【わかるニュース】明日は週休3日か、突然クビか? 今どきニッポンの働き方改革

 英国が労働党に政権交代し〝週休3日制の促進〟を盛り込んだ法案を議会に提出することが決まったと思ったら、最近は国内でも、愛知県や熊本市の自治体が週休3日の導入を検討していることがニュースになった。民間企業でもユニクロを運営するファーストリテイリングや味の素、ファミリーマートなどの大手企業がすでに導入。トヨタやJR西日本も導入を進めており、じわじわと増えてきている。
 日本ではつい先日まで繰り広げられた自民党総裁選で小泉進次郎(43)と河野太郎(61)両候補が「解雇規制の緩和」の検討を口にし始めた。わかりやすく言えば、会社側が〝自由に社員をクビにできるシステム〟だ。働き方改革で労働時間の短縮が叫ばれているが、少子高齢化で労働人口は減るばかり。日本経済の明日にいったい何がベストなのだろうか?

「週4勤務」で仕事は回る?
労働力確保〝切り札〟に!?

「週休3日」は政府提案

 かつて日本企業の代名詞といえば 〝終身雇用と勤勉さ〟だった。当時、CMでも話題になった日本のサラリーマンを象徴する「24時間働けますか?」の見返りは、企業が極力解雇を回避していたこと。このため、社命とあれば社員は海外にも赴任し会社のために働いた。
 労働基準法に定める休日は「週1日または4週4日」でしかない。政府が選択的な「週休3日」を打ち出したのは2021年。新たに空いた1日の使い道として、①育児・介護・ボランティア②地方兼業(都市部に住み働きながら、地方企業業務を副業として行うこと)を提案。今も国と地方の公務員は原則兼業禁止だが、民間労働者には柔軟な働き方を後押ししたことで注目された。
 少子高齢化による労働力不足への対策は4つだけ。

①働いていない人に働いてもらう(高齢者や家庭人を指す)
②今、働いている人に長く働いてもらう(長時間労働を含む雇用延長を指す)
③すべての人に効率よく働いてもらう(AIや機械活用を含む)
④外国人労働者を導入(円安の日本では期待薄)

 「週休3日」制は②で従業員に離職抑制へのアピール、同時に③で企業に労働力効率化を求めている。

中小企業に高いハードル

 「週休3日」は従業員の多い大企業なら比較的簡単だ。改めてでなくても、すでに週末を2回絡め「9~10連休」取得を盆暮れ以外に義務付けている企業もある。
 休みを増やすことに伴う企業側の最大のメリットは人材確保だ。新卒者の採用時に「週休3日」を示せば学生の反応がいいし、離職を防ぐのにもプラスだ。加えて、業務にメリハリがつくことから生産性が上がり収益性も上がる。最後はコスト削減で、一斉に休みにすると事務所や工場の光熱費も削減できる。
 やり方はいくつかある。
【労働圧縮型】出勤日の勤務時間を長くし、週単位では「週休2日」と同じ時間だけ働く。給与は変わらない。テレワークが可能な企業なら比較的簡単に導入できる。
【給与減額型】週40時間労働を32時間に。減った8時間20%分の給与が減る。企業側はこれを原資に、非正規などの人を雇う。副業解禁や個別研修受講などで収入補てんやスキルアップを目指す。
【労働時間削減・給与維持型】減らした労働時間を個々の生産性向上で補い給与は維持。限られた時間で高いパフォーマンスを求められ日本では向かない。
【フレキシブル型】月や年単位で労働時間上限を決め、その範囲で業務都合に合わせ稼働。独りで専門職的な職種遂行に向く。

大企業は既に「週休2・5日」

 制度を上手に使いこなすのは社員自身であり、「週休3日」で新たな可能性を探るのか、「週休2日」でリスクを回避するのかを自ら選択することが大切だ。
 「週休3日」についてのアンケートを見ると、「収入が変わらないなら」を条件に8割が賛成している。さらに「収入が同じなら、1日の勤務時間が長くなってもいい」が全体の半数と、給与に対するこだわりが強い。30歳以下では6割以上が賛成する一方、60代以上は過半数が反対しており、世代間の価値観の違いが浮き彫りだ。
 ある大企業では役職定年になった50代後半の社員を「週休3日」でフレキシブルに働かせ、セカンドキャリア育成のための副業や地方兼業をあっせん。逆に60代の熟練工を本人の希望で週休1日にし、毎日の勤務時間を短くするなど柔軟に対応している。
 労働者の年間休日の平均は107日。仮に1カ月に8日間休めば年96日。企業規模が大きいほど休日の取得も多く、1千人規模なら2024年の場合、土日祝と盆暮れ各5日ずつで計120日以上は休んでいる計算。つまり1年の3分の1は休みで、すでに「週休2・5日」を取っていることになる。

 実際「週休3日」になると、介護や育児など私生活とのバランスも取りやすいし、空いた時間をスキルアップの勉強に使える。ただし、上司との関係はどうしても希薄になりがちで、昇進・昇給に不利に働く場合がある。
 減給を恐れないための副業を考えよう。まずスキルがない人は、メルカリなどで不要品販売から始めては? ITやアートの才能があればネット受注で自宅で稼ぐ手も。体力に自信があれば肉体型のエッセンシャルワーカーはどうだろう。常に人手不足の保育や介護の現場、コンビニや宅配など、さらに趣味が合えば農水畜産の手伝いも可能だ。無理せず身近なものから取り組むのがコツ。

「雇用規制緩和」論の内幕

 最後に突然議論が巻き起こった「雇用規制の緩和」論について読み解いてみたい。小泉、河野両氏に共通するのは米国の雇用事情に明るいこと。その感覚で言えば日本流の〝終身雇用、企業戦士〟は異様に映る。すでに30代以下の労働者は雇用流動化を当然と受け止めており、経済界も支持している。
 日本の労働政策は長年、失業率を下げることを第一にしており、公共職安での職業訓練や企業の人材獲得への投資も先進国では最低水準。企業・経済界は〝無駄飯を食っているように見えるおじさん・おばさん社員〟を何とか整理したいから、バブル崩壊後にあの手この手で早期退職を促してきた。時には退職金を割り増ししてまで募集したが、さっさと辞めるのは他に行き先がある優秀な人材ばかり。結局、会社がイメージした〝余剰人員〟は定年までニンマリと会社に居座ることに。
 OECD(経済協力開発機構)で「正社員の解雇のしやすさ」では現状で37カ国中11番目で決して低いとは言えないから、急いで規制緩和する必要性も見当たらない。

OECD諸国の正規雇用の解雇規制の強さ
OECD StatsExtracts,”Employment Protection”2019年度データより作成

 日本企業は辞めてほしい中高齢社員を再教育して送り出す動きが弱い。だから窓際に置いたり、無理に出向させて取引先や協力会社に迷惑を掛けたりしている。人材活性化へもっと本気になるべきだ。
 同時に優秀な若手を飛び級でポストに抜てきする動きもまだまだ不十分だ。給与も年功序列では「高い業績に対する驚くほどのボーナス」は期待できない。これからの企業は必要な人材をポストと金でつなぎ止めないと、若手はアッという間に去っていく。
 ここまで正社員の話を書いてきたが、今の日本は非正規雇用が4割に達する。非正規には「週休3日」も「週40時間労働」もなく、労働環境の悪化も著しい。同一労働でも賃金は7割程度で、企業はその分を内部留保。労働者から搾取し続けている。 〝週休3日の議論〟よりも、こちらの方がよほど問題だと思うが、読者のみなさんはいかがだろう。