日本三景・天橋立を有する京都府宮津市は、全国有数の観光地でありながら、観光客の約8割が日帰りという課題を抱えている。こうした課題に対応するため、市は「食」の魅力を再構築し、滞在型観光を促すガストロノミーツーリズムに力を入れている。その一環として、「神が育んだ奇跡の海」と称される豊かな漁場を活かした取り組み、「漁師体験(定置網漁)」を取材した。

朝焼けの海へ!
夜明け前、宮津市の漁港に到着。空はまだ暗く、深い闇を帯びた海に漁船がひっそりと浮かんでいる。受付を済ませて救命胴衣を身につけ、出航する頃には空が茜色に染まり始めていた。


エンジン音とともに、船は沖へと向かう。漁場に到着すると、少し離れた場所にもう一隻の漁船が浮かんでいた。「定置網漁」は、二隻の船が連携して仕掛けた網を巻き上げ、魚を引き上げる漁法だ。ここでは漁師さんと一緒に網を巻く体験ができる。船同士の距離が次第に縮まり、網にかかった魚たちが海上へと押し上げられていく。朝の光を浴びた魚は、水しぶきを散らしながらピチピチと跳ね回る。小魚を狙うカモメも集まり、漁場は一気に賑やかになる。そして、大きなタモ網で魚群をすくうと、勢いよく船内の水槽に流し込まれていく。目の前で繰り広げられる一連の作業は、臨場感に満ち、迫力満点だ。


「ほら、写真撮ってみ」と大きな魚を手渡してくれる漁師さん。さらに、「コバンザメや」と手のひらに吸いつく様子を見せてくれたり、「石みたいにカチカチやで」とハコフグを渡してくれたりするなど、漁師さんとのやりとりも楽しい。網にはマダイ、サワラ、カワハギ、ノドグロ、マイワシ、シイラなどさまざまな魚がかかる。この日はマンボウも網にかかり、珍客はそっと海へと帰されていった。




ガストロノミーツーリズムとは?
「ガストロノミーツーリズム」とは、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズムである。単なる食べ歩きではなく、地域の背景や人とのつながりを感じながら、より深い体験ができるのが特徴だ。
今回の定置網体験も、その一つとして「養老漁業株式会社」が実施しており、料金は大人2500円、中学生以下は1500円。出航は朝早く、夏季は午前4時30分、冬季は午前6時30分。参加日の3日前までに予約が必要で、天候や海の状況によっては中止となる場合もある。
体験を終えた後、立ち寄った飲食店で「これは目の前で水揚げされた魚かも…」と心が躍った。宮津ならではの非日常的な体験は大人も子どもも楽しめる、朝は早いが、その価値は十分にある。