コロナ禍で止まっていた中高年の趣味活動が一気に活発化している。内容は園芸やスポーツなど多岐に渡るが、バンド全盛期を経験した世代にダントツの人気を誇るのが音楽系だ。その一つに、関西でも珍しいベース専門の「津田ベース教室」(城東区関目)がある。ギターやピアノなどと比較すると、マイナーな印象だが、いま中高年の受講者が急増している。その理由は何か。本紙守口エリア編集長であり、ドラム経験者のU.K.氏が教室を取材した。
他楽器に比べてハードル低め。すぐに〝サマ〟になるところが魅力
THE ALFEEやビートルズに憧れて
U.K. ベース専門の教室は関西でも珍しい。そもそも津田さんがベースを始めたきっかけは。音楽なら大体、ボーカルやギター、ピアノといったフロントマンを最初は希望しがちだ。僕はドラムだったが、正直ベースは〝二軍〟感があるというか。
津田 そうですよね(笑)。ベースを始めたのは中学のとき。父親がバンドをやっていたので、家にギターとベースがたまたまあった。「音楽やったらモテるかも?」と考えたのがきっかけでした。
確かに最初は父にギターを教えてもらおうとしましたが、手が痛くて3時間で挫折。見かねた父が「ベースやったらいけるんちゃう?」って。弦が少ないし太いからベースは弾けた。そこからベースにのめりこみました。ビートルズやTHE ALFEEが好きで、寝食を忘れて練習していましたね。
U.K. どうやって練習したんですか? バンドを組んでいたならまだしもベースで弾き語りは難しいのでは?
津田 そう思いますよね。でも僕が好きなバンドはベースボーカルが多かった。
U.K. そうか。ポールマッカートニーだ。
津田 そうです。THE ALFEEの桜井さんもベースボーカルですし。彼らのコピーから入ったので、練習すれば一人でもそこそこサマになるわけです。
U.K. なるほど。ビートルズやTHE ALFEEは今年50歳の僕からしてもちょっと上の世代。当時流行していた音楽より、ややオールディーズな音楽にふれることで良かった点は?
津田 親世代の音楽でしたが、ふれることで知識が深まった。僕は現在44歳で、当時はMr.Childrenなどが流行っていましたが、その辺の音楽の源流は基本的にビートルズかローリングストーンズなんですよ。源流を知れば一気に基礎が身につくし、その後のアレンジも楽になる。それが良かったですね。
U.K. 教室を始めた理由は?
津田 最初はプロになろうと思っていたわけではなく、普通に進学して、社会人をしていました。一方で音楽活動を続けていたのですが、「教えてほしい」という人がポツポツと現れた。週末に教えていたら受講者が徐々に増えてきて、脱サラして教室を始めました。今ではありがたいことに、オンラインも含めて60数名の受講者が世界中にいます。
U.K. 世界中というのは?
津田 一番遠いところで米国のボストンに受講者がいます。あとはオランダとか北京とか。
U.K. すごい。ベースが世界を繋いでいるわけだ。
ブランクのある人や初心者になぜオススメ?
U.K. 中高年世代の人が結構来られているとか。
津田 そうですね。退職したり、子育てがひと段落したりしたタイミングで時間を持て余すようになり、「新しく楽器を始めてみよう」とか、「昔やっていた音楽をもう一度やってみよう」という方が増えています。
U.K. 初心者やブランクのある人がベースを始めるおすすめポイントは。
津田 ベースはあらゆる楽器の中で一番ハードルが低めだと思うんですよ。
U.K. 僕も思います。
津田 そうでしょう?(笑)ピアノもギターも形になるまで時間がかかる。鍵盤なんて初めて見ると全部同じに見えるし、管楽器もまともな音が出るまで時間がかかるじゃないですか。でもベースは弦も押さえやすいし、運指も少ない。体験レッスンだけで1曲完成させることもできる。初心者でもブランクがあっても、ショートコースでそれなりに見栄えがよくなるんです。ドラムも8ビートを叩ければ、形になるというところがありますよね?
