「現場監督」と聞けば、ヘルメット姿で強面の職人たちに指示を飛ばす仕事を思い浮かべる人も多いだろう。ところが、枚方市の貫山建設を率いる貫山社長は「全然違いますよ」と笑う。約60社の専門業者を束ね、億単位の予算を動かし、一枚の施工図から建物を完成へ導く。そして何より面白いのは「人が育っていくこと」だという。人手不足が続く建設業界で、同社は未経験者を一から育てる「現場監督養成道場」を始めた。その根底にある思いを聞いた。(佛崎一成)

─建設会社の社長なのに、建物より人が育つ方が面白いと。
そうなんです。僕の場合、仕事の楽しさの8割くらいは人が育つことかもしれません。もちろん、建物をきちんと完成させるのが仕事です。でも、完成までの1、2年の間に若い子がどんどん成長していく。その姿を見るのが一番うれしいんです。
─会社員時代から、人を育てることに面白さを感じていたのか。
現場監督として4年目くらいに所長を任せてもらい、若いスタッフがつくようになりました。最初は「次はこれをやって」「この業者に連絡して」と全部指示しないといけません。でも、しばらくすると「これどうなってる?」と聞いたら、「もう終わってます」「次の業者も手配してます」って返ってくるようになるんです。
「ああ、成長したな」って分かるでしょう。それがたまらなくうれしいんですよ。
─建物が人を育てるツールのようだ。
極端に言えば、そうですね。僕らは建設会社なので建物を造っています。でも、その建築という仕事を通じて人が育っていく。僕にとっては、そこが一番面白いところなんです。
─そもそも「現場監督」と聞くと、職人を大声で仕切るような印象がある。
そう思われがちですよね。でも全然違います。僕はすごく面白い仕事だと思っているんですけど、世間には中身があまり知られていない。工事現場は仮囲いの中なので、何をしているのか見えないからかもしれませんね。
─実際にはどんな仕事をしているのか。
一言で言えば、建物に関わる多くの専門業者をつないで、一つの建物を完成させる仕事です。例えば15階建てくらいの鉄筋コンクリート造のマンションなら、約60の業者が関わります。
最初に土を掘る業者の人、次は鉄筋屋さん、型枠屋さん、コンクリート屋さん。その後も電気、設備、内装と続きます。それぞれ専門が違う人たちをリレーのようにつないでいくんです。
─現場監督自身が建物を造るわけではないと。
そうです。専門の仕事は専門業者さんがします。現場監督は「次はこの人」「ここまでにこの仕事を終わらせよう」と全体を見ながら段取りしていく。建築、電気、設備の工事がぶつからないように調整するのも大事な仕事です。

─それらを、どうやって管理するのか。
中心になるのが施工図です。設計図をもとに、CADという製図ソフトを使って、縦横や高さ、厚みなど細かい寸法まで入れていきます。実際に現場でどう造るのかを具体的にした図面です。
60の業者がそれぞれ違う方向を向いていたら、建物は完成しません。でも施工図を見れば、自分がどこで何をすればいいのか分かる。みんなが同じ目的地へ向かうための「地図」みたいなものですね。
─かなり難しそうだが。
最初から全部できる人なんていませんよ。大事なのは段取りする力、先を読む力、人と話す力。でも、これは現場を経験しながら身につけていけばいいんです。
─社長自身も最初から現場監督だった。
入社した初日から現場でした。もちろん先輩監督について、手伝うところからです。
初日は雨の日でした。基礎を造るために掘ったところに水がいっぱいたまっていて、職人さんから「この水を抜いてくれんと仕事できへん」と言われたんです。それでポンプを抱えて中に入って、泥だらけになりながら水を抜きました。「現場監督って初日からこんなことするんや」と思いましたよ(笑)。
─そこから12年、現場監督一筋だった。
鉄筋コンクリート造のマンションを中心にやらせてもらいました。現場を経験するたびに、自分も成長しましたし、自分の下についたスタッフが育っていくことも面白くなっていきました。
─会社員として充実していたのに、なぜ独立を。
大きかったのは阪神・淡路大震災ですね。震災後、知人から「建物を直してほしい」と頼まれたんです。でも会社からは「そういう仕事は受けるな」と言われました。
会社には会社の仕事がありますから、言っていることは分かります。でも、目の前に困っている人がいて、自分には直せる技術がある。それなのに助けられないことが、どうしても引っ掛かったんです。
─つまり、何かビジョンがあって独立したわけではない。
そんな格好いいものじゃないですよ(笑)。頼ってくれた人に自分の判断で応えられるようになりたかった。それが大きかったですね。
─独立後は、さまざまな工事を請け負った。
最初は仕事を選べませんから、リフォームでも修理でも、頼まれた仕事は何でもやりました。でも会社が大きくなるにつれて、人をどう育てるかを考えるようになったんです。
─現在はRC造マンション一本に特化している。
いろんな建物を造る方が、会社としては仕事の幅が広がるように見えます。でも、人を育てるという意味では、実は逆だったんです。
以前、若い社員を連れて知人が建てた美術館を見に行ったことがあります。僕は「この仕上げすごいな」と思ったんですが、若い子には何がすごいのかが分からない。この時ハッとしました。マンションの次は店舗、その次は公共施設と毎回違うことをやると覚えることが多すぎて、成長に時間がかかると気付いたんです。
─だから仕事を絞った。
同じ種類の建物を繰り返した方が若い人も一つずつ覚えられます。そして「昨年はできなかったことが、今年はできるようになった」と成長も見える。人を育てるために、仕事を絞ったんです。
─その延長線上に「現場監督養成道場」がある。
そうですね。建設業界はずっと「人が足りない」と言っています。でも求人を見ると、経験者を探している会社が多い。経験者はどこも欲しがるので簡単には来てくれません。だから、未経験の人を一から育てる仕組みをつくった方がいいんじゃないか、それなら僕たちにもできると思ったんです。

