【大阪観光局・溝畑宏理事長】大阪をアジアNo.1の国際観光都市に

「25年は日本が復活するための重要な年になる」と話す溝畑理事長
「25年は日本が復活するための重要な年になる」と話す溝畑理事長

東京はライバルではない。競うはパリ、ロンドン、ニューヨーク

 大阪をアジアナンバーワンの国際観光文化都市にする目標を掲げ、観光戦略の舵取りを担う元観光庁長官で大阪観光局の溝畑宏理事長。その起爆剤となる万博やIRが大阪に何をもたらすのか。自身も万博をテコに武道の精神文化を海外に発信しようとする新極真会の師範、阪本晋治氏が質問をぶつける。

─溝畑理事長が掲げる最大のミッションは何か。

 2030年に大阪をアジアナンバーワンの国際観光文化都市にすることだ。具体的には、世界の質の高いヒト・モノ・カネ・情報を集積させることで、雇用を生み、税収を生み、経済が活性化する。都市のブランドが上がれば大阪府民も幸せだ。

─25年の大阪・関西万博は重要なキーになってくると思う。

 大事なのはこの万博をいかにうまく活用するかだ。開催中の180日間だけでなく、準備期間や開催後も含め、世界の目が大阪に向けられている。
 東京五輪はコロナ禍で無観客になるなど十分な発信ができなかった中で、今回の万博は久しぶりに日本の魅力を世界に示せる大チャンスだ。

─ただ万博をめぐっては賛否両論ある。

 一つ言いたいのは、長年の経済の低迷、少子高齢化で止まらない人口減などさまざまな課題に対し、25年は日本が復活するための大事な年になるということだ。
 「SDGs」の目標年である30年の5年前にあたり、万博を通じて取り組みを加速させる機会になる。
 また、世界はリーマンショック以降、ウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ、米中など分断と対立が深まっている。万博は平和の祭典でもあり、日本から平和、協調、共生を発信していかなければならない。
 つまり、25年は世界の歴史的な転換期だ。だから申し訳ないが、パビリオンの建設の遅れなど目先の話をしている場合ではない。先を見据え、万博を活用してどう大阪・日本を飛躍させるかに集中するべきだ。阪本さんの新極真空手もそうでしょう。

─大山総裁(極真空手の創始者)は「人種にはいろんな肌の色がある。しかし、武道を志すうえでは皆、同じ白い道着を着て、同じ日本の文化を学ぶ。これが本当の世界平和なんだ」とおっしゃられていた。

 万博は大阪が世界をけん引していく最初で最後のビッグチャンス。課題はあるが、メリットを最大化し、デメリットを最小化する視点が重要だ。

─東京五輪の時もそうだったが、日本人は必ず課題を言う。もしかすると「大阪だけ良い思いをして」というねたみがあるのかもしれない。

 開催地でもある大阪の人間は、大阪のことだけを考えていてはダメ。日本全体を背負って立つ気概が必要だ。歴史的にも「天下の台所」といわれ「上方文化」が繁栄したのは大阪の力だけではない。大阪が全国各地の特産物や文化が合流するエリアだったからだ。
 それが大阪のDNAであり、私はそれを復活させたい。日本を背負おうとする人間たちが大阪に結集し、「私はこうして行くんだ」とパッションを示していく。不安に思う人には明るい未来を語り巻き込んでいく。そのくらいやらなければ国際観光都市にはなれない。

─万博の後はIRも控えている。

 13年前の観光庁長官時代にもIRの話はなかなか進まなかった。反対の理由は大きくは2つで、一つはカジノというギャンブルに対するアレルギー。もう一つは、外資への警戒心だ。
 私はシンガポールでIRの成功事例を見たとき、直感的に「なんで日本でやれへんねん」と思った。
 実はIRのメインは国際会議場や展示場、ホテル、ショッピング施設で、カジノが占める割合は施設全体の数%もない。では、カジノが必要かについてはIR自体の仕組みにある。わかりやすく言えば、カジノにお金を稼がせて、利益を施設全体の運営や維持に回していく構造になっている。
 確かに、カジノはギャンブルだ。だが、その収益を展示場や会議場の運営費に使うというのであれば、IRは国際観光都市にもマッチする。
 大切なのはメリットを最大化し、カジノという懸念をいかに最小化するかだ。デメリットだけに焦点を当てていると大局を見失う。