U.K. そうなんです。だから僕もドラムを選んだ。加えて、ベースやドラムはバンドの要。メロディー以外は何をやってるかわからないという人もいるが、実はこれがなかったら音楽は成立しない。特にベースはジャズやポップス以外にクラシック需要もあり、活躍の場が広い。
津田 まさしくその通りです。受講者の動機も「憧れのアーティストがいて、ジャズが弾きたい」「昔ちょっとバンドをしていてある程度弾けるが、アドリブソロが弾けるようになりたい」など幅広い。最初にちゃんと聞き取りをして、希望に合わせた適切なレッスンを考えます。
他におすすめポイントをあげるなら、中高年の人がうちに来るようになると、コミュニティーが広がる傾向にあります。「ベースを習う前は無趣味だったが、趣味仲間が増えて毎日充実している」という話を聞くとうれしくなる。
U.K. コミュニティとは例えば?
津田 受講者同士で情報交換ができるオンラインの場を設けています。「今どんなレッスンを受けているのか」や、「今度こんなライブやります」といったことを掲示板形式でみんな書き込んでいます。
他の音楽教室と組んで、合同イベントもよく開催しています。受講者同士が集まり、ライブ後は楽しく酒を飲んで語らう、という感じですね。
U.K. なるほど。もう完全にサークルというか、自分が学生だった頃に戻れるわけだ。みなさん第二の青春を謳歌されているんですね。
津田 はい。僕は楽器の習得は、楽しく続けられることが何よりも重要だと考えています。練習で効果を感じてもらうことはもちろんですが、それだけではモチベーションが続かないこともある。そこで、仲間と一緒に練習したり情報を交換し合ったりすることが楽しいし、刺激になります。「楽しみながら上達する」という教室のモットーを実現できるよう、色々と工夫しています。
プロやインフルエンサーとして活躍する受講者も
U.K. 関西では一番といっても過言でないベース教室を営まれるようになったわけだが、ベース教室をして良かったと思うことは?
津田 やっぱり受講者がベーシストとしてどんどん活躍するようになってきたことです。プロや講師として活躍している人もいますし、趣味としてアップした演奏動画のSNSが今や3万人以上のフォロワーを抱えている人もいます。受講者の活躍は何より誇らしいですね。
U.K. 今後のさらなる展望はありますか?
津田 ベースの楽しさをより多くの方に知ってもらい、ベース業界をもっと盛り上げたいですね。個人的には現役プレイヤーとしても、さらに活動の幅を広げて頑張っていきたい。音楽は僕にとって心の栄養。今後も一生をかけて突き詰めていきます。
津田藤宏 大阪市旭区出身。エレクトリック・アコースティックベーシスト。「ジャズ・スタンダード・バイブル」の著者、納浩一氏に師事。現在大阪・関西を拠点に、ジャズ、ポップス、ロック、ファンク、ソウルなど幅広いジャンルの音楽を演奏している。2009年よりベース教室を開講。関西テレビ「よーいどん!」となりの人間国宝さん認定(2021年11月)。「読みつぐビートルズ」他、書籍や音楽系WEBライティングにも関わる。2023年秋からFMラジオ「津田藤宏のBass&Music Labo」のメインパーソリティも務めている。
U.K./楠雄二朗 タレント・俳優・ラジオDJ・MC・エアギターリスト〔2005年全国大会準グランプリ〕10代半ばからイギリスへ4年間半留学。音楽を愛し「人に感動を与える表現者になりたい」とDJを志すようになり、2000年にFM RADIO 局で初のレギュラー番組を担当。以降はテレビとラジオの音楽番組を主軸に活動。「関西エンタメ界のタレ目王子」と呼ばれる一方、夕方の情報番組への出演を機に「くっすん」の愛称でも親しまれてきた。2015年、大阪府守口市の親善大使「もりぐち夢・未来大使」に就任。2024年3月より、週刊大阪日日新聞守口エリア編集長に就任。