「増税は仕方がない」はウソ なぜなら国の借金は借金ではない
財務省が5月10日、税収で将来返済しなければいけない国の長期債務残高が3月末時点で1017兆1072億円になったと発表した。初の1千兆円超えに、日本もアルゼンチンやギリシャのように財政破綻するのではないか、と心配する読者も多いことだろう。
報道は「国民一人当たり約800万円の借金」のキャッチフレーズで財政危機を煽っているが、本当にそうなのだろうか。こうした報道に惑わされないためにも、一つのモノの見方を提示したい。
報道では、初めて国の借金が1000兆円を突破したとある(3月末時点)。この額を人口で割ってみて「国民一人当たりの借金は約800万円」という計算式のようだ。
しかし、正しくは「政府の借金」だから、私たち国民一人一人に課せられた借金ではないことをまず理解しておく必要がある。そこを理解しておかないと、返済しなければいけないという思考停止状態に陥るからだ。日本銀行の資金循環統計にも「国民の負債」とは書かれておらず、ちゃんと「政府の負債」と書いてある。
ところが、唐突に「一人約800万円の借金」と言われれば、良心的な国民は「これだけ借金が増えると、増税もやむなし」と思ってしまうのも仕方がない。最終的に自分たちの国なのだから、国の借金は国民の借金と考えてしまうのも無理はない。
過去に「国の借金が国民の金融資産を上回ると破綻する」という理論があった。しかし、実際には国の借金が国民の金融資産を上回ることは絶対にない。
なぜなら、お金というものは常に貸借関係で成り立っているからだ。
わかりやすくいえば、「誰かの借金(赤字)は、誰かの資産(黒字)」になっているからだ。
例えば、政府が100兆円を借金したとしよう。10万円給付のようなバラマキにしろ、橋やダム、高速道路を作るにしろ何かに使うために100兆円を借りたわけだから、その100兆円はシンプルに国民の銀行口座に移る。10万円給付をすれば国民の銀行口座に10万円が増え、国が橋やダム、高速道路を建設すれば、ゼネコンで働く人の給料になる。
つまり、政府が借金すれば、その分だけ国民のお金が増え、反対に税金を取って政府が黒字を目指せば国民のお金が減る、という図式になる。
実際に、政府の借金が増えた分だけ、国民のお金(家計金融総資産)が増えていることを下表が裏付けている。国の借金が1000兆円を超えた一方、昨年12月末の国民の金融資産は初の大台である2000兆円を突破している。
ではなぜ「政府の負債」を、国民が誤解を招くような「国の借金」と呼ぶのか。そこには各省庁にお金を配ることで権力を維持したい〝政府の金庫番〟である財務省の存在がある。
「我ら富士山、ほか並びの山」と財務官僚自身が認識しているように、財務省以外の省庁は予算をもらうために、財務省にお願いに行く。つまり「仕方がない。お前のところに予算をつけてやる」と言える立場なので権力がある。お金を配る強い立場だから、財務省は天下り先のポストも他省庁に比べて圧倒的に多い。予算をつけてもらうために、天下り先が定年後のポストを用意するわけだ。
話を「国の借金」に戻そう。そもそも借金で何が大変かと言えば金利の支払いだ。しかし、実は政府の借金1000兆円の半分にあたる約500兆円の国債は日本銀行が買っている。政府は借金という名目上、確かに日銀に対して律儀に金利を支払っている。しかし、「日銀の利益、すなわち政府から受け取った金利は、国民の財産として再び政府に戻ってくる(日銀法第53条)」という仕組みになっている。つまり、日銀へ利払いした分は結局、政府に戻ってくる訳だから実際には無金利だ。加えて、返済期限の来た国債は、次々と新しい国債で借り換えることで、永久に借金を返さなくて済む状況を作っている。
まとめると、日銀が引き受けた国債については、金利は払っているようで払っておらず、返済期限の来た国債は借り換えるのだから、借金というより世の中のお金を増やす貨幣発行と言えるだろう。
「日銀は政府の子会社」と安倍氏
安倍晋三元首相が「日銀は政府の子会社」と発言したことが波紋を呼んでいる。野党は日銀の独立性、中立性を問題視したが、実態を見ると安倍氏の言っていることは正しい。
日銀は株式を東京証券取引所に上場する民間企業で、その株式の55%は財務大臣、つまり日本政府が保有している。民間の理屈で例えるなら「政府の子会社」と言っても間違いない。
日銀の独立性とは「日々の細かなやり方にまでは口を出しませんよ」という意味であり、日銀法第4条には「政府から完全に独立した振る舞いはだめ」であることがちゃんと明記されている。
日銀と政府を連結決算すると、日銀が保有する政府の負債は、日銀の資産と相殺されて「ゼロ」になる。つまり、政府は現実には日銀を使って貨幣発行し、世の中のお金を増やしているということだ。
それでは「無限にお金を発行しても大丈夫なのでは」ということだが、それはそれで問題が生じる。お金を刷り過ぎれば当然、モノの価格が大きく上がってしまい、行き過ぎたインフレを招くことになる。インフレ率に注意しながらGDPギャップを埋めるだけの貨幣発行は需要創出には必要なことだろう。
紙幅の関係で細かくは説明できないので、「何だか分かったような、分からないような」と思うかも知れない。
ただ、最も言いたかったのは、報道された情報をそのまま鵜呑みにせず、さまざまな意見を聞いて、自分の頭で判断できるようになってほしいということだ。物事を正しく理解すれば、「増税して借金を返さないと国が潰れる」というステレオタイプの考えにすら疑問を持つことが出来る。