【外から見たニッポン】大詰めの米大統領選挙は民主主義を体現しているのか?

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏
【プロフィル】 米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

 米大統領選挙もいよいよ大詰め。決戦の投票日まであと10日となり、両陣営は大量のテレビCMやSNSのターゲット広告を展開したり、激戦州で市民との対話集会を重ねたり、最後の追い込みに必死の様相です。

 次の大統領を決めるための選挙というものは、最も民主主義の基礎となるものですが、米国ではそれがかなりの部分で捻じ曲げられている事実もあります。

 選挙は国民一人ひとりの声で勝者を決める民主的な方法ですが、投票権を持つ人たちに事実が知らされていなかったり、正しくない情報に基づいて投票先を決定していたりしているとしたら? もし、情報が意図的に操作されているとしたら?
その選挙結果は民主的と言えるのでしょう?

 米国は昔からエスタブリッシュメント(支配階級)と呼ばれるごく少数のエリートたちにコントロールされてきた歴史があります。表舞台で影響力を行使する人もいれば、陰に隠れて人知れず国の行く末に影響を与える人もいます。多国籍企業や軍産複合体は、国策と利益を共有する立場にあるため、誰がリーダーになるか、誰が自分たちに都合のいい法律を制定してくれるのか、どんな政策がとられるのか、に大きな影響力を行使します。彼らは選挙で選ばれた者たちが表舞台で自分たちの代弁者として動くことを期待しているのです。

 今回の選挙も富裕層が莫大な額を献金しています。一般市民の寄付も含みますが、これまでにハリス陣営には約1500億円、トランプ陣営には約1000億円の選挙資金が集まっています。

 億単位の額を寄付する著名人や富裕層が多数おり、例えばイーロン・マスクはトランプの支持団体に100億円以上を寄付しています。どうりでトランプは、勝利した暁にはイーロン・マスクに政権内での役職を与えると公言するワケです。

 集まった資金は、テレビやネットでの情報発信や市場調査、動向分析などに使われ、選挙民を細部まで分析し、狙い撃ちでメッセージを送っています。年齢や性別、学歴、経済状況、信仰する宗教、職業、住環境、都市部や地方などの地理的要因、とあらゆるカテゴリーに細分化し、それぞれに響くメッセージを届けるのです。

 そのメッセージが、相手を非難したり、根拠のない言いがかりをつけたり、誹謗中傷や偽情報の発信だったら?

 米国の各メディアも共和党支持か民主党支持かを明確にしているので、放送内容もかなり偏っています。

 共和党寄りのFOXニュースを見ていると、カマラ・ハリスは〝無能で信頼のおけない人物〟とこき下ろされています。

 一方、民主党寄りのCNNやABCニュースを見ると、ドナルド・トランプは嘘つきで横暴で国や国民を危険にさらすとんでもない人物と非難されています。

 ネットニュースにしろ、有名ブロガーやインフルエンサーが運営するSNSやポッドキャストにしろ、状況は同じです。

 このため、どちらサイドのメディアにふれるかで、両候補のイメージが全く違ってきます。特にネットは同類のニュースや映像がどんどん表示される仕組みのため、その方向へ引きずられてしまいます。悲しいことに一般の米国人は、こうした情報に感化されやすく、聞いたまま見たままに受け止め、行動してしまう傾向があります。

 富裕層が提供した資金を使い、意図を持つ「事実」と呼ばれる情報や、都合よく解釈を加えた分析結果やアンケートに踊らされる状況で、有権者が投票する選挙は果たして民主的なのでしょうか?

 加えて、フェイクニュースやAI(人工知能)の意図的な偽動画も登場し、何が真実なのかがわかりずらくなっています。

 大金を出してメディアを使い、意図的に有権者を誘導できてしまうというのも考えものです。

 前代未聞の候補者の交代や暗殺未遂など紆余曲折のあった今回の米大統領選。お互いを完全否定し合う選挙戦でデマも含めて飛び交う情報やメッセージに有権者はかなり翻弄されています。

 米国の主流メディアは大接戦と伝えていますが、ふたを開けてみるとトランプに雪崩を打った一方的な勝利になる気がしてなりません。