〝売れ残り〟がヒットの種に 「着ながら休む」世界初の回復ウエア誕生秘話

 就寝時や移動中に着用し、体が回復しやすい環境を整える「リカバリーウエア」が注目を集めている。伸縮性によるサポートとは異なり、血行を助けるとされる遠赤外線を放つ鉱物を糸に練り込んだ繊維を使った世界初のウエアを開発したのが、ベンチャー企業「ベネクス」(神奈川県)だ。「着ながら休む」という新しい発想は、スポーツの現場から日常へと広がり、回復習慣を塗り替えつつある。

 同社は2005年の設立時、同社社長の中村太一さんが老人ホーム運営企業に勤めた経験を生かし、高齢者向けの床ずれ防止マットの開発を目指した。血行を助けるとされる遠赤外線を放つ鉱物を糸に練り込む構想で、素材メーカーとの共同開発に1年、さらに繊維メーカーと新素材を仕上げるまで半年を要した。しかし原価を積み上げると1枚約10万円に。苦労して商品化したものの、結果は「1枚も売れない」厳しい現実だった。

リカバリーウエアの開発当時を振り返る中村太一社長

 転機は、余った生地で作った疲労回復用Tシャツだった。大手スポーツジムのバイヤーの目に留まり、「アスリートの疲労は深い。売店で扱いたい」という一言がきっかけとなる。試験販売からトレーナーの口コミで評価が広がり、短期間で全店展開に至った。こうして世界初のリカバリーウエアが動き出し、「運動後の疲労回復」という新たなニーズを確信したという。

 「休養のために何かをするとかえって休まらない。私は週末に釣りやカヤックで気分転換し、日常ではリカバリーウエアを常用している。着るだけで休める〝ながら休養〟を続けている」と中村社長は語る。ファッション性ではなく「どれだけ休めるか」を追求する姿勢から、同社は自らを〝リカバリー屋〟と位置付ける。価格は相応ながら、休養に本気で向き合う層から確かな支持を得ている。

 「これからも品質と使い心地を磨き、プロ選手や〝しっかり休みたい人〟に応え続けたい」と中村社長は展望を示す。リカバリーウエアは現在、あべのハルカス近鉄本店ウィング館(大阪市阿倍野区)などで販売されている。

 詳細は同社URL(https://www.venex-j.co.jp/company/profile/)へ。

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