世界が注目する4月開幕の大阪・関西万博は、地方にとっても絶好のPR機会。各県とも万博を活用し、さまざまな地方活性の取り組みを計画している。大阪に事務所を構える徳島県の阿部順次本部長、沖縄県の新里雅恵主幹、長野県の南雲康弘所長にお集まりいただき、地方創生に関する座談会を行った。(聞き手・佛崎一成)
徳島県 万博徳島県ブースから、おトクに徳島へ。〝徳島応援団〟強化し魅力発信も

長野県 子育て層は転入超過。大都市との関係人口増やす取り組みを促進

沖縄県 泡盛に続き、琉球料理や伝統工芸など沖縄の伝統文化のブランド強化

─大阪との関係は。
徳島・阿部本部長 徳島県は温暖な気候に恵まれ、すだちやなると金時といった農産物が豊富で関西の台所(食料供給基地)とも言われており、生産者は自負を持っている。また、古くから藍染めやその元となる藍染料(すくも)づくりが盛んで、徳島で作られた高品質なすくもは「阿波藍」とよばれ、大阪をはじめ全国に供給されてきた。
生活面でも昔から関西キー局の電波が徳島にも届いており、生まれた時から大阪の番組を見て育っているので親しみが深い。関西広域連合にも最初から参加しており、万博では関西パビリオン内に徳島県ブースを常設する。
沖縄・新里主幹 沖縄県は大阪から遠隔地にあるが、第一次大戦後に沖縄から大阪へ出稼ぎにやって来た人々が、紡績が盛んだった大正区に集まってコミュニティが形成されていった。今でも区民の約4分の1は沖縄出身者と言われている。沖縄県人会のつながりも強く、今でも府内の地域ごとに10の県人会があり、それを県人会連合会がまとめている。
こうしたつながりもあって、関西では三線教室や舞踊など琉球芸能に関わっている方がとても多い。
昨年12月には伝統的酒造りで沖縄の「泡盛」がユネスコの無形文化遺産に登録されたが、これとは別に沖縄県では、空手や琉球料理、伝統工芸なども含めた伝統文化を登録申請しようとしている。
長野・南雲所長 関西の特に40代以上の方はスキー教室や修学旅行地として親しみがあると思う。宝島社発行の「田舎暮らしの本」でも、移住したい都道府県で19年連続1位と評価されている。
南北約200㌔と長く、県内移動でも行く先によって車で3~4時間はかかる。長野駅から北陸新幹線に乗れば東京へ1時間半でアクセスするが、大阪には長野駅や松本駅からは3時間半くらいかかり、やはり遠いと感じている方も多い。また、大阪市が国内で唯一、飯山市と姉妹都市提携を結んでいるほか、スキーでの交流も盛んだ。
─大阪事務所の役割は。
阿部 徳島にゆかりのある徳島県人会やふるさと会のサポートはじめ、企業誘致や移住交流、ふるさと納税や農林水産物のPRなど多岐にわたるが、「阿波おどり」の振興に力を入れている。関西阿波おどり協会が中心になり、「天神天満阿波おどり」など、関西各地のイベントに躍り込んでいる。阿波おどりを普及させることで、「本場の徳島で踊ってみたい、観てみたい」と徳島に来ていただき、関係人口の拡大にも繋げるのが狙いだ。
万博では5月2日、3日を「世界が踊る日」として総勢700人の踊り手が来場者を踊りの輪に巻き込む阿波おどりイベントを実施する。
新里 県産品販路拡大や観光PRなどあるが、沖縄ならではの取り組みとしては、高校を卒業して就職した若者に対する職場定着指導があり、職場訪問をしている。大阪と沖縄の違いでいうと、例えば沖縄には電車がないので、乗り方に苦労する。生活面でも気候がずいぶん異なり、冬場に室内と室外の寒暖差で窓に水滴がたまることも初めての経験になる。風呂場では湯船に浸かる習慣がないから、お湯炊きのボタンも押したことがないなど。サポートが手厚い企業には定着するし、就職希望の学生も増える。
南雲 移住の専門のスタッフを配置し、相談を受けている。関西は2000万人の大きなマーケットだ。また、長野県は中小企業が非常に多く、製造業が盛んな関西での発注元を開拓する職員も配置している。毎月、大阪事務所からレポートを発行し、県内の市町村や企業関係者らと共有している。レポートの中身は例えば、関西で一番の話題となる万博の動きや、インバウンドの状況などの話題や事務所の取り組みなど、関西の動きを紹介している。
こうした活動を通じて実際に県内自治体や県経営者協会などから、さまざまな動きが出てきた。
―各県の課題についてはどのようなものがあるか。
南雲 若者は「長野県内には娯楽がない」と、首都圏や関西に転出してしまうが、逆に30代は「自然豊かな環境で子育てしたい」と転入超過の状況にある。それでも地方共通の課題として人口減が続いている。地域の活力を取り戻すためには大都市とのつながり強化が重要で、リゾートテレワークと呼ぶ二拠点居住などを呼びかけている。働き方が変化する中で関係人口を増やす戦略だ。
阿部 コロナ禍の影響や高齢化により、県人会や市町村レベルのふるさと会など徳島を応援していただく活動が減少基調になっているのが課題。こうした現状を打破するため、大学時代を徳島で過ごした大学の同窓会や徳島への進出企業、徳島をフィールドワークの地として勉強している大学生の皆さんや阿波おどり関係者など、関西で少しでも徳島にゆかりのある皆さんに集まっていただく新たなイベントを関西本部が音頭を取って実施し、関係人口を拡大し、徳島応援団を強化していく計画を進めている。
新里 沖縄県内企業の県外進出がなかなか進んでいないのが課題。要因は人流・物流に関する経費や時間面での制約が大きいこと、また、情報の格差もある。沖縄県内企業の中には、自分たちの仕事の拡がりや可能性に消極的なところもあり、惜しいと感じる。県外事業者とのビジネス連携などをもっとサポートしていきたい。
観光では、今年度4~9月の沖縄への入域観光客数は500万人弱で昨年より増えている。国内観光客はコロナ前水準に戻った。ただ、繁忙期と閑散期の差が大きい。梅雨明けの6月ごろから観光シーズンが始まり、10月ぐらいまで続くが、12、1月になると、少し落ち込む。
要因の一つは修学旅行の沖縄離れだ。航空機運賃やホテル宿泊費などの値上がりが影響している。大阪市内の中学生の修学旅行予算は1人6万円台と聞いており、こうなると沖縄は難しくなる。
物産の方は、今年度は大阪で泡盛フェアが開催された。ただ、県人会や沖縄料理店などを中心に周知活動をしたため、来場者は泡盛にくわしい人が多く、新規層に情報が届いていないと感じている。

