通勤手当、住宅手当に課税! 退職金や配偶者の控除カット!?
岸田文雄首相の慌てっぷりに笑えた。7月末、宮沢洋一・党税調会長との面会で政府税調(会長、中里実・東大名誉教授)中期答申の打ち合わせをした際に「サラリーマン増税は考えていない」と述べ、宮沢会長も「党税調でそういう議論はない」と同調。そろって火消しに懸命になった。
それもそのはず。マイナカードの度重なる不手際で、岸田政権は支持率が急落。そんな中で有権者の〝増税への怒り〟に火を付けたら、それこそ政権の命取りになるからだ。
ホントのところはどうなのか?彼らの手の内を教えよう。
財務官僚 捨てぬ「増税路線」 増税無くとも本当はやれるのに…
天引きに無頓着なサラリーマンを狙い撃ち
政界はびこる財務省手先
岸田首相は2021年秋の就任時に「所得倍増」を旗印にし、「10年程度、消費税の増税は考えない」と大見得を切った。選挙時期はバラマキ施策を連発し、有権者のご機嫌を取ることで高い支持率だった。
しかし、防衛費の倍増、子ども家庭庁の新設で「予算の原資はどうするのか」の話が出たあたりから馬脚を現し、ついに自身が寄って立つ財務族として官僚に配慮。「財政再建の旗は降ろさない」と弱腰になり、増税路線にこっそり舵を切ったのを見逃すほど国民は間抜けではない。
実は首相の火消し茶番に付き合った宮沢会長こそ、財務官僚上がりの自民党財務族のドン。岸田首相とは親戚関係にあり、面会時に突然こんな話しが飛び出すような白けた仲ではない。
いくら子どもや若者に助成金を付けても、将来家庭を持てるだけの前向きな希望を抱けなければ、少子化対策の実効は上がらない。すでに岸田政権は、選挙目当てだった電気・ガス代やガソリン代への補助金を9月いっぱいで打ち切ることを決定。サラリーマン増税の観測気球を上げてみて、メディアや有権者の反応をチェックしている状況だ。
亡くなった安倍元首相は回顧録で、財務官僚を「国より財政規律」「省益のためなら政権も倒しかねない」と強く批判している。これに対して斎藤次郎・元大蔵事務次官は「財政規律崩壊は、国の崩壊」と雑誌の紙上で猛反発。経済政策的には景気回復は減税一択しかないことははっきりしているが、財務省は「財政再建」(増税による財政黒字化)しか頭になく、岸田首相は近しい宮沢会長に常に引っ張られがちだ。
こういう時こそ野党に期待したいのだが、自称・第2自民党の維新の会は、馬場代表が「サラリーマン増税にカツ」と言ったかと思えば、代表戦で敗れた足立康史衆院議員(元経産官僚)は国民個人の「金融資産一律課税」を唱え、党内は完全に不一致。立憲民主党も、増税派の野田毅彦・元首相や枝野幸男・前代表らを党幹部に抱えているから動きが鈍い。こうした連中は「財務省の息が掛かっている」と見た方がよい。
物言わぬ就労者 6500万人
ところで、なぜサラリーマンが増税の標的にされたのか? 給与所得者は透明性が高く、税や社会保障費は源泉徴収で天引きされ、節税に関しては年末調整の生保控除ぐらいしかしたことのない人が大半だ。
彼らの権利は労働組合が守っていた。しかし、その代表格である「連合」の芳野友子会長は、政府税調の特別委員で政府与党に近いから頼りにならない。1980年代に「サラリーマン新党」という政党がミニブームとなり、参院選で2議席を獲得したが、でたらめな党運営で自壊。以後はサラリーマンが政治を託せる利益団体はなくなった。つまり、こっそりと「盗れる所から盗る」という財務省にすれば、物言わぬ就労者6500万人は格好の標的だ。
財務省腹案、年額50万円盗り
財務省は絶対に「増税します」とは表立って言わない。彼らが「増税」を言い替える言葉には「見直しが必要」「他の手当などとの関係を整理」「公平性・中立性から検討」などがある。だから、この言葉が出たときは要注意だ。
