Spyce Media LLC 代表 岡野 健将
米大統領選について先月(10月26日号)、「トランプの圧勝」と書きましたが、予想通りでした。
CNNなどの米主要メディアは左派リベラルが中心で、その左派メディアの情報を垂れ流す日本メディアを信じた人には予想外かもしれませんが、情報をしっかり精査していればトランプ圧勝は当然でした。
今回の選挙で大きな役割を果たしたのは主要メディアではなくSNS。特にイーロン・マスクのXです。2020年のトランプVSバイデンの選挙では、ツイッターがトランプ批判を積極的に掲載していましたが、マスクがツイッターを買収した後のXでは、言論統制がなくなりました。Xで発信された大量の情報が有権者に届けられた結果、多くの人がトランプのメッセージに感化されました。
トランプが大統領になったら「民主主義が破壊される」「温暖化が進行する」「経済がダメになる」と声高に叫ばれていますが、そんなことはありません。
良くも悪くも彼はビジネスマン。ワシントンDCで生きてきた政治家ではないので損得勘定で行動します。政治的イデオロギーなどはなく、他の政治家のように評判など全く気にしません。彼の理論や思考は支離滅裂かもしれませんが、少なくとも16年から4年間、米大統領として職務を遂行し、その間の経済は順調に推移。戦争もなく、民主主義も壊しかけたかもしれませんが、まだ機能しています。
そして今回はスーザン・ワイルズという優秀な主席補佐官がついたので、前政権時ほど混乱したり、暴走したりはしないでしょう。
とはいえ、2期目のトランプは再選を気にする必要がなく、両院を共和党が抑えたので、やりたい政策は何でも出来てしまう状況です。
不法移民の強制退去を強行したり、ウクライナに負担を負わせてでも戦争を終わらせたり、高率の関税をかけたり、パリ条約やNATOから脱退したり、連邦予算を劇的に削減したり…。他にも選挙中は反対していた日本製鐵のUSスチールの買収を認めたりもするでしょう。
ゼレンスキー大統領は事態を想定し、ロシア領内へ攻め入ってロシア領の一部を占領し、交渉の材料にしようとしていたはずですし、トヨタやTSMCは既に米国内に工場を新設しています。
しかし、選挙公約を全て実現するかは別問題。インフレがすぐに収まる確証はなく、戦争がすぐに集結する可能性も高くはないでしょう。かつて「Read my lips. No new tax」といって増税したブッシュや「Change! Yes, we can」と言って何も変わらなかったオバマなどの例しかり。
トランプ勝利で株価は急上昇し、仮想通貨も爆上げ。最初の3日程度で70以上の国や地域の元首と電話会談をこなし、突飛な人選をしたり、あちこちに無言のプレッシャーをかけています。何をするかわからない、と思われているからこそ、バイデン政権で出来なかったことも実現できるでしょう。もし、カマラ・ハリスだったらここまで市場が歓迎し、世界のリーダーが連絡をしてきたでしょうか?
今回の大統領選で大手メディアの情報操作に翻弄された情報弱者の人たちは、今後ますます大変な時代を生きることになります。届いた情報を鵜呑みにせず、自らの頭で考え判断しないと予想外の結果に驚き、戸惑うことになります。
そして悲しいことに、今回トランプを支持した黒人やヒスパニック、低学歴層、そして低所得層がトランプに期待していることの多くが実現されないであろうことも想像出来てしまいます。なぜならトランプにとって彼らの存在は見えているようで見ていないからです。
トランプ当選後、株や金などが上昇し、投資家は確実に資産を増やしていますが、労働者たちはまだ何も手にしていません。そして今後4年間で、差は開くことはあっても縮まることはないでしょう。