高齢化や在宅医療の広がりを背景に、訪問看護ステーションが増え続けている。全国訪問看護事業協会の調査によると、訪問看護ステーションは2026年4月現在で2万51カ所に伸び、初めて2万の大台に乗った。25年度中に新設された事業所は2428カ所に上った一方で、廃止した事業所も960、休止が328と増加中だ。急拡大する業界の足元で、なぜ撤退する事業所も増えているのか。(佛崎一成)

新規参入と退出が同時に進む訪問看護。なかでも全国最多が大阪だ。26年4月1日時点の稼働数は2456カ所で、東京や愛知を大きく上回る。大阪では25年度だけで410カ所が新設されたが撤退も多く、廃止は137、休止が41となっている。
廃止の理由は統計からは分からないが、医療福祉を専門にマーケティング調査を中心とした経営支援を220社以上に行ってきたニューメディー(大阪市中央区)の花山翔社長によると、事業継続を難しくする要因の一つに「人材の採用と定着」があるという。
訪問看護ステーションは看護職員を常勤換算で2.5人以上配置する必要がある。厚労省の調査では、24年度の事業所の看護職員の規模は2.5〜3人未満が15.5%、3〜4人未満が22.6%、4〜5人未満は17.1%。半数以上が5人未満の運営で、1人離職すればすぐに人員基準を割り込みそうな状況にある。
仲間と一緒に独立
花山社長は「看護師仲間3人ほどで独立するケースをよく見かける」と話す。デイサービスなどのように「箱」を必要としない訪問看護は、事務所と必要な人員がそろえばスタートできる。「比較的、初期投資を抑えられることも新規参入が増える一因ではないか」という。
しかし、問題はその後だ。最初は知人同士で必要な人数を集められても、利用者が増えれば増員が必要になる。ところが、「新たに採用する4人目が続かない。そんなジンクスを事業運営者からよく耳にする」と花山社長は明かす。
4人目が続かない
背景の一つにあるのが、創業メンバーの「独自文化」だ。独立してすぐは利用者を確保するため「24時間、365日対応」などを掲げがちだ。受け皿を広げれば、病院やケアマネジャーから紹介を受けやすくなるからだ。一方、夜間のオンコールや休日対応など職員の負担は大きくなる。
「創業メンバーは『しんどくても頑張ろう』と思いを共有できるが、同じことを後から入った職員にも求めれば、働き方へのギャップが生まれる」と花山社長。加えて、経営者側は「頑張れないのは退職する側の問題」と捉えがちで、勤務体系など会社側の仕組みを見直す必要性に気付かないケースもあるという。
この実態を現場から見ているのが、救命救急や訪問看護の管理者などを経て20年に独立した「Kurashi」の日髙雄摩社長だ。現在、全国の訪問看護職や管理者、経営者ら約300人が参加するオンラインサロン「kaNgo class」を主宰している。
日髙社長も「創業メンバーと4人目では、会社に入る動機が違う」と話す。「オンコールなしと聞いて入社したのに、求人の条件と実際の働き方が違うケースもよく聞く。こうした〝自己流の経営〟が採用後のミスマッチにつながっている」と明かす。

求人倍率は氷山の一角か
加えて、訪問看護は人材確保が難しい。日本看護協会がまとめた24年度のナースセンター登録データによると、看護職全体の求人倍率は2.51倍だが、訪問看護は4.54倍と施設別で最も高い。
さらに「民間の求人などを含めれば、公的な求人倍率よりも3〜4倍は高いのが実態だ」と花山社長は明かす。
「やり方が分からない」
日髙社長がもう一つ問題視するのが、管理者や経営者を育てる仕組みの不足だ。日髙社長自身は訪問看護事業所に勤務し、管理者を経験してから独立したため、利用者獲得や職員教育、管理などの流れを経験できた。しかし、管理者を経験せず、そのまま独立する人も多く、「管理者のやり方が分からないという相談が一番多い」という。
管理者の仕事は、利用者や職員の管理だけではない。採用や営業、教育、車両、保険、事務所の運営など未経験の仕事が一気に増えてくる。
日髙社長は「看護技術が高ければ利用者は自然に集まり、いい看護をしていれば会社も続くと思っている管理者が多い。それは、おいしいものを作れば売れると思い、人のいない山奥に店を出すようなもの」と話す。
花山社長も「看護の質は不可欠だが、事業として続けるには、経営という別の能力が必要になる」と強調する。

廃止は利用者にも影響
事業所の撤退は、経営者や職員だけの問題ではない。日髙社長によると、スタッフ4人程度の事業所でも利用者は25~30人、5~8人規模なら50〜100人を抱える場合がある。ところが廃止となれば、それぞれの利用者は主治医やケアマネジャーなどと調整し、別の事業所を探さなければならなくなる。
「30人なら30通りの調整が必要で、地域の関係者に大きな負担がかかる」(日髙社長)
「頑張る」よりも「仕組み」
では、職員が無理なく働き続けられる事業所をどうつくるのか。例えば、日髙社長の事業所では、夜間のオンコールを1人に背負わせない仕組みを採用。「最初に電話を受ける看護師の後ろにセカンドコールとなる上司を配置し、救急搬送が必要か、すぐ訪問するのか、翌日まで様子を見るかの判断を相談できる」という。一人で判断する苦痛を減らし、責任を分散している。
また、担当者だけで利用者を抱えず、チームで情報を共有。訪問看護は直行直帰でスタッフが孤立してしまいがちだが、週1回は職員が集まり、対応に困るケースなどを話し合うという。
「担当者だけが利用者の状況を知る状態では、休みの日まで電話を受けたり、病欠の際に他の職員が対応できなかったりする。情報を組織で共有し、休める人がきちんと休める体制にしている」と日髙社長は話す。
「思い」と経営の両立へ
国は医療費抑制などを背景に、住み慣れた地域で療養を続けられる体制づくりを進めている。その重要な受け皿が訪問看護だ。事業所が増えることは、在宅療養を支える選択肢が広がることでもある。
一方、新設と廃止が共に増えている現状は、「開業できること」と「継続して運営できること」が同じではないことを示している。
日髙社長は「訪問看護には本当にいい人が多い。患者のために何かしてあげたいという思いが強く、自分の負担が増えても動いてしまう。しかし、その善意を個人の頑張りだけで支え続ければ、いずれ職員も会社も疲弊する」と指摘しながら、「みんなが正しい経営のやり方を学べば、もっといい業界になる」と話す。
花山社長も「思いを持って看護をしている事業者が、経営ができないから続けられなくなるのはもったいない」とした上で、「看護への思いがある人に、経営する力も身につけてもらいたい。そういう事業所がきちんと残っていく業界になってほしい」と話している。
全国で2万51カ所まで急拡大した訪問看護。患者に向き合う「思い」を自己犠牲で終わらせず、看護を継続して届けられる仕組みをどうつくるかが問われている。