仮にこれらの項目がすべて実現してしまうとどうなるか。夫婦と子ども2人の平均的な家族で、年間50万円以上負担が増える試算がある。
政府税調は「給与所得者の税制は、相当手厚い仕組み。総額で3割ほどが控除されている」と指摘しているが、これはウソ。財務省官僚は、税制を論じる時に必ず自分たちにとって都合のいい諸外国の例だけを持ち出す。自営業者だって経費と青色申告を合わせれば、同じように3分の1程度は控除できるのだ。
財務省が本来取るべき相手は大企業や富裕層だが、彼らは深く強い自民党支持層で〝物言わぬサラリーマン〟とは違って〝物言う人々〟。だからうかつに手を出せない。最終的に財務省は、消費税20%台までの引き上げを常に忘れないからしぶとい。
金満高齢者、今や幻
税以外に年金、失業保険、健保などの社会保険費も年々増しているが、サラリーマンは天引きで直接負担を感じにくい。財務省は「高齢者の医療と介護で財政がパンクしているから」とアピールするが、こちらもウソ。実際は1人当たりの支出は大幅に削減され、独り暮らし高齢者の貧困率は高まっている。
「高齢者は金持ち」も今や幻想で、1000万円の貯金があっても年間の利子が1000円しかない超低金利の環境では、貯金取り崩しがドンドン進む。〝団塊の世代〟が終活時期を迎える頃にはスッカラカンだ。個人資産に入るはずの利子収入は日銀の手で抑え込まれ、かくて「一億総中流」と言われた日本社会の主要層は消え去り、貧富差が拡大している。
日本財政は破綻しない
国家財政の仕組みを考えてみよう。国の2022年度の税収は71兆円台で過去最高額。中身は〝基幹三税〟と呼ばれる法人税(9・5%増)、消費税(5・4%増)、所得税(5・3%増)がいずれも増え、中でも消費税額の伸びはインフレで著しく、所得税額に並んでいる。剰余金も2兆6300億円出ていて、国債償還と防衛費財源に折半された。国家財政は全く困っていないのだ。
なのに財務省は〝収支均衡〟の旗を降ろさず「デフォルト(債務不履行)に陥ったらどうする」と脅す。
同省の役割は本来、どれだけ財政赤字が増えようと国家経済をプラスにすることだ。しかし、「限られた資金を省庁に配分する決定権」が財務省のパワーの源になっているから、それをしない。「少ない金をお前に配分してやるんだ」という金を配る側のありがたみがあるからこそ、他省庁をひれ伏せさせられるからだ。こうやって相手に便宜を図らせる構図にすることで、膨大な天下り先を増やしてきた。
この偽りの国家運営を打破するには、私はズバリ、「日本の財政が破綻しない理屈をもっと多くの国民が理解すること」だと考えている。そもそも政府自身も日銀もお金自体を作り出せるわけだから、「借金」とか「赤字」と表現するのがおかしい。「貨幣供給量を調節している」のが本質だ。
国家破綻の危険性があるのは、国債を海外に買われている国だけで、日本のようにほぼ国内債務だけの国ではあり得ない。国債の暴落も同様で、債務は「利払いができるか否か」が全て。現在、日本国債の大半を買っているのは日銀で、その日銀は紙幣を刷ることで国債を買っている。つまり、国債を買って世の中の貨幣供給量を増やしているということだ。そして、政府は律儀に日銀に国債の利払いをしているが、日銀が利払いでもうけた剰余金はすべて国庫に納付される。このため、世界の格付け機関が格下げしようが影響は最小限で、金利上昇も起こさない。財務省はこうした都合の悪いことには一切反応しない。
財政赤字は日本経済の力とは無関係。単純に民間のニーズが弱いから内需が拡大しないだけ。民需拡大は簡単で、賃上げすれば済む。似ているようでも物価高騰だけのインフレではダメだ。
これ以上、自民党が格差政策を続けたら、ただでさえ激減している現役労働世代が高収入を求め、技術者を先頭に海外脱出し、日本没落はさらに拍車が掛かる。教条主義の財務省に踊らされるのはもうここまでにしよう。