【大阪府】ライドシェア実現へPT設置 背景に深刻なタクシー不足

 訪日外国人客が急速に回復する一方で、深刻化するタクシー不足。一般ドライバーが自家用車を使い有料で利用者を運ぶ「ライドシェア」の導入実現に向け、大阪府は11月1日、都市整備部内に導入検討プロジェクトチーム(PT)を設置した。実現には国の規制緩和が必要で、府は国と協議を行うための制度の素案を検討し、来秋ごろの実現を目指す。(大山勝男)

JR大阪駅のタクシー乗り場

 ライドシェアを巡り吉村洋文知事は10月17日、「交通需要が高まる大阪・関西万博の期間に限定して実現させたい」と表明した。
 日本で自家用車での旅客運送は、個人タクシーのナンバーが白色のため「白タク」行為と呼ばれており禁止されている。ただ、全国のタクシー会社の運転手は、コロナ前よりおよそ20%減少しており、「車庫に車があっても運転手がいない」という状況にある。
 特に大阪は万博期間に約2800万人の来場を見込んでいることから、タクシー需要の高まりが予想される。
 こうした背景から吉村知事は、万博の開幕半年前となる2024年秋から25年10月の閉幕までの期間限定で、ライドシェアを実現させたい考えだ。

タクシー運転手の推移

政府も議論

 岸田文雄首相も10月23日の所信表明演説で「地域交通の担い手不足や、移動の足の不足に対応しつつ『ライドシェア』の課題に取り組む」と表明。今後、政府は観光地や過疎地でのタクシー不足の深刻化を踏まえ、導入に向けた検討を進める方針だ。すでに菅義偉前首相ら有力政治家も導入実現を訴えており、ようやく議論が動き出した格好になる。

すでに実施の町も

 解禁を巡り大きな課題となっているのが安全性だ。5千社あまりが加盟する全国ハイヤー・タクシー連合会はライドシェアの全面的な解禁に対し「日本の輸送サービスの根幹を揺るがす」と反対の立場。タクシー業界を支援する自民党の議員連盟の会合でも「安全性確保に課題がある」と反対意見が相次いだ。
 大阪市内で街の声をひろうと「(大阪には)これから海外から多くの人がやって来る。府民の行動にも影響が出るので必要だと思う」と賛成の声がある一方、「健康管理や車両整備なども運転手任せだし、事故にあったときの補償もよくわからず不安」の声も。

ライドシェアの仕組み

安全への懸念

 黒岩祐治神奈川県知事は「タクシー業界と一緒に『神奈川版ライドシェア』をつくっていければ、新たなモデルになるのではないか」と神奈川版ライドシェア構想を打ち上げた。同県が検討する対象エリアは県南東部の三浦市で、観光客が多く夜間のタクシー不足が深刻化しているという。
 ライドシェアに近いサービスを実施する自治体もある。過疎地でもある富山県朝日町はタクシー会社と協力した上で道路運送法の「事業者協力型自家用有償旅客運送」制度に基づいて、ライドシェアを実施している。自家用有償旅客運送制度はバスやタクシーなどが運行できない過疎地などに限って認められている。
 都市部の運転手不足、地域交通の担い手不足など移動手段を奪われた「交通弱者」も多い中、安全を踏まえた上で官民一体の制度設計が必要になりそうだ。