小児のワクチン接種を考える 今慌てて接種する必要はあるのか?


医師 松下正幸

 政府は3月から小児(5~11歳)への新型コロナウイルスワクチン接種を開始すると発表しました。東京の足立区ではすでに2月28日に接種が開始され、その映像が放送されていました。お子さんやお孫さんにワクチン接種を進めるかどうか、しっかり考えて頂く材料として本稿を書きました。

ワクチンとは何か?

 まず今回、小児に接種されるファイザー製ワクチンについて理解しておいてください。ワクチンは大別して2種類あります。生ワクチン(麻疹、風疹、水痘等)と不活化ワクチン(インフルエンザ、日本脳炎等)です。生ワクチンは、ウイルスを細胞内で何代も継代培養して弱毒化してはいますが、感染能力のあるウイルスを直接体内に入れるもので、弱いですが実際に感染が成立します。通常1回接種すれば訓練免疫、自然免疫、獲得免疫(細胞性免疫、液性免疫)のすべてが獲得できる最強ワクチンです。

 もう一方の不活化ワクチンは、ウイルスの抗原となるタンパク成分だけを精製して体内に入れるもので、実際にウイルス感染はしません。したがって免疫を獲得しにくく通常2~3回接種します。ウイルスが細胞内に入って感染が成立したわけではないので、投与された抗原タンパクに対する液性免疫(抗体)だけが獲得できます。この方法(インフルエンザワクチン等)は何十年に渡る経験と実績があり、ほぼ安全性が確立されています。

 しかし、大きな欠点もあります。時間と場所とお金が掛かるのです。ワクチンは健常者に接種するので治療薬以上に安全性が求められ、開発には通常5~10年が必要です。つまり、今回のような感染拡大時には素早く大量に全世界に供給できません。

 そこで考え出されたのがmRNAワクチンです。従来の不活化ワクチンは、免疫反応を引き起こすタンパク(抗原)を体外で精製し体内に入れていました。しかし、mRNAワクチンは新型コロナウイルスのトゲトゲ部分(スパイク蛋白)を作るための設計図(遺伝子)を組み換え遺伝子技術で作成し、それを直接、筋肉細胞に注入して細胞内で細胞の器官を使って作らせます。我々の筋肉細胞を培養器にしてしまうわけです。筋肉細胞内で作られたスパイク蛋白(抗原)は細胞が崩壊することで細胞外に放出され、それに対して免疫が惹起され抗体が生まれます。この筋肉崩壊と局所での免疫反応が筋肉痛の原因と考えられます。

 このようなメカニズムのワクチンは今回初めて実用化されました。mRNAが核内のDNAに組み込まれ、将来ガンの原因になるのではないかと心配される方もいますが、理論的にはありえないと思われます。しかし、このワクチンは接種開始からまだ1年ほど。5、10年後の安全性を保障できるものではありません。そのことは小児のワクチン接種にあたって十分留意しておく必要があります。

 直近の政府ワクチン分科会で、「小児に対するmRNAワクチンは、オミクロン株の感染予防効果は期待できない。発症予防効果はほぼない」と報告されました。委員の意見が分かれ、小児へのワクチン接種を努力義務とすることは見送られています。

私の考え

 それでは、私の考えを書いていきます。みなさん、子どもは弱いと思っていませんか? 体はまだまだ小さいですが、おじいちゃん、おばあちゃんより生命力があります。子どもにとって生まれてから感染するすべてのウイルスは新型です。旧型も新型もなく、すべて初めてのウイルスです。初めてのウイルスに感染しながら免疫力を獲得し成長します。子どもが感染症に弱かったら人類は滅びます。人類が誕生するずっと以前からウイルスは地球上に存在しており、そのウイルスに対抗できる免疫システムを持った人間だけが生き残り、現在の人類へと繋がっているのです。

 今、流行しているオミクロン株に対してmRNAワクチンはほぼ無効です。日本人の小児で新型コロナウイルスに感染して死亡した子はいません。それなら子どもの生命力を信じ、オミクロン株に効きもしないmRNAワクチンを、私は慌てて接種する必要はないと考えます。

 現在、国内メーカーが従来のインフルエンザワクチンと同じ製法で不活化ワクチンを作り承認申請中です。この方法は何十年にわたる経験と実績があり、ほぼ安全性が確立されています。これが承認されるまで時間的余裕は十分あると思います。万一、感染しても1日の辛抱です。その時は生ワクチンを接種したと思えばいいのです。完璧な免疫が獲得できます。

 ただ重篤な基礎疾患がある子どもさんはこの限りではありませんので、そこは間違えないでください。「幼稚園や小学校からウイルスを家庭に持ち帰り、家族に感染させないよう接種しましょう」と、首相や知事は言っていますが、子どもたちを防波堤にせず、大人は自分で自分を守ればいいのです。ご家族でじっくりと考えてください。


【まつした まさゆき】 松下医院(大阪市福島区大開2丁目1-17)、院長。昭和56年に神戸大学医学部卒業。国立循環器病センター、動脈硬化・代謝内科研究生、神戸大学医学部、第二内科医員。ブリティッシュ・コロンビア州立大学医学部(カナダ)、臨床病理研究員、六甲アイランド病院、内科医長など務めた。