巨大帆で走り水素を生む船や無人農業ロボも 未来社会の姿を描く15アトラクションが集結 万博「未来の都市館」取材ルポ

 万博会場の西の端、海の側に立っている横長の白い建物が「未来の都市パビリオン」。

未来の都市、万博

 何度も横を通っていてもなかなか入るチャンスがなかったが、やっと念願かなって館内を巡る機会を得た。対応してくれたスタッフは、皆が親切で、説明が上手だったので、あっという間に2時間半近くが過ぎてしまった。

 館内は大きく分けると、3つに分かれていて、その中に15のアトラクションが展開されている。

未来の都市、万博

 館内に入ってすぐの場所は、広めの通路になっていて、両サイドの壁に映像が投影されている。そこで「Society1.0」から「Society5.0」まで人間の文明が進化していく過程を紹介しているのだ。

未来の都市、万博

未来の都市、万博

未来の都市、万博

未来の都市、万博

未来の都市、万博

 この最後の「Society5.0」は、未来の社会のことで、「Society5.0の社会はこんな世界」ということを最後のエリアで各企業が表現しているという構成になっている。

 2つ目のエリアでは、未来の生活を覗き見するように、自宅での家族との団欒や、在宅で受けられる医療サービスなど、日常の様子の未来版をCG映像で伝えている。

未来の都市、万博

 その隣には未来の都市は、各自の選択肢によって変わっていく、という内容のシミュレーションを体験できるシアターがある。参加者がほかの参加者と協力して社会課題を解決しながら進んでいくゲーム感覚の体験ができる。

 最後のエリアでは、10社がそれぞれに独自のスペースにデモ機やコンセプトモデルなどを展示したり、ゲーム感覚で参加して体験できるプログラムを用意している。
 その中からいくつか例を挙げて紹介する。

 「KAWASAKI」は、未来の移動手段を展示していて、人が乗った箱型の乗り物が、車や電車、飛行機などのさまざまな交通機関の間を箱型の乗り物ごと移動していくというもの。

未来の都市、万博

 乗っている人は目的地に到着するまで、箱型の乗り物から降りることなく、違う交通機関を経由しても移動できるという究極の横着を叶えてくれるもの。高齢化が進む日本では移動が難しい人も増えると考えると必要なサービスなのかもしれない。

未来の都市、万博

未来の都市、万博

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 ただ実用化となると、社会環境ごと整えないといけないのでまだ相当な年数がかかるそうだ。

未来の都市、万博

 「商船三井」が展示していたのは伸縮自在の帆の様なものを備えた船「ウィンドハンター」。

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 風力を生かして海上を移動しながら、そのスピードのエネルギーを使って水中にあるスクリューを回転させて発電し、その電力で水を分解して水素を生成する、という完全循環型の自然エネルギーシステムだ。

未来の都市、万博

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 船内のタンクに溜まった水素がいっぱいになると港へ戻り、水素を基地のタンクへ移し、また海上へ出ていくという。

 全長230メートル、全幅60メートル、帆の高さ90メートルの巨大な船は、現在一隻だけ実在していて、テスト航行をしているそうだ。2030年代の実用化を目指していて、船自体の技術は確立されているが、後は製造コストをどう抑えるかや水素の安定輸送などが課題。

 共同出展している「青木あすなろ建設」と「コマツ」は、無人遠隔操縦型の重機のモデルを展示。海面下250メートルまで潜って作業することを目指しているという。

未来の都市、万博

 現存するものは、1970年の大阪万博の翌年に誕生した水陸両用ブルドーザーの改良版で、今回はそこから水中施工ロボットに進化させたもの。

 既存の水陸両用ブルドーザーは、ディーゼルエンジンで駆動しているため、排ガスを排出する必要があるので、水深7メートル程度しか潜ることができない。水中施工ロボットはその問題を解決するために電気で動く仕組みを考え、深く潜っても作業ができるものを目指している。ただ現状では、まだ完成の目処は立っておらず、水中での遠隔操作に越えなければならない技術的課題があるようだ。

 「JAMSTEC(海洋研究開発機構)」の深海艇のコントロール技術などを応用すれば課題は解決できるのではないかと思うが、実際はどうなのだろう。

 「KUBOTA」は、未来の耕運機の進化版の開発に取り組んでいて、1台であらゆる農作業がこなせる万能のマシン、未来の農業ロボットを開発中。
 展示されていた「Typr-V」というモデルは、農業機械の枠に収まらない、これまでにない完全無人プラットフォームロボットだ。

未来の都市、万博

 作物の間隔や生育状況、作業内容に応じて車体の高さや幅などを変えることができ、各作業に適した作業パーツを自動で付け替えることで、1台で多くの用途に使用することが可能になるというもの。例えば田んぼを耕したり、除草したり、稲刈りしたいということを「Type-V」一台でこなしてしまうという。


 完全自動運転なので、プログラムした作業を指示するだけで最後まで人間の手を加えずに行ってくれるという優れもの。また、タイヤに横向きの回転機能を加えることで田んぼや畑の中の狭いスペースでも、その場で回転して向きを変えられる。

未来の都市、万博

 「Type-S」というモデルは、4本の脚を柔軟に曲げ伸ばしすることで、果樹園などの傾斜地や凹凸のある地形でも機体を水平に保ちながらの移動が可能で、荷物の運搬や高精度の管理作業ができる。

未来の都市、万博

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 ロボットアームなどさまざまなアタッチメントを開発することにより、荷物の運搬だけでなく農業の枠にもとどまらない多様な用途に対応可能にすることを目指しているそうだ。

未来の都市、万博

 「KUBOTA」の展示スペースの中心は、全長20m超の天幕と前面のLEDスクリーンが一体となった映像空間に展開されるCGアニメによるゲームで、参加者が協力して環境問題を解決してポイントをゲットするという未来の農業経営シミュレーションゲーム。大人から子どもまでが楽しめて、環境や農業について学べる内容になっている。

未来の都市、万博

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 ほかにも、縄文時代から現代までの食事を紹介しており、4500年前、1800年前、1300年前、430年前、200年前、100年前、60年前、現在とその変化を見ることができる。

未来の都市、万博

未来の都市、万博

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 弁当のように、当時食べられていたものを同じサイズの箱の中に並べてあるので見比べやすくなっていて、全体を見ると、4500年前の食事の方が現在の食事より健康的に見える。スタッフも多くの来場者がそうコメントしている、と語っていた。

4500年前の食事

 また、1300年前と430年前の食事があまり変わらないのに対して、200年前(江戸時代後期)の食事の豪華さはかなり際立っている。

200年前の食事

 その逆に100年前の食事は今でも普通に見かける内容で、そこには大きな変化がないようにも見受けられた。

 ここに取り上げた以外にも多数の近未来を感じられる展示や体験があるので、会場の西端というちょっと不便な場所にあるが、「未来の都市パビリオン」は訪れておくべきパビリオンの1つではないだろうか。
 また、7月19日から同パビリオンのすぐ隣の休憩スペースがBBQなどができるスペースに変身したので、館内を見た後は、海を眺めながら皆でワイワイBBQをするのも良いかも。