7月にパンや小麦、乳製品など3500品余の値上げがあったが、昨秋から春先にピークと言われた物価上昇の勢いはまだ終わりそうもない。10月にはさらにお酒など5千品目の値上げの大波が襲ってくる。
こうした状況にもかかわらず、政府はコロナ禍とウクライナ侵攻、円安による原油高への対策で行ってきた電気・ガス代とガソリン・軽油などの補助金を止める。まるで、物価が上昇し続けているから、こっそり補助金を止めても有権者に気づかれないだろうと言わんばかりだ。今、霞ヶ関で何が起きているのか。
その裏側をのぞいてみた。
〝原発大国〟関電は 値上げ不要か?
電気・ガスとガソリンは原油値と為替次第
減税阻止するためなら、青天井で補助金支給し続ける財務省
10月、北と南で電気代急騰
電気とガス代は究極のインフラだから、電力会社が勝手に値上げすることは認められていない。経産省の許可が必要になってくる。
こうしたルールがある中、経産省は4~6月実施で関西、九州、中部をのぞく電力大手7社が要望していた最大40%の値上げを認めた。理由は、ウクライナ侵攻でエネルギーの価格が高騰しており、天然ガスは2・5倍、石炭は5倍になっているからだ。加えて、円安によって海外からのエネルギー資源の調達が高騰するダブルパンチをくらっている。
国は「電気・ガス価格激変緩和対策事業」費として3兆円超を計上。早い地域だと今年1月から平均的な家庭で月額1600~1800円が電気代から割り引かれる形でスタートした。現在は、電気代2800円、ガス代900円程度が補助されている。しかし、この補助金はすべて9月に半減され、10月からはゼロになる。
補助金が無くなると、電気代の地域格差が相当開く。実は読者のみなさんが住むエリアの関西電力が大手10社の中では最も安い。補助金が切られた後にその関電が月額9200円だと想定すると、九州電力がほぼ同額。中部電力が約1万円。値上げした他の7社は軒並み桁違いに高い。東京電力、四国電力、北陸電力が1万3000円台、東北電力、中国電力は1万4000円台、最も高い北海道電力と沖縄電力は1万6000円台になりそうだ。
関電は今年、最高益見込む
関電も今年4月に電気代を値上げしたが、一般家庭で1・5%の100円前後、事業所で0・8%の230円程度と微々たる額。しかも値上げの理由は、太陽光などの再生可能エネルギーを拡大するために送配電網の設備を充実させることや、託送料の負担が増えることに伴うものだから、エネルギー資源の高騰で大幅に値上げしている7社とは中身が違う。
ところで関電はなぜ一番安いのか? その理由は、原発稼働率が大手10社の中で最多の7割まで回復しており、火力などの比率が低いからだ。昨年の業績予想も、当初は2000億円の赤字を見込んでいたが、途中で赤字幅を500億円に圧縮して上方修正。結果的に売上高は前年より38・6%増え、3兆9518億円と過去最高額に達し、8年ぶりの赤字は66億円まで圧縮できた。
今年の業績見通しはさらに良く、売上高・営業利益・経常利益・最終利益がすべて過去最高で4250億円の黒字見込みであり、値上げの必要性は全くない。関電エリアに住む私たちはホッと一安心だ。
暫定税死守へ 補助金でごまかし
さて、話を「補助金打ち切り」に戻そう。ガソリンをはじめとする石油燃料代も価格の基本構造は電気代と同じだ。OPEC(石油輸出国機構)の原油価格と円安で上がっている。
だが、「それなら仕方がない」と思わないでほしい。実はガソリン1㍑には揮発油税など計56・6円の税金が課せられている。これに本来の石油価格を合わせた額がガソリン価格として売られているのだが、その価格にさらに消費税10%が乗せられている。つまり、税金に税金を掛けるというめちゃくちゃな発想がまかり通っているのが現状であり、タバコ税もこれと同じ構造になっている。
財務省は税金を「取りやすいところから取る」のが基本姿勢。消費者が政権与党に怒らないから官僚のやりたい放題が許されてしまっているわけだ。
そもそもガソリン税56・6円の中身に、25・1円の暫定税率というものがあるが、実はトリガー条項というただし書きがある。3カ月連続でガソリン代1㍑160円を超えると、このトリガーが発動し、25・1円の税金が撤廃されるというものだ。
ところが、財務省はさまざまな言い訳でこれを拒否し続けている。代わりに石油元売り各社に「燃料油・価格激変緩和対象事業」として補助金を出し、ごまかしてきた。
昨年1月から1㍑168円を超えると、価格によって異なるが最高1㍑35円まで出し、すでにその総額は6兆円を上回っている。しかも、財務省は今年6月以降は補助金を2週間ごとに1割ずつ目立たないよう削減し始めており、それがゼロになるのが9月末というわけだ。
財務省 経産省の綱引き
国の2022年一般会計税収は71兆円台と3年連続で過去最高。消費税だけでなく所得税、法人税も全て増えた。物価が上がり、所得も増えインフレに向かうと税収は当然増えるから財務省は補助金カットと合わせニンマリだ。
一方で日本は、4月のG7環境大臣会合で「35年の温暖化ガス排出を19年と比べ60%削減」を約束させられた。これはかつて菅政権が「30年に、13年比で46%削減」を唱った中身と改めて照らし合わせると、「35年に65・6%削減」実現を意味する。かなりハードルは高い。
産業界を所管する経産省はすでに予算化へ動いており、二酸化炭素を出さない水素やアンモニアの活用、北海道・東北での大型洋上風力発電実用化、北海道から首都圏までの海底送電ケーブル敷設、リチウムイオン電池の整備拡大、次世代原発開発着手と矢継ぎ早に手を打ち、予算措置へ動いている。
同省は「将来の石油依存体質を脱却しないと日本の明日は暗い」と強い危機感を抱いており、欧米に比べすでに遅れを取っている「電力消費時間の平準化」へ、蓄電池や高性能電池の開発に本気モードで急いでいる。
政治家のご機嫌取り策で、今春の統一地方選をにらみ補助金バラマキで有権者の目をごまかした財務省と、次世代への技術開発への投資を急ぐ経産省。予算をめぐる長い戦いの歴史は、われわれ有権者がそっぽを向いている限り、またも繰り返され続いて行く。