「広がる新スポコミュ世界」現地観戦以外で盛り上がる

 丸3年間世界中を覆い尽くしたコロナ禍が明け、スポーツ観戦の世界は大きく変ぼうした。ゲームその物が開催中止となり、次に無観客開催。そしてスタジアムに喚声が戻り一層の盛り上がりが再び訪れた。そうした環境下でスポーツファンが集う店も大きな変化を遂げている。今夏はパリ五輪開催の年。細分化し拡散するスポーツコミュニティはどう変化し、どこに向かうのか?

 昭和の時代はスポーツの動画観戦と言えばテレビ中継を一緒に見るしかなかった。当時からファンが集うスポーツバーはあったが、中継がある対象はプロ野球で東の巨人、西の阪神と極めて限られていた。平成に入りBS、CSの衛星テレビ放送が一般化。それに伴い12球団すべてが完全実況で見られるようになり、サッカーJリーグも一部がリアル視聴できるようになった。それでもファンはあくまで実際に試合を応援しに現地に詰めかけるのが本流で、スポーツコミュニティでのそれは入場チケットが入手できなかった代替手段の一つでしかなかった。コロナ禍の中で最も進化した物はネット通信だ。感染を恐れる人々はネット経由で会議や授業を行い、スポーツや歌・芝居などのエンタメもインターネット経由によりスマホ一つで臨場感を味わえるようになった。

 コロナがようやく明け、スポーツのネット観戦を「同好のファン同士で一堂に会して楽しむ」という見方が〝新たな楽しみ方〟として進化し残った。こうした店を訪ねてみた。

店内には応援チームのグッズが展示されている

 大阪市中央区の阪神高速高架下にある船場センタービル10号館の「豚丼屋TONTON」の薮久則店長(52)は「野球場のスタンドと同じような雰囲気を保ちながら、食事も楽しめるお店作りをしている。お客さんの意見を参考に客席配置変更や観戦用テレビ設置を行い、現地と同じような雰囲気で野球観戦できる飲食店に変えた。新たな客がコミュニティに入りやすくするため、応援歌の練習会を行ったり、客同士の話題をつなぐことで居心地の良さを心がけている」と話す。

店内には実際に選手が使用したシューズなどのお宝グッズも展示されている

 「MARII-KENT(マリーケント)西九条」の川北健人店長(34)は「Jリーグ選手とサポーターどちらもが来てくれるイタリア料理屋。他の店とは異なり、より密接な距離感で楽しませるため、試合日のゲーム観戦はもちろんオフの日でも通うことを楽しめるように人とのつながりを意識している。試合以外の時間帯でも食事を取りながらスポーツ談義が盛り上がったり、ファンとして日が浅くても自分なりに楽しめる憩いの場としての店創りを心がけている」と話すからコンセプトは似ている。コロナ禍を経験して、新たに進化したスポーツ観戦の店としてさらに工夫しながら、Z世代を中心に重視されるタイパを意識した趣味時間の使い方にマッチしたものを目指す。

 最後の「MARII-KENT西九条」に通うファン、下村亮平さん(33)はリピーターになった事について「色々なメニューの料理があって皆で楽しめ、試合日以外でも通えることが大切。既存のスポーツバーなどは、マニアックな会話が多く店員さんとの距離もある。この店はそうした目的の客だけでなく、スポーツ以外でも顔見知りの常連同士の会話があり店員さんとも親しいので十分楽しめる」と語る。同店で生まれたコミュニティはスタッフ・店員によるつながりが大きいようだ。

 一時は飲み会までネット化したが、リアルで新たな人のつながりは心地よいコミュニティを生む事に人々は改めて気付いた。スポーツ観戦以外の日でもつながることのできる居場所は、コロナ禍で何でも自粛せざるを得なかった状況から派生した新たなコミュニティへと進化している。

選手も来店するという事もあり、壁にはサインが書かれている

 今回の取材を終えて感じるのは、ファンとしてのコミュニティが開催現場以外で他の同好の人と気軽に関われる場所として位置付けられることだ。スポーツだけでなくアイドル推しだって、住まいで独り声援を送るのは寂しいが現地に行けない人にとってこうした場所があればうれしい。新規ファンもお店という新たなワン・クッションがあることで一歩踏み出すハードルが下がり、居心地の良さを共有できる。パンデミックは世界に不幸をもたらしたが、その置き土産としての新たなコミュニティは着実に育ちつつある。(大阪国際大学/日下部沙弥、古川琴理、小林真斗)

※当記事は、大阪国際大学と週刊大阪日日新聞が協働し、大学生が新聞記者の仕事を実践する「PBL演習Ⅲ」の授業で完成した記事。