少子化と外国人受け入れ〝板挟み〟 「移民と観光」共にジレンマ

自民党総裁選後、会見に臨む高市早苗新総裁=10月4日、東京(代表撮影/ロイター/アフロ)

 自民党初の女性総裁に選出された高市早苗・前経済安保相(64)が選挙中ザワッとさせた言葉に「鹿発言」(奈良公園で一部の外国人観光客がシカを蹴るなどの虐待行為をしている、という趣旨)があった。真偽の程は明確でなく、高市新総裁の〝外国人への姿勢〟をめぐって賛否を呼んだ。日本人の少子高齢化に伴う労働力不足と消費縮小はもはや止めようがない。即効性のない少子化対策より「労働力と学力両方で外国人に来てもらい将来は定住者に。国内観光もお金を使ってくれる外国人客頼み」の期待感が広がる中で、『日本人ファースト』を前面に打ち出した参政党が先の参院選で大躍進した。日本の将来を左右しかねない〝訪日外国人政策〟の行方を考える。

先進国に広がる自国ファースト 日本、用いるが同化NO

建前「移民政策」無い日本

 少子高齢化は日本だけではない。お隣韓国やEU各国、米国白人層も同様だ。しかし地球人口は今世紀初めから20年余で20億人増えて80億人を突破。22世紀には100億人を超えると予想されている。インドやアフリカなどの途上国が増え続けており、将来は〝グローバル・サウス〟(偉大な南半球)に欧米や中露、日韓などの先進国は取って代わられる運命にある。
 移民先進国の欧州は東欧解放とEU誕生。地続きの中東やアフリカからの難民受け入れで流入人口が急増。英国はEUの移民政策不満から脱退。独、仏、伊、蘭などでも民族主義的な政党の台頭を招いた。
 トランプ米国大統領の『アメリカン・ファースト(米国第一)』は外国人政策にも色濃く現れている。かつて中南米移民で低所得労働者層を補い、中国やインドなどアジアからの優秀人材の留学と就業で知的労働者層を得てきた〝アメリカン・ドリーム〟は過去となり、排他的な縮小再生産へと舵を切っている。
 日本の少子化は戦後ベビーブーム世代の子ども達、通称〝団塊ジュニア〟が就職氷河期で非正規社員が増え、未婚・非婚の増大で出生率が急速に低下した20、30年前から分かっていた。国は足りない労働力を高齢者延長と家庭女性の就労増で穴埋めする政策を進め、欧米型の移民政策を選ばなかった。背景には戦前、日本での安価な労働力として朝鮮半島や台湾など当時の支配地から人々を移住させ、日本語や日本名を強要。敗戦後も根深い日本人社会との分断と差別意識を生んだ反省もあった。
 移民に代わって重点が置かれたのは国際貢献の趣旨による「技能実習生」名目の就労で、実際には3年間離職を認めず安価で働かせる仕組み。更にアジアから急速に増え続ける入国留学生は昨年過去最多34万人近くに達した。技能実習は2027年までに「育成就労制度」へ移行される事が決まっている。背景には約2%相当の年間1万人近い失踪者が出ており、低賃金、長時間労働、各種ハラスメントがあったとされる。留学生は学費捻出や国への仕送りでアルバイトするため技能実習者候補と言えるが、入学先が大都市近郊に集中。偏りが懸念される状況にある。
 この両者は期間限定で移民とは違う。参院選では「外国人留学生に日本からの奨学金はおかしい」との議論があった。大学院博士課程学生に対する国の支援制度「次世代研究者挑戦的研究プログラム」は、学生が大学に申請して認められれば研究費や生活費(上限年間240万円)で最大290万円が支給される。年数は3~4年で合計すると約1000万円になる。日本の博士課程に進む学生に国籍を問わず支給可能で、制度利用の6割は日本人。残りは定住者などを含む外国人だ。
 もう一つ「外国人に生活保護を与えるな」との議論もあった。生活保護費は日本人で一定の条件をクリアすれば月額18万2000円が支給される。一時滞在の外国人は対象外。ただし以下の外国人は1954年の厚生省局長通達で例外的対象とされている①永住者(犯罪などを起こさず10年在留し永住権を取得した外国人)②定住者(日本人の配偶者外国人、永住者の配偶者外国人、日系人など)③特別永住者(在日コリアン、在日旧台湾出身者とその家族、子孫)④難民認定者(日本ではほとんど認められていない)。これはかつて「帰化」と呼ばれ国籍取得し日本人となった在日外国人と同様の扱いだ。
 外国人の生活保護受給は23年で4万5973世帯と過去20年でほぼ倍増。しかし対象外国人は年々増え続けているが、受給者は12年からほぼ横ばいで最近特に増加した事実はない。
 観光ビザで入国し就労したり、ビザ切れ居残りは不法滞在で違法だ。取り締まるのは法務省内の出入国在留管理庁、俗に言う入管。日本の難民認定率は24年で1・5%1310人と先進国の中で最低級。不法滞在した理由として難民申請してもほとんどが認められず強制退去となる。応じないと入管施設に収容されるが期間期限がなく長期化し、不適切な管理状態は21年に名古屋入管施設で起きたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリの死亡事件で大きく問題化した。長期収容を避けるため保釈に当たる「仮放免」制度があるが、不安定な滞在生活を強いられる点は変わらない。
 間もなく初の女性総理に選出されるであろう高市・自民党新総裁の外国人政策はズバリ「国民の不安に向き合い厳格化」を掲げ、保守派の意向を反映させる方針。不法滞在者の取り締まり強化をはじめ、よく話題となる外国人の日本での土地建物購入への規制強化も提唱。既に石破政権は今年7月に外国人対応司令塔として省庁横断で「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房内に発足させている。

