Spyce Media LLC 代表 岡野 健将
10月31日、米ニューヨークで行われたワールドシリーズ第5戦で、大谷選手が所属するロサンゼルスドジャースが勝利し、今年のワールドチャンピオンになりました。
世界一になりたいと、10年契約でドジャースへ移籍した大谷選手は、1年目にして目標を達成。「あと9回優勝しよう」というコメントも取り上げられていました。
ワールドシリーズ(WS)をミクロ経済的にみると、チケット料金が最低でも10万円近く、最高だと数百万円という額になり、それがネットなどで高額に取引されました。それでも全5試合とも球場は満員。球場内の映像を見る限り、全員が裕福な家庭出身というわけではなさそうで、その多くは一般の米国民。カジュアルな服装で、子どもを連れている人もいました。そんな彼らが高額なチケットを購入できる財力はどこから来るのでしょうか。
マクロ経済的に見ると、ドジャースは大谷選手との10年契約の契約金約1000億円を1年で回収したと言われるほど今年は儲けています。球場の入場者、グッズ販売、球場内での広告収入、放映権料などの収益増に加えて、世界的に知名度をアップさせました。そしてワールドチャンピオンのトロフィーも獲得。現在のドジャースのチームの価値は約8200億円です。
メジャーリーグベースボール(MLB)は今年3つの放送局と契約しており、放映権料は約3000億円。現契約では2028年までの毎年、この額を得られることになっています。WSを中継していたFOXだけでも年間1000億円以上を支払っています。今年のWSの日本での放映権が1試合3億円ほどで、来年約5億円になったら地上波では放送できなくなると言われているので、その差に驚くばかり。
その結果、シーズン中のチケット料金も〝うなぎ登り〟に高騰。ロサンゼルスやニューヨークでMLBの試合を観戦すると、家族4人で入場してビールやホットドッグなどを食べ、Tシャツやキャップを購入すれば10万円は下らない額を支払うことになります。
MLBのまばゆいばかりの繁栄の裏で、ドジャース優勝の日の深夜には、ロサンゼルス市内で放火による火災が発生したり略奪が行われたりしたニュースが伝えられています。まさしく〝持つ者と持たざる者〟の差であり、盛り上がるのはいいですが、衝動を抑えきれずに度を超した行動を起こす人が多数いるのもこの国の現実です。 こういうバイオレントな行動を見ると、街中に戦車まで出動した1992年のロス暴動や、2021年1月6日の国会議事堂襲撃などを思い起こしてしまいます。
いつまで経ってもこうした暴力的な行動を起こす人がいるのは、先進国ではアメリカくらいでしょう。
今年のWSの試合中も、ドジャースの選手がフェンス際でボールを捕球したとき、グローブからボールを奪おうとしたファンがいるなど常識のなさに驚きます。社会の規律やモラルを守ることができない人が多すぎるのもアメリカ社会の特徴と言えます。
現地に暮らして感じたことは、教育の大事さやルールを守ったり他人を尊重するなどの道徳的なことを学ぶ機会がないと、常識では理解出来ない行動をとる人が育ってしまうということです。アメリカが多くの移民を受け入れているためというよりも、アメリカで育ったことに起因する結果だと思います。
表向きには差別がないことになっているアメリカ社会ですが、差別は歴然として存在しており、メジャーリーガーでも有色人種は見えない差別を感じることがあると聞きます。
その際たるものが今回の大統領選挙かもしれません。
相手候補をこき下ろし、暴言で罵り、社会を分断するかのような「お前は敵か味方か?」というような態度。賛同しない者を徹底的に否定し排除する思考は、差別に通じるところがあると思います。
WSのような華々しく、世界でアメリカでしかできないような成功の陰には、自分勝手で差別的な人間がいて、社会がそれを正すだけの自浄力がないアメリカが存在するのです。
このコラムを読者が読んでいるころには大統領選の結果が出ていると思いますが、どちらが勝っても一悶着起こりそうで、アメリカ社会は当面、不安定な状況が続きそうです。
日本は学ぶものは学び、アメリカを反面教師として見習うべきでないものはしっかりと見極め、日本国内でアメリカのような自己中心的な風潮が増幅されないことを望んでいます。