高齢者や長期入院患者に人生体験を「聞き」、文章に「書き」残す「聞き書きボランティア」と呼ばれる活動が近年、全国的に広がっている。ふだん第三者に語る機会の少ない体験や知識を記録することで、当事者は自身の生の意味を再確認でき、精神的充足につながる。「簡素で効果的な心のケア」として認知が定まりつつある。
話を聞いたのは、この活動に10年以上参加している鈴鹿典子さんだ。幼少期から複数の脳疾患を抱え、大学時代の過失事故で車いす生活となった経歴を持つ。「医療現場や社会の在り方を考えるきっかけになれば」と、これまでの記録を残した『いのちを乗せた車いす ― 犯罪被害者の私が車いすユーザーとなって ―』を出版した。
「自分の経験を一緒に持ってもらえた感覚だった」と鈴鹿さんは話す。これまでは親しい人にしか話せなかった内容が、活動を通じてボランティアや読者に共有され、心が少し軽くなったという。出版から2年がたつ今も感想が届き続け、励みになっていると笑顔を見せた。
鈴鹿さんは現在も書道作品の発表や医療関連プロジェクトへの参加など、自身の経験を社会に伝える活動を精力的に続けている。
