新極真会・阪本師範の〝強育〟コラム
「子どもがいうことを聞かない」「ほめ方、叱り方がわからない」。道場をやっていると、お母さん方からよくこんな相談を受けます。
最近は「怒る」と「叱る」がごっちゃになってしまっている人が多いように感じます。子どもは突発的に、事故になりそうな危ない行動をしてしまうものです。その都度、怒鳴ってばかりいると、子どもは怒られることに慣れ、響かなくなってしまいます。
では「怒る」を「叱る」に変える方法について、わかりやすく事例で説明しましょう。
例えば、廊下を走っている子どもがいたとします。突発的な出来事に「こら! 走ったらあかん」と注意するはずです。しかし、これだけで終わると、ただ怒っただけです。「怒る」を「叱る」に変えるには続きがあります。
「こら! 走ったらあかん」の後に「ちょっとこっちに来なさい」と呼び止めます。そして、何がダメなのかをきちんと伝えるのです。
「走ることがあかんのではなく、どこで走るかを考えようよ。もし、教室から急に人が出てきたらどうする。ぶつかって相手にけがをさせてしまうし、君もけがをしてしまうで。廊下が濡れていたら、転んでけがをすることもあるやろうし。そういう安全を考えず、廊下は走る場所ではないよ」
さらに、その後が重要なポイントです。「わかったかな?」と子どもに問いかけて「はい」で終わらせるのです。一方的に注意だけをして終わらせてはいけません。
ときどき、面倒そうに空返事の「はい」を言う子もいるでしょう。そんなときは「先生、何て言ったかな?」と問いかけます。子どもに言わせることで、理解しているかどうかが確認できます。そして二度目の「はい」を言わせるのです。
こうして子どもの記憶の中に「なぜダメなのか」が刷り込まれます。相手に迷惑をかける、自分もけがをする、だから廊下を走るのはダメ。
人間は忘れる動物なので、また同じ過ちを犯してしまうこともあります。だからこそ、正しい行動に変わったときに「できるようになったね」「上手になったね」と褒めてあげられるのです。
そうです。「叱る」と「ほめる」はセットなのです。「叱る」があって初めて「ほめる」の導線ができる。「ほめて伸ばす」は、できなかったことができるようになったのをほめることです。こうすれば「お父さん、お母さんは、ちゃんと自分を見てくれている」と信頼関係が築けます。
反対に「ほめて伸ばす」を表面だけで捉え、「ほめる」が「おだてる」になっている人をよく見かけます。おだて過ぎると、相手に屈折した自信を与えてしまい、人を見下したり馬鹿にしたり、承認欲求の塊になってしまいます。
子どもがいけないことをしていたら、瞬間的に怒るのは仕方ない。しかし、「怒る」を「叱る」に発展させるには、怒った後こそが大事です。
躾(しつけ)とは「身」を「美」しくと書きます。わが子に汚い服を着せ、汚い靴で歩かせないでしょう。心を美しくもこれと同じ。この感覚があなたの根っこにあれば、「叱る」は難しいことではありません。
昔は3世代で同居し、近所付き合いも濃く、縦と横のつながりがありました。親に怒られた子は近所の人から「お父さんが本当に言いたかったのは、こういうことやと思うで」とフォローしてもらえました。しかし、今は親の価値観だけで育てなければいけない状況に追い込まれています。子育てに限らず、大人の社会でも「叱り方」「ほめ方」がわからない人が増えているように感じます。
だからこそ、私は読者のみなさんの近所の人になりたいと思っています。私の道場は門下生が600人。数多くの相談に乗ってきました。悩みのある読者の方は、ぜひ日日新聞までお寄せください。
※阪本師範に質問のある読者は、本紙までメールか手紙でお寄せください。紙面で解決方法を紹介します。
■阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル
1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。