1年前に行われた自民党総裁選が再び始まった。あの時は9人が乱立し、石破茂・元党幹事長(68)が大方の予想を覆して勝利。ところが、この1年で自民党は衆院選、東京都議選、参院選と3連敗し、国政では少数与党に転落。責任を取る形で石破総理はあえなく辞意表明となった。
後を継ぐ総裁には、あの時負けた8人のうち5人が再び立候補。「また同じ顔ぶれだ…」と有権者の見方は冷ややかだ。
投開票は来月の10月4日。小泉進次郎と高市早苗の一騎打ちの様相が強まる中、「勝者は誰? 次の政権の枠組みは?」を予想するとともに、各立候補者が総裁になった場合、生活はどうなるかをそれぞれ考えてみた。

決戦! 自民党トップ争い 〝国民の声〟か〝強い経済〟か
新聞やテレビなど旧メディアは、候補者5人を公平に扱っているため、強弱を示すような表現を極力避けている。だが、ネット上では昨年の総裁選1回目で3位だった小泉進次郎農水相(44)が本命、1回目が1位で決選投票2位だった高市早苗前経済安保相(64)を対抗馬、1回目で4位だった林芳正官房長官(64)を穴馬として予想している。
昨年の総裁選の前予想は「◎小泉、○高市、×石破」だった。今回も1回目で過半数を取れそうな候補者は見当たらないから、上位2人に絞られた後、国会議員による決選投票になりそうなことから、昨年のようなハプニングも起こりうる。
世論調査では、初の女性総理誕生へタカ派の高市の支持が高い。しかし、国会議員たちは「選挙の顔として最適な人。つまり自分が議員バッジを付けるのに誰が一番有利か」の思惑が働くから、リベラルな小泉待望論が多い。ただし、小泉は失言も多く、昨年の討論会で失速した。このため、リベラル派が安全を期した林が〝二の矢〟だ。
残る2人のコバホークこと小林鷹之・元経済安保相(50)は政策的には高市と近いタカ派で、世代的に〝次の次〟を狙ってもおかしくない。前回、一本化できなかった背景は、財務省筋が同省出身の彼に「高市に1回目で過半数を取らせないための票分散」を仕掛けたと見る。中道で政策通の茂木敏充・前党幹事長(69)は独自の戦いだ。
世襲のスター小泉、たたき上げの高市
小泉は石破と経歴が似ている。共に3、4代目の世襲議員で、20代で衆院に初当選。国会内に盟友は少なく、総裁選立候補時は無派閥。ただし2人とも「地盤(地方議員の支え)・看板(代々の知名度)・かばん(金銭的支持)」がそろっており、選挙にはめっぽう強く、一度も落選していない。
逆に高市は自民党国会議員の典型的な出自である「二世・秘書・地方議員」のいずれも該当しない。松下政経塾から大学教員を経て、奈良で参院選に無所属で出馬し落選。次の衆院選で初当選した。その後、自由党、自由改革連合、新進党などを渡り歩き、ようやく自民党入りして森派に属した。
しかし、2003年に2度目の落選を経験。近畿大教授を経て小泉純一郎総理(83)の郵政解散で現職への刺客として出馬し返り咲いた。その後、安倍晋三総理(22年、67歳で死去)を慕い、無派閥となったが安倍派に属したことはない。夫の山本拓・元衆院議員(73)の選挙区は福井だが現在落選中だ。
「人の陣」の小泉か、「政策力」の高市か
個人の政策立案能力では高市が一歩リードしている。しかし、頼みの麻生太郎最高顧問(85)や萩生田光一元政調会長(62)ら大物からの支持表明が得られていない。
一方、小泉は周りに菅義偉副総裁(76)をはじめ、前回立候補の加藤勝信財務相(69)が選対本部事務局長に就き、河野太郎元デジタル相(62)も支持を表明。優秀人材が多く集まっているので取りまとめ役に徹すればよい。高市との決選投票になったら岸田文雄・前総理(68)や石破総理からの支持も期待できる。
高市の発表した「日本経済強靱化計画」(通称サナエノミクス)は、①機動的な財政出動②大胆な危機管理投資③成長投資─の3本柱。
物価安定の目安となる消費者物価指数2%を達成するまでは、財政収支を均衡させるプライマリーバランスを凍結し、財政出動を優先させる考えだ。彼女が師と仰ぐ安倍元総理のアベノミクス3本の矢(①大胆な金融政策、機動的な財政政策②規制緩和の民間投資による成長戦略③生産性向上の構造改革)と何やら似ている。そして、財務官僚はこのアベノミクスを最も嫌っている。
対する小泉は「国民の声を聞く」。こちらは岸田前総理のスローガン「聞く力」と似ている。岸田は就任時に古びた手帳を示し、「国民は〝自民党に声が届いていない〟と感じている。私は真摯(しんし)に耳を傾ける」と約束した。小泉もほぼ同じような言い回しで「これまでの自民党は団体や組織を相手としていた。私はもっと個々の国民の声を聞く」というが、岸田のその後のやり方は「周囲との協調型」政治だった。
つまり、アベノミクスに象徴される強いリーダーシップ型を評価するなら高市。岸田型の調整政治を望むなら小泉というところか。1年前は「高市NO」の国会議員が多かった。彼らの支援者に中国ビジネスを手掛ける企業は多いし、彼女の靖国参拝による確執は、米国を含む諸外国からも評判があまりよくないから警戒しているのだろう。
政権安定のカギは維新・国民どっち?