─観光庁長官時代の溝畑理事長は、政府の中で孤独にやり合っていた。そんな中で、唯一共感してくれたのが当時の橋下徹大阪府知事だと聞く。

 その通りだ。実はこれまでの日本の観光は、世界の富裕層があまり来ていなかった。例えば、日本人からすれば1泊100万円とか、1回で50万円の食事というと、腰が引けるかもしれないが、実は海外の富裕層にとっては普通のことだ。IRはこうした世界の富裕層の受け皿になれる。
 外資に対する警戒心については、視点を変えて富裕層をつかむノウハウを持った経営者を呼び込めると捉えればいい。見方を変えるだけで、千載一遇の大チャンスに見えてこないだろうか。
 そもそも競馬、競輪、競艇、宝くじ…もギャンブルだ。しかし、ガバナンスをしっかりと効かせ、収益を回す仕組みを整えている。
 何度も言うが、チャレンジしないリスクを考えてほしい。私も京都出身で関西人だ。東京五輪招致もやっていた身であったが、いざ東京五輪が決まり、ふと頭をよぎったのは、これで東京一極集中がますます進んでしまうことだった。
 「故郷の関西はこれでいいのか」と思っていたとき、橋下さんと松井さんから「大阪で一緒に戦ってくれないか」と声を掛けてもらった。

─迷わなかったのか?

 もちろん迷った。東京にいる方が将来は約束されていたし、知り合いも多い。一方で大阪には知り合いもいない。リスクがある方が自分自身が成長できるのは分かっていたが、ずっと悩んでいた。
 そんなとき、五代友厚のことを思い出した。彼も官の仕事を辞して大阪にやって来た。「大阪をアジアのマンチェスターにしたい」と造幣局を誘致し、大阪商工会議所や大阪市立大学、南海電鉄、住友金属工業、商船三井などを作った。官にいた人間が民に行き、国を動かしたことに刺激を受けた。

─IRの経済効果は。

 具体的には毎年約1兆円の経済効果があり、さらにIR誘致によって得られる業種は900で、このうち新しい業種が300もある。賃金も日本より相当高い。間違いなく大阪のサービス産業にも波及をもたらすはずだ。
 アジアナンバーワンになるには航空輸送や鉄道輸送など陸海空のインフラが非常に重要となるが、大阪は万博とIRをきっかけに地下鉄中央線の延伸、なにわ筋線、うめきた開発など一気に進みはじめた。
 空の便では、30年を目途に関空の年間発着枠が23万回から30万回に拡大され、成田空港と並ぶ。神戸空港も1日80回が120回になり、25年から国際チャーター便の運用が認められ、30年ごろを目途に国際線を就航させる。
 一方の海路もさまざまな話が来ている。万博、IRがきっかけとなってインフラ整備が加速的に進んでいる。

─大阪・関西の復活に向け、着実に進み始めたと言うことか。

 政治の中枢は東京なので、その世界では大阪は勝てない。しかし、飲食やスポーツ、文化、エンターテインメント、ものづくりの世界では東京に負けないどころか、世界に突き抜けるものを持っている。
 大阪が意識するべきライバルは東京ではなく、パリ、ロンドン、ニューヨークだ。

―世界一を目指すと。

 そう。世界一を目指すことで今、何が足りないかが浮き彫りになる。課題が分かれば挑戦もしやすい。これが今、日本に必要なことだと思う。
 私の好きな言葉はファーストペンギン。つまり最初に飛び込む。宴会であれば最初に踊り出す(笑)。そうすれば主導権を取れるし、仕事もやりやすい。半面、やらされ仕事はストレスにしかならない。だから、私はいつも皆がやらないことをやってきた。こういう人間が昔、大阪にはいっぱいいたはずだ。
 大阪は昔からトップランナーとして日本を引っ張ってきた。今回の大きなチャンスを大阪府民一人一人が手を挙げ、精力的に取り組んでいきましょう。

溝畑宏理事長プロフィル

 1960年京都府生まれ。東京大学法学部を卒業後、総務省に入省(当時の自治省)。90年に大分県に出向し、サッカーW杯日韓大会の試合誘致に尽力。Jリーグの大分トリニータの社長にも就任した。10年には観光庁長官に就任。東日本大震災後の観光で「自粛の自粛」を訴え、海外には復興情報を発信し訪日需要の回復を目指した。15年から大阪観光局理事長として観光政策の舵取りを担っている。

溝畑理事長(左)とインタビュアーの阪本師範=大阪観光局(大阪市中央区)