【外から見た日本】シリコンバレーバンクの倒産劇の裏側で…

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏

 3月11日、米ニューヨークに住む知人からメールが届き、シリコンバレーバンク(SVB)が倒産したことと、それに伴う混乱について知る機会があった。

 情報が世界同時発信で広まっていく現代は、昔のようにメディアに出る前に速報的な現地情報を得ることは少なくなったが、現地の事情や反応などの詳細についてはやはり、現場の人から教えてもらうことに価値はありそうに思う。

 11日の段階では、銀行の倒産で取り付け騒ぎが起こりそうになっていて、預金者などはかなりパニックになっているということがわかったが、週末の間に連邦政府が預金を全額保証する特別対応を発表。担当者を現地に派遣して対応に当たらせたお陰で、週明けの月曜日に混乱を引き起こすことはなかった。

 米国では銀行であっても時々倒産するし、M&Aも頻繁に行われている。私が口座を持っている銀行も、過去20年ほどの間に3回も名前が変わった。

 SVBがなぜ倒産したかという理由は他メディアが論じるだろうから、私はSVB救済の裏側を見ていきたい。SVBはその名の通り、米カリフォルニア州のシリコンバレーにある銀行。取引先に多くのスタートアップ企業を持つのが特徴だ。リーマンショックのような大手銀行の倒産でもないのに、連邦政府が早々に支援を発表したのは、金融危機の再来を引き起こさないためでもあるが、こうした創業間もない多くのベンチャー企業を守るためでもある。SVBの倒産で彼らの預金が凍結されたり、融資が滞ってしまったりすると連鎖倒産しかねない。しかも、こうしたベンチャー企業は次世代のビジネスを産み出すテクノロジーやIT、生命科学やバイオなどに取り組んでいるため、将来有望な分野で遅れを取ってしまう。そう、SVBはスタートアップ企業に融資することで、実は未来に投資をしていたのだ。

 この部分を高く評価した英国の銀行HSBCは、SVB のイギリスでの業務を1ポンドで買収している。同社は英国の財務省を巻き込んでSVB UKと話し合い、SVBの資産や負債を含まないオペーレション部分だけを買収した。結果、SVB UKに資金を預ける企業や個人はこれまでと全く変わりなく銀行のサービスを利用することが可能になった。

 リスクを取って他行との差別化を図り、倒産してしまうことになったSVBだが、その取引先のユニークさ故に、すぐに救いの手が差し伸べられる結果となっている。

 日本のニュースでも伝えられているように「SVB規模の銀行による倒産が、世界的な金融危機に繋がることはない」ということだが、コトの中身を見ると「この銀行を倒産させてしまうと、将来的に世の中を変えたかもしれない企業の芽を摘んでしまうかもしれない」という背景が見える。

 また、スタートアップ企業が預金の凍結で出遅れれば、将来的に大きな経済的損失を被るかもしれない。そんな事情もあったのか、今回の連邦政府の対応は非常に迅速で的確だった。日本の銀行も選択と集中が迫られる中で、地方銀行が合併を繰り返しているが、果たしてそれが生き残りのための優位性を生んでいるのかは疑問だ。

【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。