【関西の教育最前線】模試の偏差値 正しい見方は?


入試情報室長
藤山正彦
(開成教育グループ)

 入試シーズン真っただ中。大学入試では、総合型選抜や学校推薦型選抜で昨年中に進学校を決めた生徒も多いと思いますが、一般選抜で受験する生徒にとって志望校を選ぶ一番の決め手はやはり「難易度」。自分の学力にふさわしい学校に出願するのが一般的でしょう。

 自分の学力を把握するには模擬試験や模擬テストを活用します。今回はこの模試の数値や判定をどのように評価するべきか、という話をしてみたいと思います。

 まず、模擬試験に限らず、テストには点数が付きますが、問題の難易度や解答方法などで平均点は大きく変動します。そこで、100点満点の試験の平均点を50点と仮定し、そこからどれだけ上下に離れているかを統計的に表したものが偏差値です。偏差値50なら受験者の平均点だったことになります。ただし、参加する受験者層によっても意味が変わってきます。

 一般的な小学生向けの模試と中学受験用の模試では、同じ偏差値50でも同じ学力ではありません。そもそも中学受験は、近畿圏で小6生の1割弱、首都圏で17~18%程度しか参加しておらず、中学受験に向けて準備してきた子どもたちばかりです。その小6生ばかりが受ける模試の偏差値50は、一般的な小学生全体の平均よりは高いと考えた方がよいでしょう。

 さて、大学入試用の模試にも同じことが言えます。「共通テスト模試」のようにマークシートで解答する試験は受験者数も多いので、その志願動向から「未来の難易度」がわかるメリットがあります。しかし、例えば5つの選択肢から答えを選ぶ問題の場合、無作為にマークを塗りつぶしても確率的に20点は取れるため、平均点は極端には下がりません。

 一方で「記述模試」の場合、マーク式が中心の私立大学を目指す生徒は受験せず、代わりに国公立大学の志願者が多く受験します。そうなると母集団の学力ゾーンは上がりますし、無回答だと当然0点なので、マーク式より厳しい点数と偏差値が付くことになります。その結果、「自分は記述式に向いていない」と思い込み、マーク式の受験に逃げようとしがちです。

 また、模試をつくる会社によって難易度一覧表などの表記が異なるのでご注意を。河合塾は大学ごとの基準偏差値を学部単位でなく、学科と受験方式別に細かく発表していますが、数値に関しては2・5刻みと大雑把です。一方、ベネッセ・駿台は数値が1刻みですが、評価は学部ごと。偏差値もベネッセの方が河合塾より高く表されています(ケースによるが15以上の差がある場合も)。

 つまり、河合塾の模試で偏差値55だった受験生が、その後にベネッセ・駿台の模試で偏差値70と判定された場合、一気に成績が伸びたように思えますが、実際はあまり変わっていないかもしれません。

 難易度の序列も模試によって異なります。例えば、関西大学の文系学部ではどちらの模試も「外国語学部」が最難関評価です。しかし、同志社の文系学部では、河合塾が「心理」、ベネッセは「グローバルコミュニケーション」を最難関にしています。

 実は各模試での基準偏差値というのは、昨年の受験生の成績と合否結果の相関から割り出されたものなので、違いがあるのは当然です。そのうえ、模試の問題傾向や解答方式、難易度も各大学の入試問題とは異なるから違いが生じるのです。

 同志社の理系数学は数Ⅲからの出題割合が高いので、数Ⅱ・Bまでを試験範囲にしているマーク模試でA判定が出ても安心してはいけません。

 というわけで、毎回の偏差値や合否判定に一喜一憂するべきではなく、模試は自分の不得意科目や単元を見つけるツールと割り切りましょう。模試であぶりだされた不得意単元への対応を行ったうえで、入試に向けては志望校の過去問を必ず時間を計りながら解いてみる。こうした準備が受験対策の王道と言えるでしょう。