─各地の特産品についてストーリー展開すれば、より価値や魅力が伝わりやすくなるのではないか。
新里 すでに取り組んでいる。泡盛は日本最古の蒸留酒で約600年の歴史があり、寝かせれば寝かせるほどおいしいお酒だ。最近だと、バナナ酵母を使い、少しバナナの香りがする泡盛や、フルーティーな泡盛も登場している。飲み方も水割りやストレートだけでなく、炭酸割りやカクテルなどいろんな飲み方をPRして、若い世代や女性の方にも飲んでもらいたい。
阿部 大塚国際美術館で有名な鳴門市には第一次大戦中の板東俘虜(ばんどうふりょ)収容所で過ごしたドイツ兵たちの活動の様子を展示するドイツ館がある。ドイツ兵が地元の人々との友好的な交流の中で、200年以上の歴史を持つ地元「大谷焼」の製作技法を学び、大谷焼のビールジョッキが作られた。松平健さん主演の映画「バルトの楽園(がくえん)」も制作されている。
─外国人宿泊者の6割は東京、大阪、京都の3都府に集中。裏を返せば地方は恩恵を得られていない見方もできる。どう地方に流していくか。
阿部 昨年末に初めて徳島空港から香港、韓国仁川を結ぶ直行便がそれぞれ週3回通年で定期就航するようになり、インバウンド誘客の絶好の機会。ただ、夏の阿波おどりなど大規模イベント時には宿泊施設の不足が課題となっており、外国人宿泊者にも対応できるよう、高品質で大規模なホテルの新増設に対する最大10億円の補助を創設するなど宿泊施設充実に取り組んでいる。ソフト面では「四国八十八カ所お遍路」や「鳴門の渦潮」の世界遺産登録化に加え、冬の「おどりフェスタ」など通年でお越しいただく集客イベントも重要。
新里 観光庁の統計によると、沖縄の外国人宿泊者数は東京、大阪、京都に次ぐ4位。また、今年7月には新しいテーマパーク「ジャングリア」がオープンする。USJをV字回復させた森岡毅さんが率いるプロジェクトで、外国人観光客も取り込めると期待している。一緒にPRしていきたい。初年度は敷地面積の約半分のオープンで、徐々にエリアを広げていくと聞いており、毎年、毎年、新しいジャングリアが楽しめるようだ。
南雲 長野県の白馬などのはスノーリゾートは好調。オーストラリアからのスキー客や雪を見るために訪れるタイや東南アジアの観光客も多い。
県内に信州まつもと空港があるが、国際線のゲートウェイとなるとやはり成田や関西空港などになるので、そこからどうやって観光客に来てもらうかが一番の課題になっている。東京と大阪、京都を通るゴールデンルートに、北陸新幹線が延伸したことによって近くなった長野にも立ち寄ってもらうようなゴールデンループを描いている。東京、大阪、京都に観光した後は、北回りで帰っていただき、長野に立ち寄ってもらうPRをしていく。
─最後に各県のPRを。
阿部 万博の徳島県ブース来場者を対象に関西発徳島着の高速バスとフェリーの片道運賃を500円とするワンコインキャンペーンを打ち出している。
また、今年は4月の万博開幕以降、徳島では6月に国際消費者シンポジウムと食育推進全国大会、7月には国内最大の宇宙の国際学術会議ISTS、8月には夏の阿波おどりと、期間中全国や世界から大勢の皆さんが集まる大規模イベントが集中しているので、大阪、関西の皆様には万博の徳島県ブースに行き、ワンコインキャンペーンも活用し、ぜひ徳島にお越しいただきたい。
新里 昨年度の県の調査で、沖縄には好奇心旺盛で、付加価値の高い旅行を求める、非日常体験をしたい旅行者が訪れることがわかった。沖縄に来ていつもと違う時間の流れ、食事、さまざまな体験をしてもらうため、例えば伝統的な建物などで琉球古典の三線と舞踊を鑑賞しながら琉球料理を楽しむなど沖縄ブランドを強化していきたい。万博では8月に沖縄空手の演舞も催される。
南雲 長野県も8月27日から4日間、万博に出展する。ちょうど暑い時期なので、山岳リゾートの涼しい長野を紹介する予定だ。五感で感じられるような体験型のブースになる。長野県にはおいしい食やアウトドア、サイクルツーリズム、また例えば山伏体験など特徴的な体験コンテンツもあるので、万博の期間中に会場外でも魅力発信できないかと計画している。世界が注目するこの機会に、しっかりプランを練って取り組みたい。