岸田首相は12月10日の記者会見で、来年度以降、5年間の防衛力について総額約43兆円を確保する一方で、「2027年度以降は約4兆円の確保が必要になる」として、うち1兆円強を増税で賄う方針を表明した。これを受けて自民、公明両党は防衛費増額の財源確保策として、法人、所得、たばこの3税の増税方針を2023年度税制改正大綱に盛り込んだ。法人税は4~4・5%、所得税は1%を税額に上乗せし、たばこ税は1本換算で3円引き上げる。ただ、与党内にも増税反対の声も強く、実施時期については「24年以降の適切な時期」と明示せず、判断は来年以降に先送りした格好だ。23年度の防衛費増額に必要な財源は、特別会計からの繰入金など税外収入を中心に捻出する。
特別税に〝看板〟をかけかえて防衛財源を確保
身内からも「造反」
「未来の世代に対する今を生きるわれわれの責任だ。厳しい安全保障を前に、一刻の猶予もない」と12月10日の記者会見で防衛費増額の必要性を訴え、2027年度時点で必要になる約4兆円の追加財源のうち、1兆円強を増税でまかなう考えを示した。この発言に内閣の一員である高市早苗経済安全保障担当大臣が噛(か)みついた。高市氏は自身のツィッターで再来年以降の防衛費財源なら、景況をみながらじっくり考える時間はあります。賃上げマインドを増やす発言を、このタイミングで発言された総理の真意が理解できません」と批判。
高市氏は16日の記者会見で防衛費増額の財源をめぐり与党が増税時期の決定は先送りする形で決着させたことについて、「来年また議論ができることは非常にありがたい」と歓迎した。
防衛費に関しては党内最大派閥の安倍派を中心に「国債発行論」が根強いが、「国債でというのは未来の世代に責任として取りえない」というのが岸田首相の立場だ。
増税に対して党内からも「防衛力強化の必要性は認めるが、強化の中身も国民に説明していない」と反対論も多く、財界からも法人税増税には「企業もいま一生懸命、賃上げを含め人への投資、設備投資に備えようとしている」(経済同友会)などと慎重な対応を求める声がでていた。
増税の中身
岸田首相は12日、自身のツィッターをこう更新した。
「今年の漢字が発表されましたが、私の今年の漢字は『進』です。歴史を画すような様々(さまざま)な課題に対して、悪質な献金被害の救済法や防衛力の抜本強化、新しい資本主義の具体化などを、一つ一つ進めており、また、来年も進めていきます」
この首相の投稿にSNSは「どこに進んでいくのですか―」「頭の中は『税』でいっぱいなのでは…」などと、大きく反応した。
防衛力強化に向けては5年後の27年度に1兆円強の財源を増税で確保する方針は確認したが、道筋は不透明だ。24年度以降を見込む法人税増税では、税額に4~4・5%の付加税を設けるが所得2400万円以下の中小企業は除外する方針は確認された。
財務省の発案
野党から批判の強かった東日本大震災の復興特別所得税からの転用は避け、復興特別所得税の税率を現在の2・1%から1%下げ、防衛向けの財源に転用する。現在37年までとなっている課税期間を最長で13年間延ばすことで復興財源の総額を確保する考えだ。
38年以降も延長して一部を防衛費のための特別税に看板をかけかえて防衛財源に充てるように発案したのは財務省という。
要するに税額に1%の新たな付加税を当分の間課すが、復興特別税の税率を1%引き下げるので国民にとっては年間の所得税負担は変わらない。そして、復興特別税は37年まで、25年間の時限措置として実施されているが、課税期間を最長で13年間延ばし、復興財源の総額は確実に確保する考えだ。確かに国民にとっては「年間の税負担は変わらない」という理屈だが、東日本大震災の被災地復興を支えようと創設されただけに、防衛費財源に使うことにしっくりしない思いを感じる国民が多いのではないか。