Spyce Media LLC 代表 岡野 健将
7月10日に行われる参議院選挙。選挙は国民が投票することで国政に参加する唯一の機会。しかし多くがその投票権を行使していません。投票権は国民固有の権利ですが、最初から誰にでもあった訳ではありません。
明治時代は特定の立場の限られた男性のみが行使出来る権利でした。戦後は全ての国民が投票出来る様になりましたが、1990年代まで特定の条件下の人はその権利を剥奪されていました。それは海外在住者で、当時約200万人がその権利侵害の被害者でした。日本の選挙は住民票のある場所に基づいて投票するので、海外在住だと投票する場所がない、という理由で選挙権の行使を停止されていたのです。世界各地から集まった50名の原告団は裁判費用を自己負担して、原告団を結成し日本政府を憲法違反で告訴しました。その結果、最初に比例代表制への投票権の行使が、そして選挙区での投票権の行使も認められる様になりましたが、現行の法整備が整うまで約30年もかかっています。
現在では在外公館での投票か郵便によって投票が出来る様になり、大使館などがある都市部以外在住でも何とか国政選挙に投票することができます。
私は50名の原告団一人だったので、時系列で当時の動きを見てきました。この裁判が始まった頃、アメリカでは既に人工衛星に滞在中の宇宙飛行士がメールで投票していたり、海外の米軍基地にいる兵士が当然のごとく投票権を行使する話を聞いており、日本がいかに遅れているのかを痛感させられていました。
「なぜ日本に住んでいない海外在住者が国内の選挙に関係あるのか?」それは日常生活に関わってくるからです。例えば、昨今の急激な円安や日本経済の停滞で就職や雇用に影響があったり、人種問題や憲法改正、米軍基地問題、元総理の核シェア案などセンシティブな問題が現地での日本バッシングにつながるなど、国政の動きが日々の生活に直接的に影響を及ぼすのです。
アメリカの大統領が誰になるかで世界政治に大きな影響がある様に、総理大臣が誰になるか、自民党が勝つか負けるかは、それなりに海外在住者の生活に影響するのです。
ちなみに在外投票権を巡って争っていた当時、ニューヨークで模擬投票を行ったところ、自民党は大敗し組織票を持つ公明党が第一党に選ばれました。そんなこともあり、最後まで海外在住者の選挙権の行使に反対していたのは自民党でしたが、形成不利と判断したとたんに立ち位置を変えて、自民党が同法案を成立させたのは付け加えておきたいです。
「どうせ何も変わらない」と言って投票を棄権するのも自由ですが、当たり前に存在する投票権が誰もが平等に行使出来るまでにはさまざまなことがあったことを踏まえ、一人でも多くの人に今回の選挙でその権利を行使して世の中を変える一翼を担ってもらいたいです。
【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。