【わかるニュース】EC(電子通販)元凶説はウソ!? プロ運転手、長時間労働解放策は?

【わかるニュース】EC元凶説はウソ!?

 物流業界の「2024年問題」が残り1年に迫り、報道をにぎわすようになってきた。働き方改革がはじまり、すでに4年。すっかり定着したと思っていたら、実は運輸・物流業界には5年の猶予期間が与えられており、規制が適用されるのは来年4月から。プロドライバーの労働時間が1日最長16時間から15時間に短縮される。

 「えっ、たかが1時間の話だったの?」と大げさに思うかも知れないが、物流業界にとってはこの1時間が大きい。一部では「24年崩壊(クライシス)」と心配する声も上がっているほどだ。

 物流危機はホントにやってくるの?私たちの生活に何か影響があるの?疑問点をすべて洗い出し、解説してみたい。

「時短」と「給与維持」どうやって?
将来は自動運転と基地整備で

間に合わぬ国の対策

 岸田総理は物流業界の「2024年問題」で、近日中に関係閣僚会議を設置する。トラックドライバーたちの労働環境を改善する一方で、心配されているのは〝運べる荷物量減少→運送業者の売り上げ減→ドライバー収入減→業界縮小で物流停滞〟の悪循環だ。

 物流業界での「働き方改革」の基本は残業を減らすこと。年間の時間外労働が960時間までに制限される。業界も危機感を抱いていて猶予の5年間で対策するはずだったが、コロナ禍で物流需要が一気に低迷してしまい、「それどころではなくなった」のが実態だ。

 中小企業庁が2月に「諸物価高騰の価格転嫁が進まない企業」を実名で公表し、日本郵便輸送やヤマト運輸、佐川急便がずらりと名を連ねた。国は「デジタルライフライン総合整備計画」、つまり電子センサーなどを使って高速道路でトラックの自動運転を実用化させようと目論んでいるが、実現はまだまだ先の話。来春には間に合いそうもない。

運転手不足が慢性化している運送業界
運転手不足が慢性化している運送業界

電子通販、ネックでない

 普段、プロドライバーと私たち消費者の接点といえば、宅配便やバス、タクシーぐらいしかない。このため、物流の主力である中長距離運転手への意識が薄いので〝物流問題〟に対してピンと来ないのは仕方がない。

 身近な宅配から考えてみよう。最近はスマホのEC(電子通販)を利用して、何でも商品が自宅に届くようになった。取引量が拡大していく一方で、荷物の小型化が進み、全体の流通量が増えている割には単価が安く、採算性が悪化している。ヤマトは今月から宅配便を平均で1割値上げしたが、佐川と共に価格転嫁は5年半ぶりのことだ。

 ヤマトは通販最大手のアマゾンと価格交渉が決裂し、3年間で7000万個の荷物を失った。ヤマトの決算を見ると、ECの配達強化でわずかに増収へと転じたが、その分外部への委託費が増えて利益は2割減少。厳しい経営実態が見える。

 個人向けEC(電子宅配)の扱いはこの30年間で4倍に増えた。「10個に1個は再配達」と言われ、こまめな配送体制のために中継基地の積み降ろしが多く、作業は常に繁雑。再配達を減らそうと、宅配ボックスやロッカー、置き配、コンビニ受け取りを増やすなどして工夫しているが、都会は単身者が増えて改革が進まない。今後はロボットでの配送やドローンの活用などがPRされているが、実際の物流業界でECが占める割合はたった5%しかない。

荷主も意識改革必要

 「24年問題」を具体的にイメージしてもらうために、あなたが農産物や機械製品の荷主だったとしよう。農産物なら卸売市場の競りに確実に間に合わせるため、時間指定が重要になる。機械製品なら大量安全輸送がまず先決。しかもできるだけコストを抑えて運んでくれる業者を選びたいはず。

 ところが、「24年問題」で運賃が上がると、その値上がり分は商品価格に上乗せするしかない。生産拠点、出荷拠点からの運搬自体は欠かせないから影響を受ける業界の裾野は広く、全産業の約6割に及ぶとみられる。

 荷主サイドも異業種同士で同じ1台のトラックの荷台をシェアする共同輸送や、トラックから鉄道・海運への比率を増やそうとしているが、すでに国内全物流の9割は重量ベースでトラック輸送が占めているから転換するのはそう簡単ではない。荷主の無理な要求は、今後は警告や勧告が出され、社名公表されることに。貯蔵基地からコンビニやスーパーへの生鮮食品配送も1日の回数を減らす措置が進む。

圧倒的多数占める中小運輸

 かつては大手の支配力が非常に強かった運輸業界。しかし、新規加入の規制が緩和されたことで、今や社数の99%は中小業者。その分、価格競争が激化して利益を出すのが難しくなり、ドライバーを長く働かせて利益を出す構造になっていた。

 しかし、今後は月60時間以上の時間外勤務に対する割り増し賃金が、大企業も中小もすべて5割増しになる。多重下請けの利用で規制逃れを防ぐために、国交省は業界とトラック協会に「下請け利用は2次までに」と要請。規制逃れを洗い出すことにしている。

 日本の長距離物流のほとんどは「企業から企業へ」の運送。仮に2つの荷物があって同じ時間に別の場所への配達指定だと、運転手付きトラックが2台必要となる。郵便配送は今や各戸への配達遅れは当たり前で、郵便料金だけは近く値上げされるから利用者は踏んだり蹴ったり。それが配送の現状なのだ。

 運転手不足が慢性化する業界で、さらなる人員確保難と、コスト増がつきまとい、このままでは2030年には「荷物の35%は運べない」とも危惧されている。大企業の約半数は対策を進めているものの、中小企業はまだ15%程度しか対策ができていない。

 もっと細かく分析すると、地方からの農作物出荷が一番の問題。特に西日本での現状が厳しい。ドライバーの稼働時間を減らすためにトラックごと乗せるフェリーやダブルトラックと呼ばれる荷台連結を検討。コンピューターでトラックの運送状況と現在地を管理し、平均積載率を高める試みも。またバケツリレーのように中間基地倉庫を整備して、運転手の拘束時間を減らす計画もある。

 ここで見逃してはならないのは、ドライバーの給与が減れば、離職者が増えるというジレンマだ。業界全体としては女性や高齢者でも働きやすい職場環境は大切だが〝時短と給与維持〟の相反する問題をどうやって解決するのか? 誰もその答えを見いだせていない。

「給料下がれば転職」と怒り

 ある現役ドライバーが私に打ち明けた。「積載率向上とか待機時間解消と、みんな勝手なことを言っている。俺たちは人間で機械じゃない。効率ばっかり求められ、勤務時間中ずっと緊張して運転しているといずれ事故につながりかねない。そうなると会社も荷主も元も子もないだろ」

 この業界は昔から「一般労働者に比べ拘束時間は2割長く、給与は2割低い」というブラックな一面があった。もともと「36(サブロク)協定」と呼ばれる特別条項で「労使の合意があれば、残業時間上限なし」で仕事ができた。

 それが来春から一転。使用者側が違反すれば、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金になる。規定通りやれば1人勤務なら500㌔移動がギリギリで、それ以上の移動は交代の運転手が必要になる。

 ドライバー側は「給料下がればトラックに乗るのを辞める」という人が3割前後おり、「他社移籍」と答えた人も含めると半数以上が〝現在の会社を辞める〟と答えている。

 来春に不都合が一気に吹き出し、慌てて手当てに追われる国と政府の姿が目に浮かび、今から怖い。