米ポートランドで不法移民取り締まり巡り抗議デモ=10月5日(AP/アフロ)

イスラム断絶深い欧米

 「移民という制度が日本になじまない」のは理解できたと思う。では労働人口拡大へ欧州型の移民政策は可能だろうか?結論的にはEU域内の現状は問題山積みだ。
 日本にはない要素としてイスラム教への嫌悪感がキリスト教社会で強い。私の友人のドイツ人は「彼らの生活習慣自体がイヤ」と眉を潜めた。欧州の古い文化、民族的価値観はキリスト教と根深くリンクしており、まるで十字軍遠征を見るようにイスラム教への拒否反応は強固。この意識が中東ではそっくり裏返しで欧米に向けられ存在する。
 多民族国家・米国は歴史的に19世紀末に法律まで作って移民中国人を排斥。さらに太平洋戦争開戦で日本人排斥があった。近年はメキシコ国境での中南米からの不法移民に手を焼いてきた。トランプ大統領は1期目にメキシコ国境に壁を建設、2期目には移民関税捜査局(ICE)を総動員し今年だけで既に10万人以上を強制送還。新たに「テロ国からの防御」としてイランやリビア、ミャンマー、アフガニスタンなど12カ国からの入国を原則禁止した。国籍だけで選別する強引な手法の一方、「ゴールド・トランプ・カード」と呼ばれる個人外国人で1億5000万円払えば誰でも永住権(グリーンカード)がもらえる制度も新設。そこには「外国人は米国に高い利益をもたらす者だけ来い」との優越思想がのぞく。

大阪「民宿特区」失敗の本質

 最後は外国人観光客を巡るインバウンドのオーバー・ツーリズムを考えよう。
 円安でお隣の中韓だけでなく、欧米やASEAN(東南アジア諸国連合)各国の観光客から日本はナンバー1の人気で、中でも買い物と万博の大阪+日本情緒の京都・奈良がある関西は多くの外国人観光客が押し寄せ。訪日外国人旅行者はコロナ禍でほぼゼロになったが23年には急回復、24年で3687万人と過去最多に。今年に入ってもほぼ毎月、前年比を更新し続けている。
 その中で、大阪市をはじめ府内27自治体が9月までに「国家戦略特別区域法」に基づく「特区民泊」の返上や新規受付を中止、または中止を検討している。大阪市は全国の「特区民泊」の9割が集中する地。マンションの1室を「民泊」にするケースも多いが、騒音や深夜早朝の出入り、ゴミ出し苦情などが相次いでいるためだ。ネット予約とネット決済。利用後はネット評価書き込みされるので、リベンジ悪評を恐れるオーナーが強く指導できない弱点を突かれた格好。「民泊」業は、訪日観光客の国民性や生活習慣まで理解しておかないと思わぬ痛い目に遭う訳だ。

「自国優先」の背景は?

 外国人就労者や留学生と訪日観光客の問題は一件無関係だが共通点はある。
 どちらも少なくなった日本人をカバーしてくれるから経済的メリットは大。従前なら寂れる一方の地方観光地や人材倒産の恐れがある中小企業も外国人のおかげで救われるケースがある。しかしロボットではないから「お金だけ生み出してくれ!後は知らない」という訳にはいかない。外国語が通じる病院や物販、子弟が通う学校などの対応施設が必要だし、外国人に合わせた多彩な食生活準備もいる。単純に「郷に入れば鄕に従え」では持続可能な仕組みとは言えない。
 先進国はこぞって排他的で自国優先を競う時代になった。かつての「グローバリズム」(世界は一つの共同体)は「多国籍企業や富裕層、経済界が仕掛けたもの」とみなされ後退、給料が上がらず物価高に苦しむサラリーマンら中間所得層は「自国優先」の考え方が顕著だ。一方で政治の世界は「内政の失敗を外敵に転嫁する」ことで、責任逃れし続けてきた一面があることも頭の片隅で忘れてはならない。

タイトルとURLをコピーしました