競合ひしめく照明の事業に取り組みながら「今暗いところに光を灯す」という視点で新しい市場を作り出したタカショーデジテックの古澤社長。彼が演出する光は〝あえて足を運ぶ価値〟のあるコンテンツとして、地方創生にも可能性を広げている。古澤社長を突き動かすものは何か。阪本晋司が迫る。(佛崎一成)
─エクステリア建材メーカーのタカショーに入社し、いきなり社長秘書兼通訳に抜擢された。
英語が話せたことで世界を飛び回る社長の通訳という立場だった。相手に通訳して伝えるには、頭の中に社長の思考をコピーする必要がある。100億円を売り上げる社長の思考を帝王学のように学ベたのが大きい。
─そこから起業するに至ったきっかけは。
LEDとの出合いが大きかった。日亜化学工業が1993年に製品化した青色発光ダイオードを調べるうち、これはすごい技術だと思った。青色ができれば白色もたやすい。今後すべてがLEDに置き換わる未来が見えた。
エクステリア建材メーカーの立場からは、庭は昼間に楽しむイメージだが、LEDがあればライトアップして夜の庭も提案でき、付加価値は2倍になる。加えて低電圧のLEDなら電気工事の資格が不必要だ。
すぐさま事業計画を作り、社長に直訴すると「やってみろ」と社内ベンチャーでタカショーデジテックを興した。
─アントレプレナー(起業家)ではなく、イントレプレナー(社内起業家)を選択した理由は。
独立起業だけがすべてではない。大切なのは目的や問いだと思っている。「この仕事でみんなを喜ばせたい」「みんなの悩みを解決したい」という問いに対する解決策が起業だ。その視点で考えると、問いへの答えを出せる一番の近道は資金や人材、仕組み、物流倉庫など会社の経営資源を最大限に生かせる社内起業が最善だ。
─現在、海外展開なども含め、タカショーグループの中心的企業になった。この5年で売上も倍。順風満帆のようだが。
いや、最初の10年間は鳴かず飛ばず。文系の私が照明を作るわけだからクレームの嵐だった(笑)。
―クレームの原因は。
知識不足だ。本来電材ルートである照明を作って、建材エクステリアのルートで売り、そして施工も電気の知識が十分にない造園屋さんがやるので施工不良も頻発した。
解決策として、ドイツでの職業訓練のマイスター制度に習ってライティングマイスター制度をスタートさせた。照明をやる理由や電気の基礎知識、施工方法などを教則本にまとめ、一定の品質を保ちたかった。
─制度はうまくいったのか。
今年で11年目だが、受講者はすでに7000人を超えた。売上が伸びてクレームも無くなった。セミナーでは「200万円の外構工事に、あと10万円を加えれば、夜の庭という付加価値が追加される。つまり、庭が昼と夜で2倍の価値に変わる」などと訴え、僕がなぜ照明をやるのかという思いを直接、協力業者に届けられるのも奏功した。
こうした取り組みもタカショーという大企業を背景にできるからこそだ。裸一貫で起業していたなら誰も相手にしてくれない。
―なるほど。最初の成長期というわけか。さらに会社を大きくするためにどんなことに取り組んだのか。
企業のビジョン(未来像)とパーパス(存在意義)を整理した。ビジョンは「光の演出で人の心を彩る」。単なる照明を作る会社ではなく、ものづくりを通じて人々がワクワクする空間を届ける。
もう一つのパーパスは「今ある光の入れ替えではなく、今暗いところに光を灯す」。多くの人は明るくて見える場所にだけマーケットがあると考えている。だから「うちの照明器具の方が明るいしコストが安い」という入れ替えの提案ばかりをやっている。
一方、同じ照明事業でも僕たちの仕事は違う。今暗いところを探し、なぜ暗いかの原因を考え、解決してあげるのが仕事だ。
一例をあげれば、過去に旅館の露天風呂をライトアップしたことがある。夜、温泉につかると滝の音が聞こえてくるが、暗くて滝がどこにあるのかは分からない。そこで「なぜ暗いのか」を調べると、誰も夜の滝が見えるように光を灯す提案をしていなかった。
新築した旅館も何年か経てば植栽が生い茂り、当時より光量が足りなくなる。庭を剪定する植木職人も作業は昼間にするから、そんなことには気がつかない。
