政府「年収の壁」制度見直しへ 独身者や自営業者は〝対象外〟で「公平性に欠ける」

 年収が一定額を超えると配偶者控除の対象外となり、社会保険料の負担が生じて手取りが減る「年収の壁」を巡り、岸田文雄首相は、3月17日の記者会見で「被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援などをまず導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と表明した。壁を越えて長く働くことで生じる従業員の保険料負担を肩代わりする企業に助成金を出す考えだ。政府が負担の一部を軽減することで、壁を意識せずに働ける環境を整備する。ただ、独身者や自営業者が対象外となる場合は、「公平性に欠ける」との指摘が出そうだ。

気兼ねなく、働ける制度整備へ
パート、企業が「ウィンウィンの関係」目指して

手取りがダウンするボーダーライン

 働きたい人が気兼ねなく働ける制度の整備が急がれる。「年収の壁」は、勤務先の企業の規模により配偶者に扶養された人の年収が106万円(従業員が100人未満の企業などでは130万円)や130万円を超えると扶養対象から外れ、厚生年金や健康保険などの保険料を自ら負担することになり、手取りが減るジレンマに陥っている。

人手不足感8割

 帝国データーバンクによると、パートなど非正規労働者の人手不足を実感している企業(1月時点)は31.0%。なかでも旅館・ホテルや飲食店などパートが多い事業所では8割を超えている。そんな中、これまではパートの時給を上げても「年収の壁」があるため働く時間を短くする調整が行われていた。

 パート従業員が在籍する企業経営者らは「『働き損』とならないよう、〝壁の手前〟で就業調整が行われ、人手不足につながっている」と指摘する。

 今回の政府の改革は長く働きたい人が年収を気にせずに働き、企業の人手不足解消にもつなげる双方がウィンウィンの関係が期待される。

独身者への公平性は?

 政府は、パート従業員への健康保険・厚生年金保険の適用拡大を進めている。2022年10月からは、従業員数101人以上規模の企業へ、24年10月からは、従業員51人以上規模の企業へ適用されることが決まっている。ただ、22年10月に適用拡大された際には、「退職者が続出する例も多く見られた」(中小企業経営者)など、社会保険の適用拡大は、手取り年収へ大きく影響している。

 岸田首相は、3月17日の記者会見で「いわゆる106・130万円の壁によって、働く時間を希望通り伸ばすことをためらう方がいると、結果として世帯の所得が増えない」と指摘。その上で、「働き損」とならないためには「新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援などをまず導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と強調している。

 今回の助成措置の対象者は、結婚して配偶者の扶養に入っている人を想定。扶養に入らずに働いている独身の人や自営業者が対象外となる場合は、「公平性に欠ける」との指摘が出てきそうだ。