─貫山建設は今のところ、人材に困っていないようだが。
うちに入ってもらうことだけが目的ではないんです。だから道場も無料で開いています。まず、現場監督という仕事を若い人に知ってほしい。高校生や大学生、第二新卒の人たちが「こんな仕事もあるんや」と思ってくれたら、それだけでも意味があります。
─道場では何を学ぶのか。
まずCADを使って図面を描くところからです。図面が描けるようになると、仕事の見え方が変わってきます。
従来は渡された図面通りに造るだけだった仕事が、自分で図面を描けるようになると、必要な材料の量や、費用まで考えられるようになり、相手に見積もりも出せるようになる。
つまり、ただ言われた仕事をするだけではなく、自分から提案できるようになる。将来独立するときにも役に立つでしょう。CADは一つの技術ですが、CADを身につけると、その先にいろんな世界が広がるんです。
─現場監督にならなくても役に立ちそうだ。
そう思います。現場監督になってもいいし、身につけた力を別の仕事で生かしてもいい。図面を描いて、数量を考えて、見積もりを作って、段取りを組む。商売をする上でも役に立つ力です。
─現場監督の仕事自体は、経営者に近い仕事に見える。
そうですね。うちの場合、一人の所長に一つのマンションを任せます。工事費は8〜9億円くらいです。その中で約60の業者さんと仕事をして、工程、品質、お金を管理しながら完成に持っていきます。
人も、お金も、時間も全部見る。若いうちからこんな経験ができる仕事はなかなかないと思いますよ。
─保護者の立場から見ても、将来につながる力が身につく仕事といえそうだ。
そうですね。現場監督という名前だけ聞くと、何をする仕事か分からないと思います。でも実際には人と話し、考え、先を読み、みんなをまとめる仕事です。どんな仕事をするにしても無駄にはならない力だと思います。
─道場を通じて社長は何を実現したいのか。
建物は一人では造れません。人と人をつなげる人が絶対に必要です。その役割を担える若い人を一人でも多く育てたい。次の世代、そのまた次の世代へと、技術や思いをつないでいけたらうれしいですね。

【貫山建設 企業概要】
関西を中心にRC造のワンルームマンション建設に特化する建設会社。「人材は会社にとって一番の財産」と考え、社員教育にも力を注ぐ。未経験から現場で活躍できる人材を育てる「現場監督養成道場」を立ち上げ、ベテラン社員が建築の基礎知識やCADによる図面作成、実務研修などを指導。若い世代に建設業の仕事の魅力を伝え、業界の人手不足解消にもつなげようとしている。
■株式会社 貫山建設/大阪府枚方市岡東町14−16 第8松葉ビル201号室/設立1999年8月2日/電話072(841)6422
