文武一道〈10〉運動音痴は「音知(音を知る)」で解消する

新極真会・阪本師範の〝強育〟コラム

 カラオケで音程やテンポがずれ、歌がヘタな人を「音痴(おんち)」と言うように、スポーツができない人は「運動音痴」と言われます。

 この〝運動音痴〟ですが、ほとんどの人が「運動神経は生まれながらの才能だから、直らない」と思っているのではないでしょうか。そんなことはありません。「音痴」という漢字が示しているように、「音痴」は解消できるものなのです。

 漢字の意味を考えてみましょう。音痴の「痴」とは、「知恵が鈍い」の意味です。わかりやすく言えば「知らない」ということです。つまり、「音を知らない」という意味です。とすると、逆に考えれば「音を知る」ことで音痴は解消できるということになります。

 ご存じ、プロ野球界の〝ミスター〟長嶋茂雄名誉監督を思い出してください。テレビで監督が「スッ」「キューッ」「パーン」などと、選手に音で指導していたのを覚えているでしょうか。

 関根勤さんのものまねで、お笑いネタの印象が強いかも知れませんが、スポーツは自分の動作を自分の音で言えることがすごく重要なのです。そう考えると、長嶋監督はやはり天才なのです。

 スポーツでは、自分がその動作をするのに最適な音が存在します。ピッチャーなら、投げるときに「ヒューン」なのか「プッ」なのか「キュシュー」なのか…。自分が心地よく感じられて、最適な動作ができる音は、人それぞれ異なります。

 同じ本塁打を打つときも、長嶋監督と大谷翔平選手ではバッテイングのときにイメージしている音は異なります。つまり、自分にピッタリの音を見つける、「自分の音を知る」ことで「音痴」は解消できるのです。

 走るのも同じです。長距離と短距離ではイメージする音が違います。短距離ならダダダダッ。長距離ならスタミナを失わないように一定のペースで走るわけだからタッタッタッ。音をイメージしながら動作するわけです。走るリズムの中でも、どの音でリズムを取るのかは個人個人で異なります。

 私は全日本大会で準優勝し、日本代表としてワールドカップではベスト8の成績を残しましたが、子どものころは運動音痴でした。野球で打席に立ってもバットにボールを当てられず、ジャストミートの感覚もわかりませんでした。

 当時を振り返ると、音をまったく意識していなかったことに気づきます。そんな私が、音と動作を組み合わせるようになってからは、空手の打撃スピードや威力が高まっていきました。

 運動が苦手と思う前に、まずは自分の中で体を動かしながら心地よく感じる音を見つけましょう。音感は運動だけでなく、対人関係にも役立ちます。「打てば響く」の言葉があるように、コミュニケーション能力にも繋がります。

 音感の鍛え方については、私は幼少期に、特にゴールデンエイジと呼ばれる「つ」の年齢(9つ)のうちに、さまざまな音にふれ、音を知ることが大事だと思います。山や森の香り、海の音や風の音…。たくさんの自然にふれ、自分が心地よく感じる音の引き出しをどんどん増やす。五感をフルに使える人が、第六感を開花させると思うのです。

 幼少期に得た多くの音が自分の財産となり、大人になってからも人間関係の構築に役立つ。そう捉えるとやはり、文武というものを両道の2つに分けるのではなく、文武の根は一つ。文武一道なのです。


■阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル
1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。