小泉と高市の総裁選公約で共通するものを見ていこう。
●給付付き税額控除(立憲が推奨する所得に応じた一定減税で、9月に自公立3党で協議体設置へ一致)
●ガソリンなどの暫定税率廃止(7月に自公与党と立憲、維新、国民、共産の野党の計6党合意)
●〝年収の壁〟引き上げ(昨年末、「25年から」と自公国で合意)
いずれも少数与党の石破政権が国会運営に協力させるため、野党と話し合いに応じたものばかり。
石破政権で進めていた26年度からの防災庁設置と地方創生やコメ増産を含む農政改革、外国人不法滞在防止なども2人とも引き継ぐ意思だ。常識的には公党として約束事を守るのは当たり前。ただ、以前の自民党なら衆参両院で過半数を得ていたので野党に耳を貸す必要はなかったが、もう自公だけの少数与党では議案は何一つ通らない。
一方、野党側も総結集すれば過半数を超える。しかし、立憲の野田佳彦代表(68)が「全野党が結集して首班指名には私を」と提案してもどこも乗ってこない。自民党も右派の保守党や参政党を加えても、衆院の首班指名に必要な過半数には足りない。ここでも上位2人の決選投票になるが、次は1票でも多い方が勝つから野党が大同連携しない限り、1回目の1位が予想される自民党総裁が内閣総理大臣となる。
何でも多数決がルールの国会審議で、政策・議案ごとに相手政党を組み変える綱渡りはそろそろ限界。
ズバリ、高市なら税制政策で親和性がある玉木雄一郎代表(56)の国民民主党だ。玉木は財務官僚出身だが反財務省の論客で、財務相に起用すれば官僚相手に大なたを振るうだろう。
一方、小泉なら維新がパートナーだ。橋渡し役は菅。ところが維新の国会トップ、藤田文武共同代表(44)は自らを「東京支社長」と称し、交渉相手ではない。党代表の吉村洋文大阪府知事(50)は、住民投票3回目となる〝大阪都構想〟が念頭にあるから、維新国会議員団に副首都法案策定のプロジェクトチームをスタートさせている。小泉にすれば政権が安定するなら都構想を丸呑みしても痛くもかゆくもない。
連立構想は単純ではなく、高市も副首都構想を否定しないで維新に秋波を送り、逆に玉木も小泉との一致点を探るなど「維新VS国民」の野党ライバルは連立政権参加につば競り合いを演じそうだ。
2人のアキレス腱は?
振り返ってみると、1年で総裁に立候補する者はほぼ半減し、自民の国会議員も50人以上減った。昨年はキャラが立たないと抜け出せなかったが、今回は「嫌われない」がキーワード。このため小泉は「選択的夫婦別姓」と「解雇規制見直し」を公約から下げ、高市も「食品消費税ゼロ」と「日銀の金融政策批判」を下げた。これは支持者の失望を招きかねない危険な賭けでもある。
今後起こりそうな状況を予測してみよう。高市政権なら円安と財政出動が続く。短期的には株高に動くが、中長期的には国債の金利上昇圧力と財政再建論議にさらされる。小泉政権なら構造改革をバックに公定金利上昇圧力が強まる。企業は新陳代謝を断行して生産性向上が求められるだろう。