―まさに灯台下暗しだ。これまで市場でなかったところに新市場を創造しているわけだ。
さらに俯瞰して暗い場所を探せば「田舎」にスポットが当たる。そこで「田舎を明るくする」ことで、地域活性につなげている。
―具体的にどういうことか。
光には美観、機能性、安全、防犯、価値という5つの機能があるが、さらに人が集まるのに重要な要素が3つある。「光」「エサ」「蜜」だ。人間も虫も同じで心理的にこの3つに集まる。そう考えると、田舎にはおいしい食べ物という「エサ」があり、自然環境などのエンタメという「蜜」がある。あとは「光」でしっかり照らしてやれば、人は集まるという理屈だ。
―光で地域を活性化するとは恐れ入った。つまり、オフシーズンの場所もオンシーズンにできるということか。
その通りだ。冬の閑散期にイルミネーションで人を呼ぶのが良い例だ。遊園地ならクリスマスマーケットが「エサ」で、アトラクションが「蜜」。そこに「光」を整えば人が集まる。その具体例として、和歌山ではじめたのが毎年約10万人が訪れるフェスタ・ルーチェだ。さらに、和歌山駅から和歌山城までの約2㌔をイルミネーションで彩る「けやきライトパレード」にも取り組んでいる。
観光地の白浜も夏は大勢の観光客が訪れるが、冬は閑散期だ。そこで、アドベンチャーワールドを運営する山本雅史社長と一緒に白浜のライトアップに取り組み、閑散期の集客に成功した。
―地元和歌山だけでなく、その輪を青森や島根、栃木など地方にも広げている。
一般的に「地方は都会に比べて何もない」とネガティブな感情を抱く住民もいる。だが、コンテンツを作って外から人を呼び込めれば、自分たちの街に誇りを持てる。だから「あえていく場所」にこだわりたい。
―ライトアップは期間限定でなく、常設にする方が撤去費用もかからず安上がりなのでは。
それは違う。照明で四季を演出することが大事だ。ライトアップの期間が終わり、撤去作業をする光景が春の訪れを感じさせたり、設置作業がはじまれば、クリスマスシーズンを予感させられる。
フェスタ・ルーチェを始めて7年。当時の小学生はすでに大学生になっており、「冬はフェスタ・ルーチェ」が幼少期の思い出になっている。そういう心に残るものを作り、地元愛を育むことが大事だ。
―今暗いところを灯す「光のイノベーション」で、和歌山の限界集落「矢櫃」のライトアップにも取り組んだ。
限界集落はアクセスが不便だから発生する。このため、単に集客だけを見てライトアップすれば大渋滞を引き起こし、住民に迷惑がかかる。こう考えて「矢櫃」のライトアップは3日間のシークレットで実施した。
イベントの目的は、海辺の秘境である矢櫃の魅力と現状の姿を知ってもらうこと。ライトアップで矢櫃の美しさを表現する一方、空き家だけを光らせ、地域課題も表現した。これを動画で発信し、共感する人など関係人口を増やそうと考えた。
この取り組みはドイツのiFデザイン賞を受賞。矢櫃という町を世界に知れ渡すことができた。
―LEDに注目し、信じて磨き続け、最後に光らせることができた。
信じてやらないと正解は正解にできない。自分がこうと思ったなら、途中で不安が生じても信じて頑張ってやり切ることが大事だ。
―これからの夢は。
現在、タカショーグループの年商は200億円。うち、デジテックは30億円だ。3年後には65億円を目指しており、グループの主軸を担えるようになりたい。 このため、中国にも工場を新設した。
照明器具の製造だけでは、照明の価値しかない。しかし、光の演出で空間やストーリーを作り、そこにいろんなものを巻き込んでいく仕事であれば無限に広がっていく。
タカショー・デジテック企業情報
「光の演出で人の心を彩る」を企業理念に、「屋外照明事業」「LEDサイン事業」「イルミネーション事業」の3つを柱に展開。ローボルト(12V)を中心とした照明器具の企画・製造・販売を自社で一貫しており、照明に関する知識・テクニック・施工・メンテナンスが学べる「ライティングマイスター制度」も実施。有名店やハイブランドのLEDサインの製造も行っている。
株式会社タカショーデジテック【本社】和歌山県海南市南赤坂20-1【電話】073(484)3618