、ある大国は強く反発するだろう。
─大型構想とは
今は言えない。余計な横やりが入れば、国益そのものが傷んでしまう。日本に「正面から」「正当な枠組みで」関わってもらえれば、ミャンマー経済は段違いに跳ねるだろう。
─中国のインド洋への出口志向は一貫している
中国にとって太平洋側は常に摩擦があるから、インド洋に抜けるミャンマーに強い関心を持つのは当然だ。ただし、我々は全面的に中国を受け入れてはいない。もし全面開放していれば、とっくに飲み込まれていたはずだ。周辺国とのこうした関係がある中で、日本は直球で筋を通す国。私はそこに希望を見ている。
─地政学上も優位なミャンマーとの関係は日本にも大きなメリットをもたらす
インド洋に開く港は、今後拡大するインド・アフリカ市場への輸送に適している。タイ・中国との陸路も合わせ、「東南アジアの通路」としての潜在力は大きい。
─ミャンマーは日本をどう見ているのか
独立期に日本から学んだ軍事・行政の歴史的関係があるし、何より私自身が日本の教育と社会に育てられたと感じている。軍側も、民主化を志向する側も、対日感情は総じて良好だ。だからこそ、日本には大国の肩を持つような拙速な判断をしてもらいたくない。日本にこそアジアのリーダーシップを取ってもらえることを期待している。
─読者にメッセージを
ミャンマーでは12月の総選挙を経て2月に国会が開かれる。そこからが本番だ。武器ではなく話し合いで決め、配分可能な富を増やす。ミャンマーの潜在力は必ず現実になるから、日本にはその伴走者になってもらいたい。
最後に、日本の報道について一言。ニュースは100のうち10しか取り上げないし、2しかテレビに流れない。断片で判断せず、各国のメディアを突き合わせ、一次資料と現場の証言を並べ、翻訳ツールを使ってでも読みに行く。疑うこと、比べること、それがミャンマー市民の力になる。
