小麦や大豆など輸入に頼る食材が大きく値上がりする一方、コメや野菜などの国産品の価格は比較的安定している。輸入品との価格差が縮小すれば、割安感さえ出てくる。国産品に注目するいい機会がやってきた。
「食」は国民の命 国内生産確保に全力
帝国データバンクによると、10月には6305品目の値上げが明らかになっている。政府は輸入小麦を民間に売り渡す価格を10月以降も現在の水準に据え置く方針を発表したが、市民の懐はすでに大打撃だ。
日本の食料自給率は〝食の洋風化〟などの影響で年々、低下の一途を辿り、2020年度の食料自給率は生きるのに必要なカロリーベースで37・17%で1965年の統計開始以降、最低を記録した。品目別の自給率をみると、コメが98%、野菜が75%、小麦が17%、畜産物が16%、油脂類が3%となっている。
毎年続く「異常」気象
地球温暖化による気候変動やロシアのウクライナ侵攻による国際情勢の緊迫化で、農作物の不作や物流が滞る事態が現実に起こっている。この不測の事態に国民を守れるかどうかが独立国の最低条件といえる。「異常」気象が「通常」気象になるほど気候変動が起こり、世界的に供給が不安定さを増している。さらに需給ひっ迫要因が相まって価格が高騰しやすくなっている。
原油高がその代替品となるトウモロコシなどの穀物のバイオ燃料需要も押し上げ、暴騰を増幅する。国際紛争などの不測の事態は一気に事態を悪化させるが、ウクライナ危機で今まさにそれが起こってしまった。
価格変動が少ない国産食材
そんな中、コメや国産野菜、特に旬の野菜やきのこ類は価格変動が少ない。輸入に頼る飼料が値上がりしているため、国産牛肉は高くなっているが、豚肉や鶏肉、卵は比較的安定している。牛丼チェーン店の「吉野家」はこれまでの米国産とのブレンドをやめ、国産米だけを使うようになった。
大阪市内の40歳代の主婦は「旬の野菜や鶏肉、卵などの国産食材をメインに自炊して、外食は時々楽しんでいます。これで5~10%の食費値上がりをカバーできます」と自らの値上げ防衛策を話す。
食料以外でも日本産ワインはクオリティの高さや繊細な味わいから、海外からも注目されている。チリやスペインなどのカジュアルなワインと比べると、日本ワインに割高感があるが、税抜きで1000円台という比較的安い値段で購入できる、日本ワインにもコスパの優れたものがある。
穀物の「買い負け」
かつては経済大国・日本と国際的にももてはやされたが、最近、目立つようなってきたのが、日本が中国などの新興国に穀物の購入で買い負けるようになったことだ。ロシアとウクライナで世界の小麦輸出の3割を占める。日本は小麦粉を米国、カナダ、オーストラリアから買っているが、代替国に需要が集中して争奪戦は激化している。中国の食料需要は、すでに大豆を1億300万t輸入している(21年)。日本は大豆消費量の94%を輸入しているが、中国がもう少し買い増しすると言えば、輸出国は日本に大豆を売ってくれなくなるかもしれない。
今や中国、インド、東南アジアの経済発展が著しく高い価格で大量に買う力がある。コンテナ船も日本経由を敬遠しつつあり、日本に運んでもらうための海上運賃も高騰している。
命を守り、環境を守り、地域を守り、国土・国境を守っている産業を国全体で支えることは、欧米では常識だが、それが常識でないのが日本。政府はカロリーを基準にした食料自給率を30年度までに45%にする目標を掲げているが、依然として低い水準が続いている。
やるべきは農林水産業政策の再構築で国内生産の基盤を強化していくことに全力を挙げることだ。