大阪府・大阪市が進める、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画が全国で初めて認定された。大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」では2025年に「大阪・関西万博」、30年に大阪IRの開業と巨大開発が目白押し。大阪IRは、MICE、観光、宿泊、エンターテイメントなどの各分野で豊富な実績を持つ協力会社とともに「世界最高水準を目指す」とし、関西経済のけん引役としての期待は高い。
関西経済への波及効果は絶大
大阪IRの開業は2030年前半を予定している。事業者の一つである「МGМリゾーツ・インターナショナル」が5月1日(米国時間)に開いた決算会見でビル・ホーンバックルCEОが明らかにした。夢洲にカジノ施設や国際会議場などをつくり、年間の来訪者数は約2000万人を見込む。計画が認定されたことで、カジノ免許付与などの手続きが進めば、日本で初めてのカジノ施設となる。
大阪IRは米МGМ日本法人、オリックスなどで構成する「大阪IR株式会社」が運営を担う。同社や大阪府・市が政府に提出したIRの整備計画によると、建設関連などの初期投資額はUSJの7倍の約1兆800億円。開業後の年間売上高は約5200億円、近畿圏での経済波及効果は年間1兆1400億円、雇用は1万5000人が見込まれ、巨額投資は関西経済の押し上げにつながる。
大阪府の吉村洋文知事は「大阪IRが正式に国から認定された。カジノ部分は厳格なルールを適用し、世界最高水準のIRを目指す」と発信している。
延伸計画に加え、駅もリニューアル
同地へは大阪メトロ中央線がコスモスクエア駅から延伸され、24年度に「夢洲駅(仮称)」が新設される。メトロ以外の鉄道会社においても、IRの誘致が決定したことで、夢洲方面への延伸計画の再検討が進みそうだ。
JR西日本は25年春の万博開幕前に「弁天町」駅をリニューアルする予定。新たな駅舎と改札口、ホーム柵を整備。新駅舎にはエレベーター2基やエスカレーター上下4基を設置し、バリアフリー機能を向上させる。大阪メトロ中央線と段差なくフラットに移動できる乗り換え連絡通路も整備する。新たな駅舎は交通科学博物館跡地の一部を活用して建設されるが、その他の開発にも期待がかかる。
モデルはシンガポール
大阪IRは10年に開業したシンガポールをモデルに観光消費や民間投資を取り込む。シンガポールのIRは有名なMarina Bay Sandsホテルやミュージアム、大型コンベンションセンター、ショッピングモールやレストラン、広大な屋外パークエリアなどがあり、カジノは一部分に過ぎない。
CNAなど海外メディアの番組制作に携わり、シンガポール事情にも詳しい岡野健将氏は「ホテルは最高級クラスでショッピングセンター内に出店しているのは高級ブランド店やフェラーリ、アメックスなど。海外富裕層や外資系投資ファンドなどがどんどん物件を購入するので不動産価格は上がり続けている」と解説する。
マンション市場に追い風
IR認定を受け、活況を呈しているのが大阪市内のマンション市場だ。大阪市内中心部の新築タワーマンションの販売担当者によると「年度末の駆け込み需要が高まる3月に比べて4月は例年閑散期だが、今年に限っては3月よりも客足が伸びている。IR認定の報道以降、特に海外勢の購入意欲が増したと感じている」と話す。
市内のタワーマンション事情に詳しい「TOWERZギャラリー御堂筋本店」の芝崎健一氏も「万博に加えてIRが決まったことで大阪に世界中から投資マネーが集まってくる。新築・中古を問わずマンション価格はまだまだ上昇するのではないか」と先高感を強調する。
専門家は弁天町推し
芝崎氏が「これからさらに値上がりが期待できるポテンシャルを秘めたエリア」として注目するのが大阪のベイエリア・港区だ。「IRで約1万5000人の雇用が生まれると当然、住む場所が必要になる。しかし、夢洲や咲洲、舞洲ではスーパーなどの買い物施設が極端に少ない。大阪市内中心部はもちろん生活に便利だが夢洲まで時間がかかる。となると、港区、中でも弁天町が夢洲や大阪駅、本町駅にも乗り換えなしでアクセスでき、買い物施設も多く、快適な住環境が整っている。弁天町の価値が上がる可能性は非常に高い」と分析する。
大阪国税局が昨年7月に公表した令和4年分の路線価で大阪市港区弁天1丁目の中央大通がプラス3・4%で府内の上昇率トップ、近畿2府4県でも3番目の上昇率となり、ベイエリアの開発への期待感が価格を押し上げている。「弁天町」駅近くでは京阪電鉄不動産が販売する地上29階建てのタワーマンションが今年1月に完成したばかり。同社マンション事業部の担当者は「万博、IRをきっかけにベイエリアに注目が集まっている。弁天町はJRとメトロの結節点で、夢洲にも都心にもダイレクトにアクセスできることが評価されている」と話している。