【プレミアムインタビュー①】国民的アニメ「キン肉マン」再び! 正義超人や悪魔超人…それぞれの正義描く ゆでたまご・中井義則先生 

 1980年代に子どもたちを熱狂させ、社会現象まで巻き起こした国民的マンガの「キン肉マン」。来年には45年の時を経て、アニメシリーズ待望の最新作となる「『キン肉マン』完璧超人始祖編」のテレビ放送がはじまる。作者・ゆでたまごの中井義則先生に、ファンの一人でもある新極真会の阪本晋治師範が本質的な質問をぶつけた。

©ゆでたまご

 ─子どものころの私も、キン肉マンに影響を受けて育った。当時と現代では価値観も大きく変化する中、キン肉マンをどう描いているのか。

 「完璧超人始祖編」のことを僕らは「オリジン編」と呼んでいますが、描く中で正義と悪という価値観をものすごく意識しました。ウルトラマンなど昔のヒーローは、単純明快な正と悪でしたが、オリジン編では、正義超人たちにも、悪魔超人たちにもそれぞれの立場からの正義を描いています。それぞれの考え方や思想めいたもの、片方の正義は別の超人たちにとっては悪の価値観であったり…。三者三様の正義を描ければ、と意識しています。

 ─世界では、ロシアとウクライナの紛争や、最近ではイスラエルとハマスと中東も騒がしい。両者を詳しく知れば知るほど、それぞれ立場からの正義と悪があるように思う。そう考えると、今回のキン肉マンはある種、社会風刺の要素も帯びていて深い。

 そう言ってもらえるとうれしいです。一漫画家が世界情勢に意見を述べるのは非常におこがましいですが、漫画を通じてくみ取ってもらえればと思っています。

 ─1987年の「キン肉星王位争奪編」の終幕で、いったん筆を置かれたが。

 79年から週刊少年ジャンプでキン肉マンを描き続けて約8年。「闘将!! 拉麺男」の連載を掛け持ちするなど仕事は多忙を極め、私たち自身も疲弊していたと思います。プロレスを見るのも何というか、お腹いっぱいで「ちょっと休ませてよ」という感じでした。

 それに、キン肉マン以外の2作目を描いてみたいという強い思いもありました。漫画家として次のステージに進むには、一度キン肉マンから離れようという気持ちがありました。

 そこから料理漫画「グルマンくん」やムエタイを題材にした格闘技漫画「蹴撃手マモル」など、いろんなジャンルに取り組みましたが、それはそれで楽しく仕事をさせてもらいました。

 ─再びキン肉マンに戻ってきた理由は。

 あれだけ超人たちを描き続けた後に、他のキャラクターを描いていると、何だか自分の中で超人たちが熟成している感覚を抱くようになったんです。生意気ですが目も肥えてきたのもあります。

キン肉マンと一緒に写る中井先生

 ─今ならジャンプ時代のキン肉マンと違う、新たなキン肉マンが描けるのではないかと思ったわけか。

 そうです。それで連載終了後に初めて「マッスル・リターンズ」(96年)というキン肉マンの読切を出しました。相棒(嶋田隆司さん)の原作もすごく楽しさが伝わってくるし、やっぱり描いて良かったと感じました。

 自分たちが知らないうちに、キン肉マンたちが育っていたんです。絵的な部分では、筋肉や体の表現、どう描けばキン肉マンがカッコいい顔になるか。漫画のコマ割りや読者への見せ方も広がっていました。自分自身の経験や見聞の蓄積で目が肥えてきたのだと思います。

 ─先生は絵の学校にも通われたと聞いた。

 学校と言えるほど大層な話ではありませんが、筋肉の立体感などの技術を得るために、一時的に美術解剖学の教室に通いました。

 ─ところで、キャラクターの中に人間なのに超人に憧れて戦うジェロニモがいる。文学からのアイデアと聞いたが。

 私自身、文学に精通しているわけではありませんが、当時の編集者から「芥川龍之介の『杜子春』のような描き方をしてはどうだろうか」とアドバイスを受け、人間から超人になるという着想を得たんです。ジェロニモ以外にもジャンプの編集者からは当時、いろんなヒントをいただいていました。

 文学からヒントを得たとはいえ、難しい作品に仕上げるつもりはありません。読者や子どもたちに、シンプルに喜んでもらえることを目指しています。

©ゆでたまご

 ─ゆでたまごといえば、中井先生と嶋田先生という両巨頭だが、40年以上もパートナーとしていられる秘訣は。

 厳しいプロの世界ですから、最初は「1年できればいいな」「1年はがんばりたいよね」と思っていました。ジャンプは競争が激しく、人気がなければ10回ほどで打ち切りになってしまいます。来年も東京で仕事ができているかどうかわからない状況が続き、気がつけば来年で45周年というところまで来ていたのが正直な感想です(笑)。

 もちろん、相棒(嶋田さん)とは上手く行っている時もあれば、一方通行のときもあったかも知れません。ただ一つ言えるのは、相棒と一緒なら、どんな困難も乗り越える自信はありました。私の方が頼りにしているのでしょうね。相棒を頼もしく感じるし、何かある度に称賛できます。

 アマチュア時代に別々の漫画を描いていた頃から、相棒に「なかなか面白いやん」と褒められると、すごくうれしいんです。その気持ちは今も変わりません。

 ─キン肉マンが世の中に大きな影響を与えていることを、先生自身はどういうときに感じたのか。

 ジャンプ時代に編集者がいろいろ気を遣ってくれるようになったり…。そう言えば一度、テレビで「ゆでたまごがこのマンションに住んでいます」と自宅を映されたことがありました。当時は個人情報にうるさくない時代でしたから、電話番号も電話帳に普通に載っているんですよ。それで、某出版社から電話がかかり、家内が「月の生活費はいくらですか」「家賃はいくらですか」とか質問されて、正直にぺらぺらと話していました(笑)。

 いきなり読者の方が自宅に来られたこともあった。そんな状況が重なり、キン肉マンが大きな影響を与えているんだなと認識しました。

 ─最後に新アニメの見どころを話せる範囲で。

 当時と状況が違う点は、キン肉マンを見て育ったスタッフが集まっていることです。つまり、キン肉マンに愛着のある人たちばかりだから、当時よりもチーム力があると思いますし、そこが一番の見どころになってくるはずです。期待していてください。

ゆでたまごプロフィール】 キン肉マンの作者・ゆでたまご。原作は嶋田隆司先生が担当し、作画を中井義則先生が担当する。2人は1971年に大阪市立住之江小学校で出会い、78年に「キン肉マン」で第9回赤塚賞準入選。79年に10代で週刊少年ジャンプで連載を開始し、87年まで連載やアニメ、映画、グッズゲームなどマルチメディア展開が行われ、社会現象にまで発展。特にキャラクターをかたどった「キンケシ」は当時の子どもたちの間で大流行する。2011年から週プレNEWSでキン肉マンが24年ぶりに連載開始し、現在も連載中。来年には新作テレビアニメ「『キン肉マン』完璧超人始祖編」が放送される。